ティリス上院議員とクーンズ上院議員が特許適格性改革法案を再提出

去年に続き、「2023年特許適格性回復法」と呼ばれる法案が提出され、アメリカにおけるソフトウェアや生物科学系の特許の権利化で大きな問題になっている101条における特許適格性の抜本的な改正が期待されています。この法案が可決され法律になると、今までの関連する最高裁判決を覆すことになり、全く異なるフレームワークでの特許適格性の判断が行われることになります。しかし、可決の可能性以前に議会で審議されるかも現在では不透明なので、法改正への道のりは不透明と言わざるをえません。

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2023年6月22日、トム・ティリス(Thom Tillis)上院議員(共和党。ノースカロライナ州選出)とクリス・クーンズ(Chris Coons)上院議員(民主党。デラウェア州選出)は、35 U.S.C. §101に基づく特許適格要件(patent eligibility requirements)を改革するための法案を再提出すると発表しました。「2023年特許適格性回復法」(Patent Eligibility and Restoration Act of 2023)は、2022年8月に提出された「2022年特許適格性回復法」(Patent Eligibility and Restoration Act of 2022)と同様、米国で特許を受けることができる発明を明確にすることを目指すものです。法案によると、101条の司法上の例外により、特許保護を受けることができない発明が増えており、例外を解釈する司法上の努力により、「広範な混乱と一貫性の欠如」が生じているとされています。実際、連邦巡回控訴裁の判事12人全員が101条法の現状に不満を表明しています。もしこの法案が可決されれば、Mayo, Alice, や Myriadなどの代表的な特許適格性に関わる最高裁判決を覆すことになります。

法案の下では、特許適格性に関する司法上の例外はすべて撤廃されます。有用なプロセス、機械、製造、組成物としてクレームできる発明や発見、あるいはそれらの有用な改良は、法案に明確に規定されている場合を除き、すべてが特許保護の対象となります。法案には、特許保護の対象とならない以下の発明が含まれています:

  • 特許の対象となるカテゴリーの発明の一部ではない数式(A mathematical formula that is not part of an invention in a category that is patent eligible;)
  • 人間の頭の中だけで行われる精神的プロセス(A mental process performed solely in the mind of a human being;)
  • 人間の活動から完全に独立し、それ以前に自然界で生じるプロセス(A process that occurs in nature wholly independent of, and prior to, any human activity;)
  • ヒトの体内に存在する、改変されていないヒト遺伝子(An unmodified human gene, as that gene exists in the human body;)
  • 自然界に存在する、改変されていない天然素材(An unmodified natural material, as that material exists in nature;)
  • 実質的に経済的、金融的、ビジネス的、社会的、文化的、または芸術的なプロセス。適格でないクレームの例としては、ビジネスを行う方法において人間が行うステップにのみ引かれたプロセスクレーム、ダンスを行うこと、結婚を申し込むこと、例えば “do it on a computer “と記載するだけで、コンピュータに関する本質的でない言及を追加することなどが挙げられています。(A process that is substantially economic, financial, business, social, cultural, or artistic. Some examples given of claims that are not eligible are process claims drawn solely to the steps undertaken by human beings in methods of doing business, performing dance moves, offering marriage proposals, and adding a non-essential reference to a computer by merely stating, for example, “do it on a computer.”)

コンピュータを含む機械や製造を使用しなければ実質的に実行できないプロセスは、特許の対象となります。

例外は概ね前回の2022年法案に沿ったものですが、プロセスクレームとして適格でないクレームの例は今回の改正で追加されました。この例外と例は、特許適格性について更なる明確性を提供しようとするものでありますが、提案されている新基準の解釈にどのような影響を与えるかは不明です。

ライフサイエンス特許に影響を与える可能性のある法案の特殊な側面として、人間の活動によって単離され、精製され、濃縮され、またはその他の方法で改変された遺伝子は「改変されていない」とはみなされず、したがって特許適格性を有すると明記されている点です。さらに、有用な発明や発見に使用されるヒト遺伝子も特許の対象となりえます。

さらに、この法案では、特許適格性は、発明がどのようになされたかに関係なく、クレームされた発明を全体として考慮することによって決定され、発明の時点における技術の状態など、他のセクション(102、103、または112)でカバーされている考慮事項は、主題が特許適格であるかどうかを決定する際に考慮されないことを要求しています。最後に、法案は、生命科学分野のクレームが無効とされる理由として頻繁に挙げられてきた、クレーム要素が公知であるか、慣用的であるか、日常的であるか、自然発生的であるかを考慮せずに特許適格性を決定することを要求しています。

侵害訴訟では、裁判所は発明が特許適格であるかどうかをいつでも判断することができ、主題の適格性の問題に関して限定的な証拠開示を考慮することができるともしています。

参考記事:Senators Tillis and Coons Reintroduce Patent Eligibility Reform Legislation

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