規格団体に参加する落とし穴

多くの企業が規格団体や組織(standards bodies, those organizations)に参加し、業界における事業や技術の規格を決めていますが、規格団体に参加していたため、特許による権利行使ができなくなったケースがありました。

判例

Core Wireless Licensing S.A.R.L. v. Apple Inc., CAFC は地裁による被告Appleの特許侵害の判決を覆しました。CAFCは陪審員による特許侵害の判定は認めましたが、European Telecommunications Standards Institute (ETSI)における元特許権者Nokiaの行動により、問題となっている特許の権利行使ができなくなっていたとし、案件を地裁に 差し戻し しました。

Nokiaの行動

ETSI 1997-1998 General Packet Radio Service (GPRS) standards-setting processにおいて、問題になっている特許が引用されおり、また、1997年11月4日のNokiaのメモには、対象技術は競合他社も使うことが予想され、GPRSの規格に組み込まれる予定だということが書かれていました。そのメモには、ETSIのGPRSの規格変更の要請が添付されていて、対象の技術を含めるように求めていました。

Nokiaは、そのメモを規格団体に提出、それと同時に、この技術に関する特許を申請します。しかし、ETSIはNokiaの提案を却下し、最終的にはEricssonの提案を受け入れました。また、Nokiaは特許の存在を2002年までETSIには開示していませんでした

ETSIのポリシーには提案された規格に必須となることがらは速やかに開示するようメンバーに求めていました。地裁では、Nokiaの提案が却下されたこと、また、クレームが2002年まで確定していなかったことから、Nokiaはこのポリシーに違反していないと認識されていました。

しかし、CAFCにおいて、Appleは、Nokiaが特許を申請した1997年に規格団体に特許の存在を開示していなかったことはETSIのポリシー違反であり、その違反のため、特許の権利行使をする権利を失ったと主張。

CAFCによる分析

CAFCは地裁による理由を却下します。まず最初に、ETSIのポリシーでは、採用された際に必須となり得ることに対して早期の開示を求めていると理解し、地裁における判決の元になった理由を是正するような証拠はなかったしました。

現特許権利者のCoreは、地裁の判決を維持するため様々な証拠や主張を展開しましたが、CAFCはすべての主張を退けました。

しかし、CAFCは、判決を覆して終わりにするのではなく、審議を地裁に差し戻します。それには、Nokiaの行動によって、不当な利益があったかを審議するためです。

ここで問題になっている権利行使の有無は、Nokiaによる権利行使に対する暗黙の放棄(Implied waiver )があったかによって決まります。暗黙の放棄とは、公平性(equitable doctrine)という考えにより、不正を行った当事者に不当な利益があったときに行われる救済措置の1つです。

この案件において、地裁ではNokiaのETSIに対する行為により、Nokiaに不当な利益があったかが議論されていませんでした。つまり、(Nokiaは特許の存在を出願後すぐにETSIに開示すべきたっだか、)Nokiaの提案した規格が採用されなかったので、結局Nokiaには何も利益がなかったのか、それとも、最終的に規格として採用されたEricssonの提案では、Nokiaの技術もオプションで採用されていたので、そこからNokiaは不当な利益を得ていたのかという点が、差し戻しにより地裁で審議されることになります。

まとめ

規格に関する特許は特殊な扱いを受けます。今回のように特許権者の過去の規格団体にたいする行為が20年前のものであっても、今、特許権者が変わっても影響を与えます。今回の判例では、規格団体のポリシーに対する違反によって自動的に特許権行使の暗黙の放棄がおこなわれたと見なされるとはなりませんでしたが、審議中の規格に関わる特許の情報は速やかに規格団体に開示することがいいでしょう。また、特許を購入する際にも、規格に関連するものなのかを確認し、そのような場合、追加で事実確認を行うことが重要です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Jim Burger and Michael Parks. Thompson Coburn LLP(元記事を見る

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