2023年6月29日、米国連邦最高裁判所は、Abitron Austria GmbH v. Hetronic International, Inc.事件において全会一致の判決を下し、商標権侵害を禁止するランハム法の規定の域外適用範囲(extraterritorial reach)を国内使用に限定しました。判決に至るにあたり、裁判所は2段階の分析を適用。第一に、商標権侵害を禁止するランハム法の規定である米国法典第 15 編第 1114 条(1)(a)及び第 1125 条(a)(1)が域外適用されるか否かを検討し、域外適用されないと結論付けました。第二に、裁判所は、これらの規定の焦点は、商標侵害の疑いによる影響(消費者混同の可能性の創出)ではなく、侵害行為そのもの(商業におけるマークの使用)であると判断しました。従って、本判決は、今後の重要な問題は、消費者の混同がどこで生じたかではなく、侵害行為がどこで行われたかであることを示唆しています。
最高裁判決:Abitron Austria GmbH v. Hetronic International, Inc.,
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ライセンス先が類似する独自の製品を販売することで商標問題が発生
米国のリモコンメーカーであるHetronic社は、自社のワイヤレスリモコンを識別するために黒と黄色の色を使用しています。外国企業の集合体であるAbitronは当初、Hetronic社製品のライセンス販売代理店として営業していました。しかし、その後、Hetronic社の黒と黄色のブランドを自社製品として使用し、独自の製品を開発・販売しました。Abitronの販売は主にヨーロッパ内で行われていましたが、一部の製品は米国にも直接販売されていました。
このことを受け、Hetronic は、ランハム法違反で Abitron を訴えます。地方裁判所では、Hetronic社が勝訴し、約9600万ドルの商標権侵害による損害賠償命令を勝ち取りました。この金額は、Abitronの米国への直接販売だけでなく、米国を最終配送先とする海外販売、および米国に入らなかった海外販売に対する侵害も反映したものでした。控訴審において、第10巡回区連邦控訴裁判所は、Abitronの外国での侵害行為は米国に影響を与えるため、ランハム法はアビトロンの外国での侵害行為全てに及ぶと判断し、地方裁判所の判決を支持しました。
上告審で最高裁が直面した問題は、米国法典第 15 編第 1114 条(1)(a)及び第 1125 条(a)(1)が外国の行為にどの程度適用されるか、でした。
最高裁による域外適用に対する推定の適用
域外適用(extraterritoriality)に対する推定(presumption)を適用するには、以下の2 段階のプロセスが必要であるとしました:
- 特定の条項が域外適用かどうかを判断
- 治外法権でない場合、訴訟がその規定の国内適用を求めているのか国外適用を求めているのかを判断
第1段階は、連邦議会がその規定を外国での行為に適用することを「肯定的かつ明白に」(“affirmatively and unmistakably”) 指示したかどうか、またはその規定が外国での適用を意図していることが明確に示されているかどうかによります。最高裁は、商標に関する取り決めが示されているランハム法(Lanham Act)は明確に外国での行為を規制しているわけではなく、他に域外適用を示唆する議会からの指示はなかったとしました。ランハム法は「商取引」(Hetronic社が主張したように、この商取引には外国商取引も含まれる)に言及していますが、この規定は国内行為にのみ適用されるという推定を覆すには十分ではありませんでした。
ランハム法のこれらの侵害規定は域外適用されないと判断した最高裁は、次にステップ 2 に進み、Hetronic 社がこの規定の国内適用(許容)または国外適用(不許容)を求めているかどうかを判断しました。このため、裁判所は規定の「焦点」を決定し、その焦点に関連する行為が米国内で発生したかどうかを評価する必要がありました。
Justice Sonia Sotomayor 最高裁判事はその同意の中で、2つのランハム法規定の焦点は消費者の混乱にあると指摘しました。彼女の見解では、実際の侵害行為がどこで行われたかにかかわらず、侵害行為が米国内で消費者の混同を引き起こす可能性があれば、この規定の適用は許されると述べました。
しかし、多数派によれば、両規定は保護された商標の商業における無許可使用を禁止しているため、関連する行為は「商業における使用」であると述べました。確かに、訴えられるためには混同を生じさせる行為が必要ですが、それは単に「侵害使用の必要な特徴」であり、独立した要件( separate requirement)ではありません。そのため、最高裁は、これらの規定の外国と国内での適用を分ける境界線を形成するのは、混同の恐れの可能性のある場所(where confusion may be felt)ではなく、商業における使用が実際に発生した場所(where use in commerce actually occurs)であるとしました。
アメリカ国外でも商標権の取得を
最高裁の判決により、米国内で消費者の混乱を招いたとしても、商標権侵害の行為が完全に米国外で発生した場合、米国商標権者が権利行使できることがらが制限される可能性が高いです。本決定は、侵害商品またはサービスが米国内で直接販売された場合のランハム法の適用を制限するものではありませんが、純粋に外国で行われた行為は、合衆国法律集第 15 編第 1114 条(1)(a)または第 1125 条(a)(1)の対象とはなりません。
侵害行為が米国外で行われた場合、米国の商標権者は、その権利を行使するために、外国の法域で商標権侵害訴訟を提起する必要があるかもしれません。この場合、特定の外国管轄区域における商標登録の所有が必要となることがあるため、米国ブランドは、特にビジネスを行う予定の国や偽造の懸念が知られている国において、米国外で商標登録を求めることを検討すべきです。
参考記事:US Supreme Court Ruling Limits Extraterritorial Reach of Lanham Act