PTABが「Consisting Essentially of」の使用を理由に審査官の拒絶を覆す

先行技術や発明の特徴である組み合わせによっては”consisting essentially of”を使うことで、権利化できることがあります。効果的に”consisting essentially of”を使うには発明の特徴を明確に示したり、追加で実験データ等を提出しないといけない場合がありますが、今回の判例を参考にして、どのような場合に”consisting essentially of”を活用すべきかを学んでみてください。

“Comprising,” “consisting of,” と “consisting essentially of”の違い

米国特許請求項には、通常、”comprising”という用語が含まれています。この用語は、請求項の項目が特定の特定の構成要素を含まなければならないが、その項目は他の特定されない構成要素を含んでいてもよいことを示しています。その一方で、特許請求の範囲には、”consisting of “という用語が含まれることもあります。この用語は、請求項中の項目が特定されない構成要素に閉ざされていることを示しています。

開いた用語 ” comprising “と閉じた用語 “consisting of “の間には、”consisting essentially of “という用語があります。この「中間」の用語は、請求項の項目が、請求項で特定された構成要素に限定されていることを示していますが、それと同時に「請求された発明の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えないもの」であるなら特定されない構成要素を含んでいてもよいことを示しています。In re Herz, 537 F.2d 549, 551-52 (CCPA 1976)。

“consisting essentially of “という半閉鎖的な性質は、特許審査中に使い勝手がいい場合もあります。例えば、先行技術が構成要素A、B及びCの組み合わせを開示している場合、“comprising”という開いた用語だと、構成要素A及びBからなる項目を有する特許請求項と区別することは困難です。先行技術が構成要素Cを必要とする場合、クレームを構成要素AとBのみで構成されるように“consisting of”を用いり修正することで、先行技術と区別することができるかもしれません。

しかし、このような修正クレームは、競合他社の製品の構成要素AおよびBに構成要素Dを追加するだけで、競合他社が容易に設計できる可能性があります。それに比べ、”consisting essentially of “という用語は、特許出願人がクレームの範囲を過度に狭めることなく、先行技術とクレームを区別することを可能にし、中間点を提供することができます。

しかし、”consisting essentially of “という用語を使用する場合、特許出願人は、クレームされた発明の「基本的かつ新規な特徴」が何であるか、また、クレームされた発明が先行技術からの追加的な構成要素を含む場合、それらが「重要な影響を与える」(materially affect[ed])理由を審査官に説明しなければならないことがよくあります。この問題は、最近のPatent Trial and Appeal Board (“Board”)の事例(Ex parte Nakajima)に示されています。

“consisting essentially of “を使ったことにより自明性の判断が覆った例

Nakajima のクレーム1:

A method of modifying starch, comprising subjecting a powdery mixture consisting essentially of starch and water-soluble hemicellulose at a weight ratio of 95:5 to 80:20 to moist-heat treatment at 100 to 200°C.

審査官は、請求項1を、NarimatsuとYoshino という2つの文献を合わせた場合、自明であるとして却下しました。審査官は、澱粉を湿熱処理に付す方法について、Yoshinoに依拠しました。試験官は、Yoshinoが水溶性ヘミセルロースを開示していないことを認め、この成分についてはNarimatsuに依拠。Narimatsuは、水溶性ヘミセルロースを粉体として小麦粉と澱粉を混合したものと記載しているとし、審査官は、Narimatsuの水溶性ヘミセルロースとYoshinoのでんぷんを組み合わせて、ヘミセルロースとでんぷんの混合物を湿熱処理することは自明であったであろうとの立場を取りました。

しかし、出願人は、YoshinoとNarimatsuの組み合わせでは、水溶性ヘミセルロースと澱粉に加えて小麦粉の存在が必要であると主張。このため、出願人は、これらの文献の組合せは、粉状混合物が本質的にデンプンと水溶性ヘミセルロースからなるという(consist essentially ofの)要件を満たさないと主張しました。

特に、出願人は、小麦粉の存在が、請求された発明の基本的および新規な特性に実質的に影響を与えるだろうと主張しました。出願人は、請求された発明の基本的かつ新規な特性を、澱粉顆粒の膨潤または崩壊の抑制として特定。出願人は、小麦粉にデンプンと水溶性ヘミセルロースを含有させても、このような抑制には至らないと説明しました。この説明は、小麦粉を含むサンプルが、小麦粉を含まないサンプルで観察されたデンプン顆粒の膨潤および崩壊に対する同様の抑制効果を示さなかったことを示す、申告書(declaration)に提出された実験データによって裏付けられたものでした。

小麦粉の存在は、クレームされた発明の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えることから、出願人は、小麦粉は”consisting essentially of “の文言で除外されるべきであると主張しました。

これに対し、審査官は、Narimatsuの水溶性ヘミセルロースとYoshinoの澱粉を組み合わせることは、Narimatsuの小麦粉を含まずに自明であったと主張しました。

PTAB審査会は出願人の意見を支持。審査会は、Narimatsuが小麦粉と澱粉の混合物に水溶性ヘミセルロースを添加することは教示しているが、澱粉のみに水溶性ヘミセルロースを添加することは教示しておらず、示唆もしていないと判断。審査会は、請求項1の粉状混合物に小麦粉を含めることが、請求項1の発明の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えることになるという十分な証拠を出願人が提供したことに同意。したがって、審査会は、小麦粉は”consisting essentially of “という文言によって除外されると判断し、自明性の拒絶を覆しました。

要点

“consisting essentially of “という用語は、開放的な”Comprising”という語句と閉鎖的な”consisting of”という語句との間の中間の領域を提供するものです。”consisting essentially of “という表現を使用する場合、出願人は、請求された発明の基本的な特徴と新規な特徴が何であるかを記録上で特定する準備をしておくべきです。また、出願人は、請求された発明が先行技術の追加構成要素を含む場合、基本的および新規な特徴がなぜ重要な影響を受けるのかを説明するために、実験データに裏付けられた技術的な議論を提供する準備をしておくべきです。

解説

アメリカ特許を学ぶ際に必ずと言っても学ぶ” comprising,” “consisting of, ” “consisting essentially of”ですが、今回のPTABの判例のように実例を用いて”consisting essentially of”の範囲やコンセプトを学ぶのは有益です。

今回の判例でも示されているように、”consisting essentially of”は先行技術との兼ね合いによっては有益ですが、ただ単に”consisting essentially of”という言葉を使うだけでは不足で、発明の特徴を特定したり、実験データ等も提出したりと、出願人にとって負担も多いのが事実です。

なので、できれば”consisting essentially of”に頼るクレームではなく、“comprising”でも先行技術と差別化できるようなクレームドラフティングをすることがベストでしょう。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Matthew E. Barnet. Element IP(元記事を見る

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