クレームで使われている用語が定義されていなかったため、不定(indefinite)となってしまいました。面白いのがこれはイタリア出願が元になっていて、訴訟ではイタリア出願の翻訳も分析されました。翻訳ミスかはわかりませんが、翻訳が絡む案件なので、内外担当者や翻訳を行っている人は一度判例を読んだ方がいいかもしれません。
要約:提案された構造が記録に裏付けられておらず、その意味が記録から合理的に確認できない場合、用語は不定となる可能性がある。
判例:IBSA INSTITUT BIOCHIMIQUE, S.A. V. TEVA PHARMACEUTICALS USA, INC.
Teva Pharmaceuticals USA, Inc. (以下「Teva」)は、IBSA Institut Biochimique, S.A.、Altergon, S.A.、およびIBSA Pharma Inc. (以下、総称して「IBSA」とする)が販売している医薬品のジェネリック版を販売しようとしました。これに対し、IBSAは、米国特許第7,723,390号(390特許)の侵害を理由にTevaをデラウェア州連邦地方裁判所に提訴しました。連邦地方裁判所は、クレームされた「半液状」(Half-Liquid)という用語が不定であったため、390号特許は無効であると判断しました。この判決を不服にIBSAは控訴。
連邦巡回控訴裁は、法的基準と本質的証拠に関する判断を淡々と検討し、本質的証拠に基づく事実認定については明らかな誤りがないかどうかを検討した結果、連邦巡回控訴裁は連邦地方裁判所の判断を支持しました。特に、連邦巡回控訴裁は、IBSAが主張していたように、“half-liquid” を “semi-liquid”と解釈することはできなかったとしました。
まず、連邦巡回控訴裁は、「Half-Liquid」の意味が特許請求の範囲から合理的に明確ではないと判断しました。次に明細書に目を向けると、連邦巡回控訴裁は、「Half-Liquid」をゲルやペーストとは別に記載している文言があり、「Half-Liquid」が必ずしもゲルやペーストではないことを示していると判断しました。しかし、IBSAの解釈では、ゲルやペーストを 「Half-Liquid」として包含していた。
次に、連邦巡回控訴裁は出願履歴を見ました。’390特許が優先権を主張していたイタリアの特許では、’390特許の「Half-Liquid」に似た表現である「semiliquido」または「semi-liquid」という言葉が使用されていたが、’390特許ではこれらの言葉が同じ意味を持つことはできないと説明した。
390特許では、特許請求の範囲に「half-liquid」と「semi-liquid」の両方の用語が使用されていた。さらに、イタリア出願の認定翻訳文と’390特許との間の言語の違いは、「half-liquid」と「semi-liquid」という言葉の選択が異なる結果、異なる範囲になることを暗示しており、この不一致が意図的であることを示唆していました。
最後に、連邦巡回控訴裁は、外部証拠に目を向けて、IBSAの専門家証人が「half-liquid」を定義することができなかったこと、および「half-liquid」という用語が技術辞書に存在しなかったことを強調しました。したがって、連邦巡回控訴裁は、記録には「half-liquid」に明確な意味が含まれていないとの連邦地裁の判断に明確な誤りはないと判断し、判決を支持しました。
解説
特殊な用語を使う場合は、明細書内で明確に定義するべきでしょう。特に今回のように似たような用語「half-liquid」と「semi-liquid」が両方使われている場合、それぞれが別の意味を持つ用語なのか、それとも同じもので交換可能であるのかを明記する必要があります。
さらに、これはイタリアの出願を優先権主張したアメリカの出願だったため、翻訳も分析の対象になりました。日本の出願の優先権主張したアメリカの特許も同じようなクレーム解釈が行われることが予想されるので、内外を担当している人、また日英の翻訳をしている人は一度判例を詳しく読んだ方がいいかもしれません。
翻訳の際に気をつける点が見えてくるかも知れません。
社内では一般的に使われている用語であっても、業界では異なる用語が使われたり、または、社内で使用されている用語の意味が業界で使われているものとは異なる場合があります。このような「ズレ」は発明者と話しをしただけではわからないので、知財関係者であってもある程度の業界知識を得て、そのようなズレを事前にキャッチし、出願前に今回のような用語の不定を避ける努力をするべきでしょう。
TLCにおける議論
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Karen M. Cassidy and Paul Stewart. Knobbe Martens(元記事を見る)