秘匿特権とワークプロダクトの正しい理解

“Privileged and Confidential: Subject to Attorney-Client Privilege and Work Product Doctrine“と書いてある書類やメールがすべて保護の対象になるとは限りません。弁護士でなくてもどのような条件下で秘匿特権やワーク・プロダクトが有効になるのかを知っておく必要があります。

弁護士・依頼者間の秘匿特権

弁護士・依頼者間の秘匿特権(attorney-client privilege)は、弁護士とその依頼人の間の法的なアドバイスの依頼とその提供に関するコミュニケーションを保護します。

以下のようなコミュニティが保護の対象になります:

  • 弁護士からの法的助言のためのクライアントの要求
  • 弁護士がアドバイスをするために必要な事実を伝えるクライアントのコミュニケーション
  • 弁護士がアドバイスするために必要な事実をクライアントに求める依頼
  • 弁護士の法的助言

社内・顧問弁護士とのコミュニケーション

Upjohn Co. v. United Statesにおいて米国最高裁が、弁護士と依頼人の秘匿特権が、企業の顧問弁護士と企業の従業員との間のコミュニケーションに適用されることを認めたのは、以下の場合です:

  • 従業員が弁護士の指示で弁護士と通信している場合
  • 従業員が会社の上司の指示により、社内弁護士とコミュニケーションをとる場合
  • 従業員が、以下の目的のために社内弁護士と連絡を取り合う:
    • 会社のために法律上のアドバイスを得るため
    • 弁護士が会社に法的なアドバイスを与えるために必要な事実を提供するため
  • 従業員は、企業が法律上の助言を得るために、弁護士またはその代理人が従業員に質問していることを十分に認識している場合
  • 従業員の職務の範囲内の事項に関するものである場合
  • コミュニケーションが機密である場合

(449 U.S. 383, 390-97 (1981))。

裁判所は、この特権は以下にも及ぶとしてます:

  • 議論が元従業員の行為や雇用中に得た知識に関連する場合の企業の顧問弁護士と元従業員との間のコミュニケーション(In re Gen. Motors LLC Ignition Switch Litig.、80 F. Supp. 3d 521, 526 (S.D.N.Y.) 2015)).
  • 依頼人への法的助言を提供するために弁護人が雇った代理人やコンサルタントと弁護人のコミュニケーション(United States v. Kovel, 296 F.2d 918, 921 (2d Cir. 1961))。

ワークプロダクト・ドクトリン

ワークプロダクト・ドクトリン(work product doctrine)は、他の当事者またはその代理人による、またはその代理人のために作成された訴訟や裁判を見越して作成された文書や有形物を第三者に開示することから保護します(FRCP 26(b)(3)(A))。

ワーク・プロダクト・ドクトリンは、訴訟を想定して作られた以下のような文書を保護します:

  • 依頼人が作った書類
  • 依頼者の弁護士が作った書類
  • 依頼者および弁護士の代理人およびコンサルタントが作った書類
  • 依頼者または弁護士が依頼した専門家が作った書類

ワーク・プロダクト・ドクトリンが適用されるかいないかを裁判所が判断する場合、裁判所は「訴訟を見越して」(“anticipation of litigation”)作られた書類かどうかを以下のように解釈します:

  • 予期された訴訟の為に作られた書類
  • 訴訟を見通していなければ同じような形で作成されることがない書類

(In re Grand Jury Subpoena, 357 F.3d 900, 908 (9th Cir. 2004))。

ワーク・プロダクトの種類

米国の法律で認められているワークプロダクトの種類は以下の2つです:

  • 事実ワーク・プロダクト。この書類に値する例は以下のようなものです:
    • 弁護士のタイムスリップと請求書の記録
    •  訴訟当事者の機密証人のリスト
    • 会社の訴訟ホールド通知
    • 日付など宣誓供述書などのロジスティクスに関わる情報を含む文書
  • オピニオンワーク・プロダクト。弁護士や他の当事者の以下のような事項が示されているもの:
    • 精神的な印象
    • 結論
    • 意見
    • 法的な理論

(FRCP 26(b)(3)(B))

裁判所は一般的にオピニオンワーク・プロダクトをほぼ絶対的に保護しており、請求当事者は特別な状況下でのみ情報を得ることができるとしている(In re Cendant Corp. Sec. Litig. 343 F.3d 658, 664 (3d Cir. 2003) (判例集) を参照)。

しかし、請求当事者は、以下の両方を示せば、事実ワーク・プロダクトの保護を解除することができます:

  • 事実ワーク・プロダクトの情報が実質的に必要な場合
  • 不当な困難を伴わずに他の手段では実質的に同等の資料を入手できない場合

解説

弁護士・依頼者間の秘匿特権(attorney-client privilege)の表示を幅広いコミュニケーションに付けている人もいますが、実は明確なルールがあり、クライアントの立場であってもどのようなコミュニケーションが該当するのかを知っておく必要があります。

1. 弁護士とその依頼人の間:つまり、コミュニケーションを取っている弁護士とその依頼者の間には雇用関係が必要です。例えば、セミナーの後の質疑応答などのコミュニケーションは雇用関係がない状態なので、秘匿特権では保護されません。

2. 法的なアドバイスの依頼とその提供: コミュニケーションの内容が法的なアドバイス(legal advice)に関することがらでないといけません。

また、社内の弁護士とのコミュニケーションにも秘匿特権は適用される場合がありますが、社内弁護士の場合、「法的なアドバイスの依頼とその提供」とは関係ないコミュニケーションも多いので、どのようなコミュニケーションが保護の対象になるかを意識しないといけません。例えば、知財部の予算などビジネス関連のコミュニケーションは保護の対象にならない可能性があります。

まとめると、弁護士・依頼者間の秘匿特権を正しく使うには、コミュニケーションの対象(雇用関係のある弁護士)とコミュニケーションの内容(法的なアドバイスに関するもの)という2つの点に気をつける必要があります。

ワーク・プロダクトは秘匿特権とは別のコンセプトです。しかし、こちらの方がより限定的で、保護の対象になるには、「訴訟を見越して」(anticipation of litigation)いる状況であることが前提条件にあります。この部分を理解していない人が結構多いので、ワーク・プロダクトが適用されるか否かを判断する場合、対象になっている書類が「訴訟を見越して」(anticipation of litigation)作られたものなのかをきちんと判断してください。

また、今回は触れませんでしたが、弁護士・依頼者間の秘匿特権やワーク・プロダクトで保護されていたとしても、特定の訴訟状況ではその権利を放棄(waive)して情報を相手の当事者に開示しないといけない場合があります。そのため、そもそも法的なアドバイスに関わるようなセンシティブな情報はなるべく書面化しないことが望ましいでしょう。

質問:提携している特許弁護士から秘匿特権やワーク・プロダクトに関する説明を受けたことがありますか?

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:MARGARET A. DALE AND YASMIN M. EMRANI, PROSKAUER ROSE LLP(元記事を見る

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