AIAでは inter partes reviews (IPRs) とpost-grant reviews (PGRs)という2つの再審査手続きが作られました。しかし、AIA施行から8年が立つ今日、IPRは積極的に利用されていますが、PRGは全くと言っていいほど利用されていません。今回はなぜPGRが活用されていないのかを見ていきます。
AIAにより始まったPGR
AIAとよばれる米国特許法改正でinter partes reviews (IPRs) とpost-grant reviews (PGRs)という2つの再審査手続きができました。AIAが施行されてた2011年から約8年が経過しましたが、IPRに比べてPGRは数えるほどしか行われていません。
PGRとは
AIAにより、PGRは2012年9月16日から有効になりましたが、PGRの対象になる特許は2013年5月16日(AIA特許)以降に有効出願日(effective filing date)をもつクレームが少なくとも1つある必要があります。
また、PGRの申し立ては、特許が交付されてから9ヶ月以内におこなう必要があり、申し立てのタイミングはIPRよりも限定的です。
しかし、IPRに比べ、より幅の広い理由による特許無効を主張できます。たとえば、PGRでは、IPRでは考慮されない、35 U.S.C. §§ 101 や112に関する無効主張ができたり、先行例も特許や文献以外のものも考慮されます。考慮されないものと言えば、obviousness-type double patenting やinequitable conductぐらいです。元記事の図1には申し立てで主張された無効理由の内訳が示されています。§§ 101, 102, 103, 112a, 112bなど様々な主張がなされています。
PGRはまったく活用されていない
しかし、このような一見便利そうな手続きであるPGRですが、現実では全く使われていません。実に全体の2%がPGRで、すべての案件を合わせても187件です。(元記事図2を参照)。
PGRの申し立て数は年々伸びていますが、IPRの申し立て数と比べるとほんのわずかなので、ほとんど活用されてないと言ってもいい数字です。(元記事図3を参照)。
PRGが活用されない理由はその「結果」ではない様子
活用されていない手続きによくある原因が、「結果がでない」からですが、どうやらPGRの場合はそうではないようです。
統計的に見て、PGRもIPRもほぼ同じようなInstitution rateです。PGRの方が数パーセント低いですが、これはIPRでは考慮されない主張(35 U.S.C. §§ 101 や112に関する)が影響しているのだと思われます。
また、Institution後もIPRと比較すると、PRGの方がクレームを無効にするには有効です。クレームのサバイバルレートはIPRの24%にくらべ、PGRは15%となっており、PGRはより特許を無効にしたいチャレンジャーに有利な手続きになっています。(元記事図7を参照)
Final written decisionによるクレームの扱いもほぼIPRと同じか、IPRよりもチャレンジャーに有利な内訳になっています。(元記事図8を参照)。
技術別に更に深い分析も行っているので、詳細は元記事を参照してください。
PGRが活用されない理由(推測)
毎年IPRは1,000件以上申し入れされるのに、PGRは十数件程度です。ではなぜそのような差があるのでしょうか?
1.PGRの対象になる特許が少ない
冒頭でも説明したように、PGRの対象になる特許は2013年5月16日(AIA特許)以降に有効出願日(effective filing date)をもつクレームが少なくとも1つある必要があります。そのため、PGRの対象になるような特許がPre-AIA特許に比べて相対的に少ないことが原因の1つとして考えられます。
2.PGR手続きの時間的制限
これも冒頭でも説明しましたが、PGRの申し立ては、特許が交付されてから9ヶ月以内におこなう必要があり、申し立てのタイミングはIPRよりも限定的です。また、IPRの80%以上は特許訴訟が原因で申し立てが行われています。
つまり、特許訴訟が起きたときに、すでに権利行使されている特許の発行から9ヶ月が経過していたらPGRの手続きを開始することはできません。そのため、PGRを検討する場合は、訴訟の有無に関係なく、問題となる特許が発行されたらすぐに行動しなければいけません。PGRを行うには他社特許の新規取得を注意深く監視する必要があるので、このようなリソースの必要性がPGRの申し立て件数に影響していると思われます。
3.潜在的なestoppelの問題
Estoppelの問題はIPRでもありますが、35 U.S.C. §325(e)によると、PGRによるFinal Written Decisionがあった場合、PGRで考慮された主張や合理的に考慮されることが出来た主張(“raised or reasonably could have raised”)は地裁、ITCや、その他のUSPTOでの手続き(IPRなど)では主張できないとなっています。
つまり、PRGで結果が出せなかった場合、地裁などで35 U.S.C. §§ 101 や112による無効理由を主張できなくなるリスクがあるので、特許庁における無効審判手続きはIPRによる先行例文献に限定して行い、その他の問題は地裁であらそうような主張の住み分けがおこなわれているのではと考えることもできます。
4.費用
PGRの費用はIPRよりも高いです。しかし、違いはそれほど多くなく。訴訟コストよりも格段に安いです。
まとめ
予想される理由はさまざまありますが、PGRがIPRよりも活用されていないのは事実です。しかし、IPRや判例によっては、今後PGRの評価も高まり、より活用されていくことも考えられます。
PGRのデータはまだあまりないのでそこから見えてくるものは限られていますが、状況によってはPGRは有効な手段になり得るので、PGRの特徴や統計的なデータや数字も頭に入れておいた方がいいでしょう。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Mark J. Feldstein, Ph.D., Joshua L. Goldberg, Jill K. MacAlpine, Ph.D., Gracie K. Mills, Stacy Lewis and Thomas L. Irving. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner LLP (元記事を見る)