Means-Plus-FunctionクレームをIPRで無効化しようとする場合、注意が必要です。対応する構造が明細書内で示されていない場合、その欠陥を理由に、IPRではMeans-Plus-Functionクレームの再審査ができない可能性があります。
IPRにおいて、特許審判・不服審査会(PTAB)でクレームに異議を申し立てる場合、規則42.104(b)(3)では、申立人は、クレームのMeans-Plus-Functionクレームの特徴に対応する構造を記述した異議のある特許の明細書の特定の部分を特定することが要求されています。もちろん、申立人がこれを怠った場合、審査会は、規則を遵守していないとして申立人の異議申立を却下できます。
しかし、特許自体の欠点により明細書の特定の部分を特定することができない場合、PTABはそのような不確定性の決定を公式に行うことができません。その代わりに、審査会は単に規則が満たされていないと結論付けることになります。
今回の判例において、連邦巡回控訴裁判所は、IPRのこの欠点を改めて指摘しました。
Intel Corporation v. Alacritech, Inc.では、連邦巡回控訴裁は、IPRで補正されなかったオリジナルのクレームに関しては、審査会は正式な不定(indefinitness)の判断を下すことができないということを改めて示しました。(IPR補正されたクレーム請求項についてはそうではありませんが)。
この判例では、申立人はクレームが自明であると主張しましたが、控訴審では、明細書内に構造が記載されていないため、米国特許法第35条第112条(6)に基づき十分な構造を開示しなかったとして、PTABがクレームを不定と認定するよう命令するべきであると主張。PTABの最終決定書では、PTABパネルの多数派は不定性に関しては同意したようですが、IPRにおける審査会は「35 U.S.C. 112条の下で有効性の問題を考慮しない」ため、クレームを不定として正式に無効とすることを避けました。その代わりに、通常行われるように、審査会は、申立人が請求された機能の構造を特定する構造を提案しなかったために、クレームが自明であるとして特許性に欠けていることを証明できなかったと判断しました(構造の提案の失敗は、特許自体に必要な詳細が欠けていたことに起因するものであったにもかかわらず)。
控訴審において申立人は、第318条では、「制定の法定根拠外の理由であっても」クレームの特許性を論じた書面による決定書を発行することを審査会に要求しているため、審査会はクレームを不定なものとして特許不可とするべきであったと主張。しかし、予想通り、CAFC はこの主張を却下し、以下のように説明しました。
“第 318 条(a)項は、特許クレームを第112 条の下で不定なものとして特許不可とすることで、その法定限度を超えて行動する権限を審査会に付与していない。Cuozzo Speed Techs., LLC v. Lee, 136 S. Ct. 2132, 2141-42 (2016)を参照のこと。SASにおける最高裁の決定も、審査会にそのような権限を付与していない。SAS Ins. Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348, 1354 (2018)を参照のこと。したがって、我々は、審査会は、クレームを不定なものとして非特許とする法的権限を欠いていると適切に判断したとする。”
この決定は、以前の決定と一致していますが、IPRの重大な欠点を浮き彫りにしています。確かに、一般的な意味では、IPRの申立てで112の根拠を認めることは意味がないかもしれません。しかし、IPRの審査会には欠陥のあるクレームを審査する権限がないため、102や103の根拠が提示されているにもかかわらず、欠陥のあるクレームが有効な特許であることは、技術的な修正によって解決されるべきIPRの側面であると言えます。
解説
これはIPRのルール上の欠陥を指摘してる判例ですね。CAFCが判決で語っているように、IPRでは先行例文献における進歩性・自明性に関わる特許クレームの有効性しか判断してもらえません。しかし、そもそもMeans-Plus-Functionの場合、メインの主張が進歩性・自明性に関わるものであっても、それ以前に申立人がクレームの範囲を示す必要があります。しかし、明細書内にMeans-Plus-Functionクレームに対応する構造がなければ、申立人はクレームの範囲を示すことができません。そのため、IPRにおいて、進歩性・自明性の再審査ができなくなってしまいます。
そもそもこれはおかしな話で、Means-Plus-Functionクレームなのに、明細書に対応する構造の開示がなければ、112条違反で無効となるべきです。しかし、今回の判例のように、現在のIPRのルールではMeans-Plus-Functionクレームに欠陥があっても無効化できません。これは現行のIPRのルールが続く限り、変わるとはないと考えてもいいでしょう。
この問題は、明細書を作成していない側の申立人に証明責任(burden of proof)があること起因だと思われますが、IPRのルール上、申立人が最初に主張することになっているので、Means-Plus-Functionクレームの場合の例外等が設けられない限り、IPRで対応する構造が不透明なMeans-Plus-Functionクレームの再審査は避けた方がいいかもしれません。
ちなみに、IPRの手続きの最中にクレームが補正されれば、101条や112条を含めた通常の特許庁における特許性に関する審査が適用されます。しかし、クレームの補正は出願人主導で行われ、上記の問題の場合、クレームではなく明細書に欠陥があるため、まず出願人が今回のようなMeans-Plus-Functionクレームを補正することはないでしょう。
結局、112条違反は裁判所で戦うしかないのですが、現実的にはdeclaratory judgmentを起こすか、特許権者が直接権利行使するのを待つしかないです。また、今回のようにIPRで審議され判決も出てしまった場合、裁判所における訴訟ではEstoppelの問題はあるのかも気になります。(多分Estoppelが適用される可能性は低いと思いますが。)
TLCにおける議論
この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。
TLCはアメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる今までにない新しい会員制コミュニティです。
現在第二期メンバー募集中です。詳細は以下の特設サイトに書かれているので、よかったら一度見てみて下さい。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP(元記事を見る)