今回紹介する判例の影響で、今現在PTABでの最終判決が出ていて、CAFCに控訴中の案件は、PTABにおける最終判決が破棄される可能性があります。また現在PTABで争われているIPRやCBMにも影響があるかも知れません。
判例
Arthrex, Inc. v. Smith & Nephew, Inc., No. 2018-2140 (Fed. Cir. Oct. 31, 2019)において、CAFCは、the Patent Trial and Appeal Board (“PTAB”)における the Administrative Patent Judges (“APJs”) の任命が憲法第2条のAppointments Clauseに違反しているとしました。この判決は今後のPTAB trialに大きな影響を与える可能性があります。
CAFCの救済措置
既存の法律が憲法違反となると、大きな問題に発展する可能性があります。そこで、CAFCは今回の案件の憲法違反の救済措置として、特許法の一部であるAPJの解任についての制限を切り離すことで、任意に解任できるとし、APJをprincipal officerではなくinferior officerとして扱えるようにしました。(この部分に関する解説は後ほど)。
また、このArthrexの案件については、PTABにおける最終判決を棄却し、新しいAPJのパネルによる再審議を命令しました。
Principal officerとinferior officerの違い
PTABは特許庁に属する行政機関の1つで、特許庁はU.S. Department of Commerceに所属する組織です。つまり、PTABでIPRやCBMの手続きを担当するAdministrative Patent Judges (“APJs” 日本語では、行政特許判事)は、行政で働いている役員(officer)ということになります。しかし、役員にも2つ種類(Principal officerとinferior officer)があり、Principal officerの場合、大統領による使命が必要になってきます。
APJはPrincipal officer
CAFCはAPJの仕事内容や責任からAPJはPrincipal officerだと判断。その判断を導き出すのにCAFCは主に以下の3つ点を考慮しました。
- 特許庁で唯一大統領による使命があり、上院(Senates)でconfirmationがおこなわれた特許庁長官がAPJの判決に対して再評価をするだけの十分な権限がなかったこと(APJ がPrincipal officerだという要素)
- しかし、特許庁長官は特許庁内でのルールの設定や給与などを通してAPJに関してある程度の監督権限を持っている(APJ がinferior officerだという要素)
- といっても、特許法でAPJの解任について制限がかけられている (APJ がPrincipal officerだという要素)
CAFCはこのような点を総合的に判断し、APJはPrincipal officerであると判断しました。
しかし、APJは大統領ではなくthe Secretary of Commerceによって任命されているので、Principal officerの任命は大統領によるものでなければいけないという憲法第2条のAppointments Clauseを違反していることになります。
憲法違反の救済措置
CAFCは現在のAPJはPrincipal officerだとしましたが、APJの解任の制限に関わる特許法の部分を取り除くことで、APJはinferior officerになり、彼らの任命は憲法第2条のAppointments Clauseを違反しなくなるとしました。
しかし、本件のArthrex のPTABにおける判決は、適切に使命されていないprincipal officersの状態であったAPJが担当したので、PTABで下された判決を破棄する必要があります。そして、PTABに差し戻しされる際は、違うAPJが担当して再審議をすることになります。
この判決の影響
一番大きな影響があるのは、今現在、PTABでの最終判決が出ていて、CAFCに控訴中の案件です。このようなケースは、PTABにおける最終判決が破棄される可能性があります。そうなると、ほぼ自動的にCAFCはPTABに案件を差し戻し、新しいAPJのパネルで再審議がおこなわれるでしょう。
その他にも、現在PTABで争われているIPRやCBMにも影響があるかも知れません。少なくとも、現在のPTAB手続きの当事者は、憲法第2条のAppointments Clause違反に関する主張を見越して、対応策を考えておいた方がいいでしょう。
また、特許庁としては、この判決は不利なものなので、このCAFCの判決を不服として、CAFCにおけるen bancや最高裁への控訴も考えているかもしれません。また、特許庁はこのArthrex 判決を受け、現在進行中またはCAFCに控訴中の案件に対して何らかのガイドラインを発表するかもしれません。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Naveen Modi, Joseph E. Palys, Stephen B. Kinnaird, Daniel Zeilberger and Igor V. Timofeyev. Paul Hastings LLP(元記事を見る)