現在、次世代の著作権法の法案としてSMART Copyright Actが議論されていますが、業界関係者から「インターネットの未来にとって危険」と非難されています。その理由の1つとして、ユーザーによって作られたコンテンツをサイトにアップする際のフィルターに関する記述が問題になっているのですが、なぜその点が大きな問題になっているのかを解説します。
フィルター技術の強要
詳しくは法案を見てほしいのですが、簡単にまとめると、この法案には、第三者のコンテンツをホストするウェブサイトが使用する必要のある特定の「技術的手段」を、3年ごとに著作権局が承認する権限を委譲すると書かれています。
更に、法案には、「著作権局は、著作物の所有者、サービス・プロバイダ、その他の関係者から、技術的措置の指定、 または指定された技術的措置の取消しもしくは修正を提案する請願を受け付けるものとする」と書かれています。
つまり、実質的な運用では、著作権者が法的に必要なコンテンツフィルターの「技術的手段」を決めることに大きな影響力を持ち、ちかもその影響は「技術的手段」を見直す3年の頻度で起こることになります。
ハリウッドの圧力?
長年、著作権法案に関するMotion Picture Associationのロビー活動が有名です。事実、MPAは多くの資金をロビーや献金活動に使っています。なので、今回のSMART著作権法案にもかなりの影響力があったと考えておかしくないと思います。
MPAとしては、インターネットの普及とuser generated contentsが気軽にアップできる各種SNSプラットフォームの普及により、映画の違法ダウンロードが蔓延し、映画会社だけの違法コピー防止キャンペーンでは限界が見えたことから、業界が連邦政府に助けを求めているという経緯があります。
コンテンツフィルターは万能じゃない
コンプライアンスや広告主などの圧力で著作権を厳しく見るようになったYouTubeは自前のコンテンツフィルターを用いていますが、それも完璧ではありません。
去年の12月にYouTubeから出されたTransparent reportによると、YouTubeは2021年上半期に合計で7億2930万件の著作権アクションを処理しましたが、そのうち大半(99%)は(Copyright Match ToolやWebformなど他のツールではなく)Content IDを介して処理されました。YouTubeは、ContentIDは他のシステムよりもはるかに正確で悪用されにくいと主張していますが、それでもContentIDには、アップロード者から、自分に対する措置(ブロックや削除のほか、削除措置)が不当であると主張する370万件の異議申し立てが寄せられています。このうち60%は最終的にアップロード者側に有利な裁定が下されており、2021年上半期にコンテンツIDは権利者に代わってユーザーに対して少なくとも220万件の不当な著作権侵害の判断を下したことになります。言い換えれば、過剰執行(不当なブロッキングと不当な削除の両方)は、相当数のアップローダーの権利に定期的に影響を与える非常に現実的な問題になっていることがわかります。
このようなオーバーブロッキングの実態が、GoogleがバックにいるYouTubeでも起こっているということは、いかにコンテンツフィルターで「適切な著作権処理」をすることが難しいかを物語っています。
そして、SMART著作権法案で示されているような「技術的手段」の活用が必須になってしまうと、user generated contentsは大きな打撃を受けることは間違えないでしょう。また、このようなフィルター技術は簡単に多くの企業が導入できるようなものではなさそうなので、SMART著作権法案を遵守するには、企業側も大きなコストがかかると思われ、適用すべき技術を3年ごとに更新しないといけない可能性があると、ビジネスとしても大きな足かせになってしまいます。
幅広い団体や企業が反対表明
このように多くの問題を露呈しているSmart著作権法案に対して、Creative Commons、Etsy、Pinterest、Internet Archive、New Media Rights、American Library Associationなど、市民団体、業界団体、企業、学識経験者など幅広い層が反対の意思を表明しています。
次世代に向けた著作権法改正は必須
このように反対活動が活発なため、SMART著作権法案に関して活発な議論が議会でなされる可能性は少なそうですが、今あるDMCAの枠組みでは限界に達しているので、Web3に向けた次世代の著作権法が求められていることは確かです。
そのため、たとえ今回のSMART著作権法案がダメになっても、それでいいと言うのではなく、次のインターネットの世界を見据えた、画期的で著作権者にもユーザーにも、フォーマーにも平等で公平はルールが求められているので、今後の著作権法の改正の動きには注目していきたいところです。