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侵害訴訟の脅威がなければ商標を無効化する資格はなし(そして脅威の有無は裁判中も変わる)

米国第9巡回区控訴裁判所は、当事者が商標を侵害していないとの宣言的救済を得た場合、商標の無効を追求するArticle III standing (原告適格) を有さないと結論付けた。この原告適格を満たすには関連する判決が出るまで侵害訴訟で訴えられる脅威が必要で、その驚異は具体的かつ特定化された実際のまたは差し迫った申し立てに基づくものでなければならないとしました。

判例:San Diego County Credit Union v. Citizens Equity First Credit Union, Case Nos. 21-55642; -55662; -56095; -56389 (9th Cir. Feb. 10, 2023) (Bea, Ikuta, Christen, JJ.)

類似する商標の登録の取り消しを求めTTABに申し立てが行われる

Citizens Equity First Credit Union(CEFCU)が商標登録した「CEFCU. NOT A BANK. BETTER」 の商標を登録し、さらにほぼ同一の 「NOT A BANK. BETTER」のコモンローによる非登録の商標を所有していると主張していました。その一方、2014年、San Diego County Credit Union(SDCCU)は、「IT’S NOT BIG BANK BANKING. IT’S BETTER.」という登録を取得。IT’S BETTER. “を取得。このSDCCUの登録に対して、CEFCUは、CEFCUの登録商標および主張するコモンロー商標と紛らわしいほど類似した商標だとして、商標審判委員会(the Trademark Trial & Appeal Board 、TTAB)にSDCCUの登録を取り消すよう申し立てました。

商標の取り消しリスクを背負った相手側が連邦地裁に宣言的救済を求める

TTABで自社の商標がチャレンジされたSDCCUは、その対抗としてCEFCUの登録商標およびコモンロー商標の非侵害認定、CEFCUの登録商標およびコモンロー商標の無効認定、CEFCUの商標登録が虚偽または詐欺を用いておこなわれたことの認定を求めて連邦地裁に宣言的救済(declaratory relief)を求めました。この訴訟に関して、CEFCUは、人的管轄権(personal jurisdiction)および主題管轄権(subject matter jurisdiction)の欠如を理由に訴訟の却下を申し立ていましたが失敗しました。

その理由の1つに、SDCCUは、TTABにおける取り消し手続きの過程で、CEFCUがSDCCUを商標権侵害で訴えることを危惧するようになったと連邦地裁を説得しました。次に、連邦地裁は、非侵害に関するSDCCUの略式判決申し立てと、SDCCUの不正登録に関する申し立てに対するCEFCUの略式判決申し立てを承認。当事者は、CEFCUの登録商標が無効であるという主張を棄却することで合意しました。

そして、残された問題は、CEFCUのコモンロー商標を無効とする宣言的救済を求めるSDCCUの訴因のみとなっていました。地裁における手続きはベンチ・トライアルに進み、その結果、連邦地裁はCEFCUのコモンロー商標は無効であると判断した最終判決を下し、SDCCUに弁護士報酬を与えました。その後、判決を不服としたCEFCUは控訴します。

訴訟手続の途中でも「論争(controversy)」がなくなり裁判所が問題を解決する管轄を失うことがある

控訴を審議した第9巡回区は、非侵害の主張についてSDCCUに有利な略式判決が下された後、連邦地裁はCEFCUのコモンロー商標を無効にする憲法第3条によって与えられる管轄(Article III) jurisdiction を有さないと結論付けました。

MedImmune v Genentechにおける2007年の最高裁判決および第9巡回区の判例を引用して、第9巡回区は商標権侵害に関する宣言的判決訴訟 (declaratory judgment action) において論争(controversy)が存在するかどうかを判断するために「合理的懸念」テスト (“reasonable apprehension” test) を適用しました。このテストによれば、当事者の行為が継続された場合、「(当事者が)責任を負うことになるという現実的かつ合理的な危惧」を当事者が証明した場合、当事者は非侵害の宣言的救済を求める資格を有するとされています。

第9巡回控訴裁は、CEFCUによる相手の商標に対する無効手続き、カリフォルニアで実際に混乱が生じるのは「時間の問題」であるというCEFCUの証言、SDCCUがCEFCUの商標を侵害していないということを認めないCEFCUの訴訟での立場と主張などを考慮し、訴訟が始まった当初は当事者の間に正当な論争(controversy)が存在すると判断しました。

しかし、連邦地裁が非侵害の宣言的判決(declaratory judgment of noninfringement)を下した後、SDCCUが訴訟に巻き込まえる具体的な驚異があるかという証拠が欠けていたことに、第9巡回控訴裁は注目しました。というのも、非侵害の宣言的判決が下った時点では、CEFCUが商標権侵害訴訟を起こすことをSDCCUが懸念する合理的な根拠がなかったのです。

第9巡回区は、非侵害の宣言的判決を出した時点で連邦地裁はもはやCEFCUのコモンロー商標の有効性に関する実際の「事件」または「論争」を解決しておらず、したがって、その後にこの問題に関して裁判を進めるための憲法第3条管轄権に欠いていると説明しました。同裁判所はさらに、SDCCUがCEFCUのコモンロー商標を侵害していないという宣言を得た時点で、SDCCUはCEFCUのコモンロー商標の無効化に関してそれまで持っていた個人的利害関係を失ったため、現在進行中の取消手続きは「事件」や「論争」を起こすものとしては不十分であると説明しました。

弁護士費用報酬のような問題の本質が異なるものについては地裁による再審議が必要

また、非侵害の宣言的判決を出した後に考慮された、弁護士報酬を授与する地裁の判断にも、第9巡回控訴裁は言及しました。これに関連して、第9巡回控訴裁は、連邦地裁がSDCCUの無効の主張について裁判を進める管轄権を欠いているからといって、それだけで弁護士報酬を授与する管轄権がないとは限らないと説明しました。

同裁判所は脚注で、§1117(a)の下で弁護士報酬を受け取る権利を得るためには当事者が侵害を証明しなければならないというCEFCUの「ほとんど虚偽の議論」を退けました。同裁判所は、連邦地裁が、裁判での勝利と例外的なケースの判断がない場合、SDCCUが勝訴当事者であり続けるかどうかを再評価する必要があるとの指示を与えて、地裁に差し戻しました。

参考記事:No Standing to Invalidate Trademark without Threat of Infringement Suit

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