2019年5月、PTABはIPRのInstitutionに関する2つの判決を判例として定めました。このことにより、特定の状況下ではIPRのInstitutionが却下される可能性があるので、注意が必要です。今回の判例から気をつけたいポイントは以下の通りです。
- PTABは2番目に申し出があったIPRが期限以内に提出されていても、IPRのInstitutionを却下する場合がある。
- もし2番目の申立人が最初にIPRの申し出を行った申立人と「重要な関係」にあった場合、2番目の申立人はIPR手続きを早急に行う必要がある。
- 2番目の申し立てを待った場合、申し立てが認められない可能性がある。特に、待つことによって2番目の申立人に利益がある場合(例えば、1つ目のIPR判決に対して反応できる場合など)。
- 審査官の間違えを明確に指摘できたり、追加の証拠や事実を元に先行例を再検証できたりしないのであれば、出願時に提示された先行例を再度IPRで提示するのはよくない。
- もし平行して行われている地裁で同じ問題が議論されていて、IPRの判決が下る前に地裁での判決が下る見通しなら、IPRのInstitutionが認められない可能性が高い。
1つ目の判例:Valve Corp. v. Electronic Scripting Products, Inc.
General Plastic ファクターを用いて、後継のIPRのinstitutionを却下。See General Plastic Industrial Co., Ltd. v. Canon Kabushiki Kaisha, IPR2016-01357, Paper 19 17-18 (PTAB Sept. 6, 2017)(precedential)
背景として、同じ特許の同じクレームに対して、HTCがすでにIPR申請を行っていました。そこで、後にValveから申し出があった2つ目のIPR申請が「同じ申立人」から行われたものか(そうであれば重複するので却下)が問題になりました。
ValveはHTCとは全くの別会社で、厳密に言うと「同じ申立人」ではありませんが、PTABはGeneral Plastic ファクターは複数の申し立てが同じ申立人から行われた場合にのみ適用されるものではなく、General Plastic ファクターを考慮する際は、申立人同士の関係性を見るとしました。
本件では、HTCもValveも同じ地裁訴訟の被告人であり、Valveからライセンスされた技術が使われたHTCの製品の特許侵害が疑われていたこともあり、両申立人の間には「重要な関係」があると判断。
ValveはHTCによる最初のIPRを知っていた、または知っているべきであり、ValveがHTCの申し立てから5ヶ月待って行ったIPRの申し立ては遅すぎると判断しました。
また、今回の判決には、ValveがHTCによるIPRのInstitution判決を待って、その判決を元に自社のIPR申し立てに反映できたとして、待つことでValveに利益が生じた点も考慮されたようです。
2つ目の判例:NHK Spring Co. v. Intri-Plex Technologies, Inc
この判例において、PTABは特許庁にすでに提示された先行例文献や主張と同じかほとんど同じものがIPRで提示されたとして、IPRのinstitutionを却下しました。
PTABはIPR申立人のNHK Springが提示した先行例文献や主張は出願時に審査官が十分考慮したものだとしました。また、PTABはNHK Springは審査官が提示された先行例文献に対して謝った見解を示していたことも、PTABが審査官の判断を再考する理由も十分提示しなかったとしました。
さらに、平行して行われている地裁でも、NHK Springは同じ主張をしており、地裁における判断がIPRの完結よりも早く下される可能性が高いことから、現時点でIPRを行うメリットがないことを示しました。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Kwanwoo Lee. Marshall Gerstein & Borun LLP (元記事を見る)