自明性分析で認められる「常識」とは?

常識は先行例文献を示さなくても先行例文献に欠けている要素は自明だと主張できる便利な理由ですが、「常識」が適用されるかはケースバイケースなので、「常識」をベースにした主張には注意が必要です。

米国連邦巡回区控訴裁判所は、熟練した職人(skilled artisan)は、欠落した制限を先行技術に組み込むために常識(common sense)を使用したであろうという理由で、先行技術に基づいて航空機用のトイレに向けられた特許請求項が自明であるとする特許審判不服審査会(PTAB)の最終的な書面による決定を支持しました。B/E Aerospace, Inc. v. C&D Zodiac, Inc., Case Nos. 19-1935, -1936 (Fed. Cir. June 26, 2020) (Reyna, J.).

PTABでの争い

C&D Zodiac 社は、B/E Aerospace 社が所有する航空機用のトイレのエンクロージャーの省スペース技術に関する 2 つの特許の当事者間審査(IPR)を求めていました。争われた特許請求の範囲には、トイレユニットに関連する「第一の凹部」と「第二の凹部」が記載されていました。PTABは、「伝統的な」(traditional)アプローチと「常識的な」(common sense)アプローチに基づいて、いくつかの先行技術特許に照らして、請求項は自明であると判断しました。PTABの伝統的なアプローチは、Zodiac社の主張と専門家の証言に基づいています。PTABの常識的アプローチは、先行技術と常識、およびその技術に精通した者(person of ordinary skill in the art)の知識の組み合わせに依拠したものである。特に、PTABは、先行技術がクレームされた第1の凹部を教えており、クレームされた第2の凹部を追加することは常識的な問題であっただろうと判断しました。

手続き中、Zodiac 社が35 USC § 311(b) で要求される「特許」または「印刷された出版物」であることを示さなかったため、B/E はZodiac 社が提出した第 2 の凹部を示す請願書に添付した設計図を除外するように申し立てました。PTABはこの申立を却下し、図面はクレームを無効化するためではなく、通常の熟練した職人(ordinary skilled artisan)の知識を特定する目的でのみ検討されるため、印刷出版物の先行技術であることを要求されないと説明しました。

B/Eは再審理(rehearing)を要求。B/Eは、PTABが自明性を認定する際に「常識」(common sense)に依拠したこと、およびPTABが設計図を検討したことは不適切であるとして異議を唱えました。PTABは再審請求を拒否し、B/Eは控訴。

CAFCにおける判決

連邦巡回控訴裁は、「伝統的な」(traditional)アプローチと「常識的な」(common sense)アプローチの両方の下でのPTABの自明性の判断を肯定しました。同裁判所は、先行技術を修正して第二の凹部を含むようにすることは、既知の技術の予測可能な適用であると判断しました。裁判所はまた、先行技術に第二の凹部を組み込むことは常識的な問題であっただろうということにも同意しました。裁判所は、PTABが先行技術に欠落した制限を提供するために、裏付けのない常識的な主張に依拠したとするB/Eの主張を却下しました。自明性の判断は、十分な推論を伴う場合には、常識に依拠することができる。裁判所は、PTABが常識に依拠したことは、根拠のある分析を伴うものであり、詳細な専門家の証言に裏付けられているため、適切であると判断した。技術のシンプルさもまた、常識の使用を支持するものでありました。

連邦巡回控訴裁は、PTABの最終的な自明性判定は正しく、それらの図面に依存していなかったため、設計図面の問題に到達する必要はないと判断した。PTABは、専門家の証言を含むZodiac社の議論と証拠に基づいて、自明性の結論を独自に支持しました。

実務上の注意:適切な推論を伴う常識は、特に技術が単純な場合には、自明性を判断する上で役割を果たすことができる。自明性分析において常識の使用に依拠したり、その使用に異議を唱えようとする当事者は、専門家の証言を含め、常識の主張のための論拠の強さと証拠の裏付けを検討すべきです。

解説

常識(common sense)というのは非常にむずかい議論です。

常識は非自明性に基づく拒絶に活用できますが、どのような場合に適切かは個別案件ベースでの判断になります。

例えば、Googleで 「MPEP “common sense”」と検索すると、以下のようなMPEP(Manual of Patent Examining Procedure。特許審査のガイドライン)がヒットします。

It is never appropriate to rely solely on “common knowledge” in the art without evidentiary support in the record, as the principal evidence upon which a rejection was based. Zurko, 258 F.3d at 1385, 59 USPQ2d at 1697 (“[T]he Board cannot simply reach conclusions based on its own understanding or experience—or on its assessment of what would be basic knowledge or common sense. Rather, the Board must point to some concrete evidence in the record in support of these findings.”). 

2144 Supporting a Rejection Under 35 U.S.C. 103

常識の活用にあたっては、何らかの証拠が必要になり、審査官や審査委員会の理解や経験のみに依存した「常識」の適用は正しくないと書かれています。

また、証拠も具体性がないものでもよいということになっています。

At the time [of the decision in In re Lee], we required the PTO to identify record evidence of a teaching, suggestion, or motivation to combine references because “[o]mission of a relevant factor required by precedent is both legal error and arbitrary agency action.” However, this did not preclude examiners from employing common sense. More recently [in DyStar Textilfarben GmbH v. C.H. Patrick Co., 464 F.3d 1356, 1366 (Fed. Cir. 2006)], we explained that use of common sense does not require a “specific hint or suggestion in a particular reference,” only a reasoned explanation that avoids conclusory generalizations.

Perfect Web Technologies, Inc. v. InfoUSA, Inc., 587 F.3d 1324, 1329, 92 USPQ2d 1849, 1854 (Fed. Cir. 2009) (citations omitted).

2141 Examination Guidelines for Determining Obviousness Under 35 U.S.C. 103

今回の判例では、CAFCによると問題になった「第二の凹部」は専門家の証言を含むZodiac社の議論と証拠に基づいた「常識」であるとしました。このような証言や証拠があったからこそ、この「常識」への挑戦に勝つことができたのだと思います。

B/Eの主張も注目する点があります。今回の場面は、IPRです。つまり、特許を無効にするには先行例文献を用いた主張でなければいけません(on sale bar, 101, 112などをベースにした主張は不可)。B/Eは「常識」は先行例文献ではないので、IPRでは考慮されるべきでないと主張しましたが、PTABもCAFCも常識が自明性の拒絶に活用されていることから、その主張は受け入れられなかったのだと思います。

私個人もこの判例を見るまでは「常識」がIPRで適用されるかの理解ははっきりしなかったので、とても勉強になりました。

今回のような比較的わかりやすい発明に関しては、「常識」が通用したかもしれませんが、発明の難易度によっては「常識」の適用は難しいかもしれません。なので、IPRで特許を無効にしたいと考えているのであれば、先行例文献に欠けている要素を「常識」に依存するのは危険かと思われます。そして、「専門家」の証言など費用も多くかかることが予想されます。そのため、IPRで特許の有効性を問う場合、なるべく先行例文献(とその組み合わせ)による主張を優先的におこない、「常識」の活用は先行例文献がなく、十分に「常識」をサポートできるだけの証拠や証言を集めておく必要があります。

TLCにおける議論

この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。

TLCはアメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる今までにない新しい会員制コミュニティです。

現在第二期メンバー募集の準備中です。詳細は以下の特設サイトに書かれているので、よかったら一度見てみて下さい。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Hala Mourad. McDermott Will & Emery(元記事を見る

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

hand-shake-business
商標
野口 剛史

Intent-to-use Trademark出願で気をつけること

アメリカでTrademark(商標)を取得する場合、原則その商標を実際に製品やサービスに使用している必要があります。しかし、まだ製品やサービスが準備段階の場合、いち早くその商標を取得するために、実際に使用する前に、Intent-to-use Trademark出願ができます。しかし、商標を使う善意の意思を示す何らかの書類を準備しておく必要があります。

Read More »
Uncategorized
野口 剛史

新企画:ウェビナーから学んだこと

知財でもウェビナーで情報発信をするところが増えてきました。しかし、そのほとんどが英語ベースで時間も1時間程度と参加するにもハードルが高いと思う知財関係者も多いのではないでしょうか?そこで、私が実際にウェビナーを受け、そこからなんだことを皆さんとシェアーすることを考えました。

Read More »