訴訟が頻繁に起こるアメリカでも5年前までは第三者による訴訟資金提供は滅多にありませんでした。しかし、近年この市場が急速に拡大し、数億ドル(100s M)規模の市場になっており、契約違反、独禁法違反、知財訴訟などに資金を提供するファンドへの投資が増えてきています。
訴訟資金提供(litigation funding)とは?
簡単に言うと、訴訟資金提供は、第三者が申立人の訴訟費用の一部を支払う投資を行うことです。通常、このような資金提供は無償還、つまり、提供者は訴訟が成功しない場合、何も得ることができません。また、資金提供の対象は、特定された1つの訴訟である場合もあるし、1つの会社(あるいは法律事務所)が抱えている複数の訴訟がポートフォリオ化されたものである場合もあります。理論的には、被告側に対する資金提供もできますが、市場では、圧倒的に申立人(Plaintiffs)側に対する出資がほとんどです。というのも、申立人に対する訴訟資金提供というのは、大体の場合で、和解・勝訴した際に見返りがあるからです。このような仕組みから、被告側でこのような訴訟資金を第三者から調達するのはとても難しい状況になっています。
訴訟資金提供という「投資」
投資という面で訴訟資金提供を見てみると、「失敗したときの見返りが何もない」という特徴はベンチャー企業への投資にに似ていて、アプローチもベンチャー企業への投資に似ています。訴訟資金提供は、とてもリスクが高く、とても高度なdue deligence(状況に応じた適切なリスクアセスメントと投資対象の価値評価)が必要になってきます。資金提供者の多くは、自分で弁護士を雇い、訴訟のメリットやリスクを評価し、財政面での十分な分析をし、見返りに適した投資ができるか考えます。
また、資金提供者は、各案件にたいするリスクが高いので、成功した際の見返りに対して提供資金の数倍規模のリターンを求めてきます。例えば、$1Mの訴訟資金提供者は、$10M以上の損害賠償が見込める訴訟などに資金提供を行うという感じです。
実態
訴訟資金提供に関する詳しい統計はないので、詳細はわかりませんが、訴訟資金提供を行う会社の大手のほとんどが知財訴訟に関して積極的にプロモーションを行っています。知財訴訟は多くの場合、多額の賠償金が発生するので、その分、このような資金提供の市場には魅力的なのかもしれません。
問題点
訴訟資金提供は、しっかりとした対策をしないと申立人に訴訟リスクが生じる可能性があります。例えば、申立人と資金提供者の間のコミュニケーションの保護は重要です。訴訟におけるディスカバリーで開示されないように、適切な秘密保持契約(nondisclosure agreements)を結ぶ必要があります。また州によっては、資金提供を受けている当事者に対して追加の開示が義務付けれている場合もあります。また、弁護士側も新たな倫理上の責任を考慮する必要がある場合もあります。
まとめ
訴訟資金提供はすべての特許訴訟において適切だとは言えません。また、資金提供を受けた場合、たとえ訴訟に買ったとしても、賠償金の多くが資金提供者に見返りとして支払われることになるでしょう。しかし、特許権者で、適切なケースがありながら、訴訟コストを自前で賄えない、賄いたくないといった場合、訴訟資金提供を活用することは知財の有効活用という観点で手段の1つになります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Michael J. Garvin. Vorys Sater Seymour and Pease LLP (元記事を見る)