SAS判決後のIPR戦略

最高裁によるSAS判決については大きく取り上げてきましたが、今回の判例は、IPR申立人にとっていかに強い主張を選択するかという戦略面の重要さを物語っています。

SAS判決

2018年に最高裁でくだされたSAS Institute, Inc. v. Iancuは、IPRに大きな影響を及ぼしました。それまで一般的に行われていたPartial institutionを廃止し、PTABで行われるIPRはすべての対象になったクレームと主張について行うか、それとも、すべてについて行わないかの2択となりました。

BioDelivery事件

今回のBioDelivery事件では、SAS判決により、SAS以前にPartial institutionになったものが、SAS判決後ではinstitutionさえされない事態になってしまいました。

今回の案件は、SAS判決が下される前、2014年にBioDeliveryによって申し込まれたIPRが発端です。このIPRで、BioDeliveryはMonosolの特許に対して17もの無効理由を主張しました。その後、PTABは2015年に3つのIPRを開始することを決めましたが、17の主張のうち1つのみに対してIPRが行われ、3つのIPRの内1つは一部のクレームのみがIPRの対象になりました。

このようなPartial institutionの結果、対象クレームすべてにおいて特許性が認められました。その判決を不服とし、IPR申立人であるBioDeliveryはCAFCに上訴。その間にSAS判決が下り、SAS判決に伴い、案件はPTABへ差し戻され、IPRのInstitutionに対する判断が再度争われました。

差し戻されたPTABでは、SAS判決以前にPartial institutionで行われたIPRを破棄し、BioDeliveryの主張のほとんどがIPRのInstitutionの基準を満たすものではないとして、3つすべてのIPRに対してInstitutionを行わないことを決定しました。

教訓

この案件での教訓は、SAS判決によるIPR戦略の変化です。SAS以前はPartial institutionがあったので、Institutionの基準に満たない恐れがある無効理由でも主張は可能でした。しかし、SAS判決後にそのような弱い無効理由を主張しすぎてしまうと、IPRのInstitutionが行われない可能性があります。つまり、IPR申立人としてはInstitutionが行われるよう強い無効主張を厳選する必要があります。

これはIPR戦略に関するSAS前後での大きな変化なので、今後IPRを検討している企業にとっては重要な判例になります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: S. Christian Platt. Jones Day(元記事を見る

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

amazon
商標
野口 剛史

Amazon Brand Registryレポートの最新動向

Amazon Brand Registryは、メーカーが「知的財産の保護」「リスティングの管理」「ビジネスの成長」を支援することを目的としたAmazonのツールです。Amazon Brand Registryは、Amazonにおけるブランドの知的財産権(IP)の侵害を報告するのに役立つツールですが、慎重かつ適切に使用しなければすぐにブランドの大きなリスクにつながる可能性があります。ここ数ヶ月、不適切または軽率なAmazonブランドレジストリの削除の結果、否定的な結果を報告するブランドが増えていることがわかっています。

Read More »
商標
野口 剛史

NikeがNFTをめぐりStockXを商標侵害で提訴

2月3日、Nikeはスニーカーの再販マーケットプレイスを展開しているStockXを商標侵害で訴えました。Nikeは、StockXが同社の商標を使用した非代替性トーク(NFT)を承認なしに発行し、高値で販売していると主張しています。

Read More »
analysis-data-statistics
再審査
野口 剛史

2018年8月のIPRとCBM の統計データ

8月PTABは39件のIPRとCBMのFinal Written Decisions(最終判決)を下しました。この数字には、CAFCからの差し戻しも含みます。争われたクレームの内424 クレーム(75.58%)を取り消し、131クレーム(23.35%)の取り消しを却下。特許権者が補正やdisclaimerを行い6クレーム(1.07%)が生き残りました。いままでの争われたクレームの累計取り消し確立は、約75%です。

Read More »