特許適格性の問題が機械関連の発明にも拡大。論争が起こる

今回説明するCAFCの新しい判決は、ソフトウェア関連の発明に多く用いられてきた35 U.S.C. §101に関わる特許適格性(patent eligibility)を従来は§101とは無縁だった機械関連の発明にまで拡大適用し、大きな議論が起こっています。

Alice判決による35 U.S.C. §101のソフトウェア関連発明への適用

2014年に最高裁がAlice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’lで下した判決により、ソフトウェア関連の特許出願の際に§101に関わる特許適格性(patent eligibility)が問われることが多くなりました。また、ソフトウェア関連の発明に関わる特許の権利行使の際は、多くのケースにおいて§101に関わる特許適格性が議論されるようになりました。

今回の判決が下るまで、機械や電気機械系の発明に関しては、§101に関わる特許適格性を心配する必要はありませんでした。しかし、今回の判決で、特許適格性の適用対象が機械関連の発明にもおよぶことがわかりました。

3つのカテゴリー

abstract ideas, laws of nature and natural phenomena (including products of nature),は、§101に関わる特許適格性の判例解釈から特許として保護することはできません。

今回注目するAmerican Axle & Mfg. Inc. v. Neapco Holdings LLCは、CAFCが今年の10月3日に判決を下し、“law of nature”を理由に訴訟の対象になっている機械関連の発明が特許適格性を満たしていないという見解をしめしました。

問題になっている特許

今回問題になった特許は、U.S. Patent No. 7,774,911で、 “attenuating vibration in a driveline having a shaft assembly that transmits torque between first and second driveline components” 

の方法を開示しています。

特許明細書では、prop shaftに影響を与える以下の3つの振動について説明:

  • Bending mode vibration,
  • Torsion mode vibration, and
  • Shell mode vibration.

さらに、明細書では、 “resistive attenuation,” と“reactive attenuation”という振動減退のタイプを説明していました。

クレームは以下のようなShaftの製作方法に関するものです:

a method of manufacturing a shaft assembly of a driveline system, including the steps of inserting at least one liner into a shaft member, and positioning that “at least one liner” within the shaft member, such that the liner “attenuate[s] at least two types of vibration” (claim 1) or functions as both a “tuned resistive absorber for attenuating shell mode vibrations” and “a tuned reactive absorber for attenuating bending mode vibrations” (claim 22).

地裁と高裁での判決

2015年12月、American Axle & Mfg. Inc. (AAM) がNeapco Holdings LLC とNeapco Drivelines LLC (合わせて, Neapco)をDelaware連邦地裁裁判所で上記の特許侵害を訴えます。 その対抗として、Neapcoは権利行使されて特許は101における特許適格性がないことを主張します。

地裁はNeapcoの主張を受け入れ、Hooke’s lawとfriction dampingというlaws of natureに発明が向けられているため、問題の特許は101における特許適格性を満たしていないという略式判決を下しました。

この地裁の判決はCAFCに上訴されますが、CAFCでも2対1で、地裁の判決を支持します。判決の中で、多数派はクレームに詳細が書かれていなかったことに触れませいた。求めている結果を達成する手法が特許でクレームされていなかった点をCAFCは指摘しました。

このCAFCによるAmerican Axleの判例が意味するモノ

この判決に対してCAFCで少数派であった Judge Kimberly A. Moore は多数派の判決を大きく批判し、連邦議員の1人であり、特許法改革に力を入れているRep. Doug Collins (R-Ga.)も判決が出た次の日に判決を批判しました。

特許法改革が成功するまで、または、このAmerican Axle判決が破棄、または、棄却される(CAFCでの再度の審議を求めている)までは、機械系の発明に関わる特許を保有する権利者であっても、訴訟を起こす場合は、101における特許適格性を考慮しなければなりません。

また、101における特許適格性を考慮するためのrepresentative claimsとしてどのようなクレームを指定するかなども、訴訟の際には特許権者は考慮しなければなりません。 もし機械に重きをおいた発明で公式や物理原則を用いて発明の新規性を示す場合、101における特許適格性対策として、先行例よりも向上した具体的な部分を詳細にあわらし、クレームしている発明がそれらの法律や公式の試行錯誤を伴うもののように見えないように表現を気をつけるべきです。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Michael Cicero. Taylor English (元記事を見る

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

analysis-data-statistics
特許出願
野口 剛史

2022年 米国特許出願統計データ

米国特許庁の速報データによると、2022年度(2021年10月1日~2022年9月30日)の特許出願件数は646,855件でした。これは、2021年の出願件数より若干減少しています。これらの出願の内訳は、通常出願(utility applications)が589,155件、意匠出願(design application)が54,476件、植物出願(plant applications)が918件となっています。また、147,339件の仮出願(provisional applications )が行われました。

Read More »
訴訟
野口 剛史

無名の337条回答者のジレンマ

ITC調査においてGEOが発行された場合、当事者でなくともGEOに抵触するのであれば自社製品のアメリカへの輸出ができなくなってしまいます。今回は、そのようなことが実際に起きたケースを紹介します。

Read More »
契約
野口 剛史

特許使用料を決定するかもしれない継続中の控訴案件

特許ライセンスに払うべき対価はいくらか?と言うのは一概には言えません。特にロイヤリティ計算のベースになるものが何か?というのは今まで多くの議論を呼んできました。そこで、最小販売特許実用単位(SSPU)というコンセプトが出来上がってきたのですが、まだ不透明な部分が多く、特許訴訟でもライセンス契約訴訟でも問題になっています。今回は、現在継続中の特許使用料に関する案件を見ながら、SEP特許ライセンスの課題を深堀りしていきます。

Read More »