米国最高裁が特許適格性に関するAmerican Axleの上訴を却下

OLCでも取り上げてきたAmerican Axleのケースですが、最高裁が審議を拒否したため、最高裁が機械系の発明に関する特許適格性に関して言及することはありませんでした。最高裁が特許適格性に関して最後に言及したのは2014年のAlice事件であることを考慮すると、今後最高裁が特許適格性に関する明確な方針を示す確率は低そうです。

最高裁は、American Axleのライバル企業Neapco Holdingsとの訴訟で、American Axleの特許を無効とした下級審判決に対するAmerican Axle社の上訴を却下しました。このケースに関する注目度は高く、バイデン大統領の政権は5月、American Axleの発明は特許適格な工業プロセスの典型例であるとし、この件を取り上げるよう最高裁に促していました。

機械系の発明に関する特許適格性は不透明なまま

American Axleは2015年、振動の少ないドライブシャフトの製造方法の特許を侵害したとして、Neapcoをデラウェア州の連邦裁判所に提訴しました。問題となったのは、シボレー・コロラドやGMCキャニオンのピックアップトラック向けに作られたNeapcoのドライブシャフトです。

デラウェア州の判事がNeapcoに有利な判決を下した後、American Axleは連邦巡回控訴裁判所に控訴したが、またしても敗訴。連邦巡回控訴裁の3人の裁判官は、American Axleの特許が物理学の原理であるフックの法則の単純な応用を対象としていると判断し、2対1で無効としました。

しかし、その後も連邦巡回控訴裁での審議は続き、6対6のデッドロックにより、全裁判官を集めての再審理を行わないことを決定しました。反対意見の裁判官は、今回の決定は「これまで特許が付与されたほとんどの発明」を脅かすものであり、裁判所の適格性判断は特許制度を「訴訟ギャンブル」に変えてしまったと述べていました。

最高裁による特許適格性に対するガイダンスは無理?

この論争により、連邦巡回控訴裁は「激しく分裂」し、ある裁判官が言うように、法律の適用方法について「途方に暮れる」ことにまりました。連邦巡回控訴裁の当時の現役裁判官12人全員が、同様に分裂した2019年の案件を最高裁に審理するよう求めましたが、ドナルド・トランプ前大統領の政権が取り上げるよう勧告したにもかかわらず、最高裁はこれを拒否。

最高裁は、アリス事件以降、特許適格性に関連する他の複数の請願も却下しています。今回のAmerican Axleに注目してきた専門家が多かったですが、今回の最高裁における審議の却下で、今後最高裁による特許適格性の解釈やガイダンスが得られる可能性はより少なくなったと思われます。

米特許商標庁の広報担当者は判決後、イノベーションは「不確実性の中では成長できない」とし、同庁は 「米特許制度が可能な限り明確で一貫したものとなるようあらゆる努力をする」と述べています。

参考文献:U.S. Supreme Court rejects American Axle case on patent eligibility

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

twitter
商標
野口 剛史

ツイッター買収がきっけかで起こっているブランド・商標権侵害の最前線

ツイッターが最近、月額8ドルの「Blue Tick」認証料を導入して物議を醸したことを受け(日本未導入)、ブランドや著名人のなりすましが急増しました。不正行為のリスクが高まる中、ブランドや商標の専門家は、Twitterの監視を強化して不正なアカウントを発見し報告するよう求められており、特にフィッシング目的でなりすまされることが多い企業では、その傾向が顕著になっています。

Read More »
hand-shake-business
契約
野口 剛史

5つのポイント M&A取引におけるIPの考慮事項

M&A取引における知的財産(「IP」)の重要性は、IP、テクノロジー、データがビジネスの評価において重要な要素となっていることから、ますます高まっています。ターゲット企業のIPの強さと執行可能性は、取引の経済的価値と取引の成功の核心となります。しかしながら、IP資産は、そのユニークな特性により、M&A取引においてユニークな課題を提起しています。そこで今回は M&A取引におけるIPの考慮事項として5つのポイントを取り上げてみました。

Read More »
訴訟
野口 剛史

無名の337条回答者のジレンマ

ITC調査においてGEOが発行された場合、当事者でなくともGEOに抵触するのであれば自社製品のアメリカへの輸出ができなくなってしまいます。今回は、そのようなことが実際に起きたケースを紹介します。

Read More »