SAS判決によりIPRの partial institution がなくなって数ヶ月経ちますが、すでにSAS判決を利用した新しい戦略が試されています。今回はpartial institution がなくなったSAS判決後の判例を元にクリエイティブな戦略を見ていきましょう。
SAS判決は、チャレンジされたクレームの1つでも無効だと思われるものがあった場合、対象になっているすべてのクレームに対してIPRを行うことをPTABに義務づけました。しかし、Chevron Oronite Company LLC v. Infineum USA L.P. において、PTABは、Institutionの際に、チャレンジされたクレーム20の内、2つのクレームのみしか基準に達しておらず、残りの18クレームは有効である可能性が高いという結論のもと、このIPRの審査を継続していくのはPTABのリソースを効率的に使うものではないとし、IPRのInstitutionを拒否しました。
一見この判断は、クレーム1つでも無効だと思われる場合はIPRをすべてのクレームに対して行うというSAS判決に反しているように見えますが、PTABにはIPRなどの手続きを行う際にある程度の裁量権が与えられているので、その裁量権を使った判断だったのだと思われます。
このような判決はあるもののChevron判例は、従属クレーム2つが基準を満たしていなかったある意味特殊なケースだったので、例外として扱われるべきだと思いますが、この判決をきっかけに、IPRのInstitutionの際にPTABにおける非効率性を主張する特許権者が増えてきました。
In LG Electronics, Inc., et al. v. Wi-Lan Inc., et al. もそのような新しいIPR手続きにおける非効率性を主張したケースです。この案件でPTABは、クレーム6-9についてIPRを始める条件を満たしていないとしましたが、Institutionを認めIPRを継続しました。これは、Post-SASのケースです。
このPTABのInstitution判決に対して、特許権者のWi-LanはSAS判決とChevron判例を元にユニークな戦略をとります。Wi-Lanはクレーム6-9は残し、Institutionの際に無効になる可能性が高いと判断された残りのクレーム1-4を放棄しました。このようにすることで、SAS判決の「チャレンジされたクレームの1つでも無効だと思われるものがあった場合」でない状態にし、IPRのInstitutionを食い止めるという戦略をとりました。
このようにIPRのInstitutionの際の基準を満たさない(つまり、有効と思われる)クレームを残し、逆に基準を満たしている(つまり、無効と思われる)クレームを放棄することで、SAS条件のもと、チャレンジされたクレームの中に1つも条件をInstitutionの条件を満たしているものがない状態にすることができます。このような状況を作った後で、Wi-Lanは、Chevron判例で示されたPTABの非効率性を主張。
しかし、PTABはWi-Lan主張を却下します。Institution後、PTABはチャレンジされたクレームすべてにおいて最終判決を下す必要があるとし、PetitionerのLGには勝算が少ないものの残りのクレームについての有効性に対する判決をPTABから受ける権利があるとしました。また、有効である可能性が高いと判断されたクレーム1から4がInstutution判決の後に特許権者により放棄された件についても、Institutionの判断が下ったときにはそれらのクレームは有効であったので、判決が降りた時点でPTABのIPRを継続するという判断は正しかったとしました。つまり、特許権者によるInstitution判断後のクレーム放棄などはすでに判断されたInstitution自体を変えるものではないものだとしました。
今回のLGの判例では、Institutionの判断後の行動はInstitutionの判断に影響を与えないということがわかりました。Institutionの判断の時点でSAS基準を満たしていればほぼ確実にIPRは継続するようです。しかし、例外のようなChevron判例などをきっかけにこれからもチャレンジされるクレームに関する新しいIPR戦略が出てくると思われます。
SAS判決後、Petitionerが挑戦するクレームの厳選はより重要なものになってきています。どのクレームを無効にするべきか、IPRを申し立てする前のクレーム選びがより大切になってきます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP(元記事を見る)