今回の料金改定でAIA裁判費用は大幅に上がり、新プロハック(Pro Hac)費用が導入されたことにより、IPRやPGRがより裁判所における訴訟に似た性質の手続きになりました。
米国特許商標庁(USPTO)は、3年ぶり2回目となる特許・特許審判委員会(PTAB)の手数料の値上げを発表。2020年10月2日に発効する新しい料金表には、登録されていない実務家(non-registered practitioners)がPTABに出頭するための新しい料金が含まれています。特許再審査・再発行手数料は約5%の増額となります。
最も注目すべきは、最終規則で、AIAの裁判費用が大幅に引き上げられていることです。(詳細はこちらから。)
IPRに関しては、Pre-institutionの費用15,500ドルが19,000ドルとなり、23%の増額となりました。IPRに関しては、Institution後の費用が15,000ドルから22,500ドルに増加し、Institutionに成功した場合、41,500ドルの政府へ支払う費用が必要になります。
PGR は、Pre-institution時点での費用が 16,000 ドルから 20,000 ドルになり 25%の増額となります。Institution後は、22,500 ドルから 27,000 ドルに増加するため、PGRのInstitutionを成功させた場合は、47,000 ドルの政府へ支払う費用が必要になります。
PTABは、SASでの最高裁の判決に起因する追加作業や、裁量的考慮事項のレビューの増加によるコストの増加を主に正当化しています。
新たに設けられた250ドルの訴訟代理人費用については、AIA裁判手続にpro hac vice訴訟代理人として出頭するための費用を導入しています。非登録プラクティショナーの手数料は、非登録プラクティショナーが実務認可を申請する各手続に対するものです。非登録実務家が複数のAIA 裁判手続への出廷を要請する場合、複数の要請と手数料が必要となり、各手続ごとに1つの要請が必要となります。一旦依頼が許可されると、その弁護士は訴訟手続の全期間に渡って弁護士として認められます。この料金は、特許庁が受けた多くのリクエストに応えた形になります。
解説
費用の改訂は大体値上げですが、今回も大幅な値上げになりました。
SAS判決の影響で、IPRやPRGではpartial institutionができなくなってしまいました。そのため、PTABではInstitutionの判断をするときにSAS以前より多くのリソースを使っています。SAS判決後にPTABのALJによる裁量権を用いたInstitution時の判断が増えてきたのもその影響です。このような背景から、Pre-institutionの費用15,500ドルが19,000ドルとなったのでしょう。
Post-institutionにおいてもSAS判決以前であったらPartial Institutionにより一部のクレームについて審議すれば良かったケースでも、SAS判決後はすべてのクレーム(とすべての主張)について審議を行わなければいけなくなってしまったので、より多くのリソースを使うようになっています。このような背景から、Institution後の費用が15,000ドルから22,500ドルに増加ししたのでしょう。
IPRやPRGは原則実際にかかるコストによって料金が決まるようになっています。SAS判決後のPartial institutionの廃止は、PTABのリソースを圧迫したため、今回の大幅な値上げになりました。
次に注目したいのが、Pro hac vice費用の導入。
Pro hac vice、ラテン語:”この機会のために “または “このイベントのために “は、通常、特定の司法管轄区で練習することが認められていない弁護士がその司法管轄区の特定のケースに参加することが許可されていることにより、コモンローの管轄区での練習を指す法律用語。
PTABは特許庁内の組織で、司法機関ではなく行政機関です。そのため、特許庁での手続きはRegistration number (特許庁関連の手続きを代理できる資格。パテントエージェントの資格です)を持っている弁護士(特許弁護士)(またはパテントエージェント)が行うことが通例です。(商標は弁護士がやるので、そこは例外がありますが。)
しかし、今回のPro hac vice費用の導入で、Registration numberを持っていない、特許庁では登録されていない弁護士もIPRやPRGで活躍することが期待されています。
ちなみにPro hac viceというシステムは司法では頻繁に行われていて、特許訴訟でも、例えば、New Yorkの弁護士がカリフォルニア州の訴訟の際にPro hac viceを裁判所に申請するという手続きは一般的に行われています。(その場合でも、書類の提出などは地元の弁護士を介して行われることがほとんどです。)
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP(元記事を見る)