一般公開は特許の権利化を妨げる大きな要因の1つです。一般公開のリスクをなくすには、特許出願の前にクレームされる発明に関する内容を第三者と話さなければいいのですが、そのような方法は現実的でない場合も多くあります。どのようなものが「公開」として扱われるのか、裁判所が一般公開を審議する際にどのような点に注目するのかを知れば、必然と出願前の発明をどのように扱えばいいのか見えてきます。
基本に立ち返る
まず基本に立ち返えって、なぜ一般公開が特許の権利化をする上で大切なのかを見ていきましょう。皆さんもご存じの通り、35 U.S.C. § 102によって新規性が定義されています。特許になる1つの条件がこの新規性です。つまり、この新規性(novelty)を満たすには、クレームされている発明がまだ世の中に出回っていないことが条件になります。言い換えると、出願前に発明を公開してしまうと、発明に新規性が欠けてしまうことになります。しかし、アメリカでは 35 U.S.C. § 102(b)(1)により、最初の公開から1年間の猶予期間(grace period)が得られますが、このような猶予期間は他の多くの国では存在しません。
また、 § 102(b)において、発明者による公開であっても、新規性が失われてしまいます。これは、アメリカ特許システムの基本概念である見返り(quid pro quo)によるもので、発明者が発明を一般に公開する見返りとして、発明者に発明を実地することに関して他社を排除する一定期間の独占権(monopoly)を与えるという考え方です。つまり、すでに発明が公開されているのであれば、見返りを求めるモノがないので、特許権による独占権は与えられないということになります。
この公開に対するセーフガードとして、アメリカでは発明者による開示から1年の間は猶予期間が認められています。しかし、他の国ではそのような猶予期間がない場合が多く、あっても条件がアメリカのものと異なる場合があります。例えば、何らかの12ヶ月の猶予期間がある国はUnited States, Argentina, Brazil, Canada, Mexico, Republic of Korea (South Korea), and Singaporeで、何らかの6ヶ月の猶予期間がある国は、Australia, Japan, Russia, Saudi Arabia, and United Arab Emiratesです。China, the European Patent Office, and most European countriesはこのような猶予期間はありません。The World Intellectual Property Office(WIPO)が 猶予期間に関する国別の詳細なリストを公開しているので、そのリストで細かな条件を確認してください。
また、アメリカでは猶予期間は1年までなので、意図しない一般公開は避けるべきです。
一般公開に関する一般的なルール
様々な形で一般公開は起こりえます。例えば、他の特許や文献における開示、一般使用、一般販売(description in a patent or printed publication, public use, and public sale)です。しかし、ここでは文献(printed publication)における公開についてのみ話していきます。
CAFCは、Medtronic, Inc. v. Barryにおいて、一般公開を審議しました。この案件では、CDに納められた動画デモとプレゼンの一部が含まれたバインダーがグループ会議で配布されたことが一般公開に該当するのかが焦点になりました。また、Blue Calypso, LLC v. Groupon, Inc.では、一般が問題の情報にアクセスできるかという点が一般公開における重要な点だとしました。さらに、様々な形で情報か一般に公開される可能性があるので、各案件の事実や状況を慎重に考慮しながら一般公開が行われたか検討する必要があるとしました。
一般公開で最も一般的な形は、出版物(雑誌、宣伝資料、記事など)ではないでしょうか?そのような出版による開示は、たとえ出版数が少なくても、一般公開として見なされてしまうので注意が必要です。つまり、出版物で発明が開示されてしまった場合、一般公開が行われてしまったと考えていいということになります。
次に多いのが、カンファレンスやグループ会議などにおける、ある一定のグループに所属する第三者への開示です。このような開示は多くの場合、一般公開として扱われますが、特定の事実や状況によっては、一般公開として扱われない可能性があるので、分析が必要な場合もあります。
グループ会議による配布と議論
出願前に大規模なカンファレンスでの開示を避けるというのは直感的でわかりやすいと思いますが、他社の重役3~4人に対する開示はどうでしょうか?また、情報がある一定の少人数の専門家に対しておこなわれた場合はどうでしょう?最終的には、発明の重要な情報がその分野に関心のある人に対して一般公開されていたか(whether the materials are publicly accessible to interested persons in the field)が問題になります。
それを審議するにあたり、以下のことが考慮されます:
- 正式な法的責任がなくても、配布者と発明の重要な情報を受け取った側とに機密の意図があったか(Whether there is an expectation of confidentiality between the distributor and the recipients of the materials, even in the absence of a formal legal obligation)
- 会議のサイズ(Size of the meeting)
- 会議の本質、会議が情報に興味のある人に対して公になっていたか、それとも、ある特定のグループに限定されていたか(Nature of the meeting and whether the meeting is open to the public interested in the subject matter of the material disclosed or instead limited to members of a certain group)
- 会議の参加者と参加者の専門性(Who attended the meetings, taking into account the expertise of the target audience)
- 発明の重要な情報の配布に対して制限があったか(Whether the materials were distributed without restriction)
まとめ
一般公開がどのようなものかを知ることで、意図しない発明の一般公開を避けつつ、発明をシェアーし、開発や商業化に向けた貴重なフィードバックが得られます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Rory P. Pheiffer. Nutter McClennen & Fish LLP (元記事を見る)