2019年6月10日、アメリカ最高裁は、Return Mail Inc v United States Postal Serviceにおいて、連邦政府機関はAIAで定められた特許再審査手続きを申し立てることができないと判決を下しました。この判決により、今後、連邦政府機関はinter partes, post-grant やcovered business method reviewsにより特許の有効性について挑戦することができなくなりました。
背景
2011年に特許法が大きく改正され(このことを一般的にAIAと呼ぶ)、新しくPatent Trial and Appeal Board (PTAB)が特許庁内に設立され、inter partes, post-grant やcovered business method reviewsという手続きを通して、第三者が特許の有効性について挑戦することができるようになりました。
事実背景
Return Mailはアメリカ特許6,826,548を保有していて、その特許を使い、郵便局を特許侵害で提訴。その訴訟に対応する形で、郵便局はPTABにcovered business method reviewを申請。PTABは特許は無効と判断。
しかし、連邦政府機関がAIAにおける特許再審査手続きが行える「人」(’person’ )であるかという問題が提議され、CAFCでの判決を経て、最終的に最高裁で審議されることになった。
最高裁での判決
6対3で、連邦政府機関はAIAにおける特許再審査手続きが行える「人」(’person’ )ではないという判決が下った。
過半数
過半数は、AIAにおいて「人」(’person’ )が明確に定義されていないとし、長年の推定から「人」(’person’ )には連邦政府機関は含まれないとした。
過半数は、特許法やAIAにおいて、「人」(’person’ )は少なくても18回使われているが、政府機関が含まれていてもいなくても文脈が成り立つとして、それだけでは議会が政府機関も「人」(’person’ )に含めるという意思を示したことにはならないとしました。
次に、過半数は、ex parte re-examination とAIA post-issuance reviewの違いについて言及。政府機関でもex parte re-examinationは行えていたが、ex parte re-examinationは特許庁の内部の手続きであるのに対し、AIA post-issuance reviewは、申し立て者と権利者の間で対立関係にある手続きで、全く異なる手続きであることから、政府機関がex parte re-examination を行えるからといって、AIA post-issuance reviewが行えるとはならないとしました。
最後に、過半数は、AIA post-issuance reviewが政府機関に限って使えないことに対する平等性について言及。例として、政府機関が特許侵害で訴えられた場合に差し止めの不可などの特許権者に制限が加えれれる([28 USC] § 1498 )ことから、政府機関と一般の扱いに違いがあっても問題はないとしました。
少数派
少数派は、特許法において「人」(’person’ )に連邦政府機関が含まれるのは明確だとし、過半数の判決を非難しました。
教訓
法律の文言1つの解釈の違いだけでも、今回のようにその影響はとても大きなものになる場合もあります。契約や特許も同じで、文言1つの解釈で内容が大きくことなるということがあります。なので、重要な用語は十分慎重に検討し、明確な定義をおこなう必要があるでしょう。
まとめ作成者:野口剛史
紹介記事著者:Christopher Loh. Venable LLP(参考記事を見る)