IPRなどで特許を無効にしようとした場合、文献を掛け合わせて自明性を主張することが多いですが、文献を掛け合わせる根拠がどこにあるのかを明確に示すことが大切になってきます。
2つのInformative判決
2019年12月11日、PTABは新たに2つの判決をInformativeとしました。Informative判決というものは、PTABの今後の判決を縛るものではありませんが、ガイドラインとして用いられます。今回新たに加わった2つのinformative判決は両方とも文献の掛け合わせ(combination of references)に関連しているので、まとめて紹介します。
Johns Manville Corp. v. Knauf Insulation, Inc., IPR2018-00827
この判決は、institutionに関する判決です。PTABはこの判決において、チャレンジャーのPetitionerの文献を掛け合わせる根拠が不足していることを指摘し、IPRのInstitutionを行いませんでした。不足理由は3つあります。
1つ目は、先行例文献をanalogous artというだけでは根拠として不足していること。analogous artというのは先行例文献としての最低条件にしか過ぎず、ただ単に先行例文献の互換性を示すだけでは、自明性を結論づけるには不十分としました。そうではなく、当業者が先行例文献をクレームで書かれているような形に合わせる理由を示さなければなりません。
2つ目は、引用された文献のどの部分が掛け合わされる可能性があるかを十分示していなかったことを上げました。PTABはPetitionerが先行例文献のどのエレメントが既存の機能であるか、その機能とは何か、そしてその機能がなぜ予期可能なものなのかを示していなかったと指摘しました。つまり、Petitionerはなぜ当業者がなぜ先行例文献のエレメントを選び、なぜ各エレメントの掛け合わせが予期可能なものなのかを証拠を用いて説明する必要があります。
3つ目は、証拠も提示しないで文献の掛け合わせは当事者の能力の範囲内であるという主張をおこなっていたことを批難しました。IPRにおいては、特許をチャレンジしているPetitionerに掛け合わせを示す説明責任があります。証拠も提示しないで、ただ「文献の掛け合わせは当事者の能力の範囲内である」というのは説得力に欠けるとしました。
Hulu, LLC v. Sound View Innovations, LLC, IPR2018-00582
続いて、2つ目の判決です。これは最終判決(Final Written Decision)に関するものです。この判決では、Petitionerが引用文献を掛け合わせる根拠を十分説明していなかったとして、PTABはクレームの特許性を保持しました。
ここでは、自明性の問題は、掛け合わせや変更が出来たはず(could have made)だけでは不十分で、掛け合わせや変更をしていたはず(would have been motivated to make )でなければいけない。つまり、Could have madeよりもより高い基準の根拠が求められるということが示されました。
まとめ
今回のinformative 判決は何も新しいことには言及しているとは思っていません。自明性を主張する場合に、文献を掛け合わせる根拠がどこにあるのかを明確に示すことは当たり前のことです。しかし、今回のinformative 判決はその当たり前のことをしない、または不十分であると、IPRにおいても自明性を証明できないといういいReminderとしての役割を果たしているのだと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Julie L. Spieker. McKee Voorhees & Sease PLC(元記事を見る)