製薬業界ではブランド製薬会社とジェネリック製薬会社の間の争いが激しく、その多くには特許が関わってきます。今回も製薬特有の特許回避戦略スキニーラベルに関わる誘引侵害(induced infringement)のケースにおいて、スキニーラベルで特許が回避できなかった判例があったので紹介します。
概要:医薬品の投与方法の誘引の証拠は、後発医薬品の表示に記載された使用方法の表示に限定されない。後発医薬品を先発医薬品と同等であると宣伝することは、後発医薬品が表示されていない使用法の侵害を誘発するのに十分な場合がある。
判例:GLAXOSMITHKLINE LLC v. TEVA PHARMACEUTICALS USA, INC. [OPINION] – PRECEDENTIAL
GSK社は、GSK社のブランドであるCoreg®で販売されているカルベジロールのジェネリック医薬品の販売に基づいて特許侵害を誘発したとして、Teva社を提訴しました。GSK社のカルベジロールの成分に関する特許は2007年に失効しています。しかし、別にGSKはうっ血性心不全の治療にカルベジロールを使用する方法に関する特許を持っており、GSKはTeva社を、方法に関する特許を侵害したとして告訴しました。Teva社は、カルベジロールの後発品を(フルラベルではなく)「スキニーラベル」を付けて販売していたが、これは先発品が承認されている適応症の一部にしか表示されていなかった。Teva社のスキニーラベルには高血圧症への使用が記載されていたが、うっ血性心不全については意図的に切り分けられており、言及されていなかった。しかし、陪審員はTevaが故意に侵害していると判断し、損害賠償を請求。連邦地裁は、Tevaがうっ血性心不全の治療方法に関する特許を医師に直接侵害させたという証拠がないことを理由に、TevaのJMOL(Judgement as a matter of law)による誘因性なしの申し立てを認めた。
*「スキニーラベリング」(Skinny labeling)とは、後発医薬品メーカーが、ブランド薬が承認されている適応症のすべてではなく一部の適応症の承認を求めること。
連邦巡回控訴裁は、誘発された侵害の評決と損害賠償額を回復させました。裁判所は、医師がカルベジロールとその使用法をTevaのジェネリック医薬品の販売前から知っていたことを理由に、Tevaが循環器内科医に直接侵害をさせたのではないとするTevaの主張を退けました。裁判所は、Teva社のプロモーション資料、プレスリリース、製品カタログ、FDAのラベル、Teva社のジェネリックがCoreg®と同等であることを記載した目撃者の証言は、いずれも誘引の実質的な証拠であると判断しました。裁判所は、「同一の製品の提供者が、意図された直接的な侵害行為のために同一の製品を知り、販売している場合、侵害誘発の基準は満たされる」と述べました。
Prost判事は反対意見を述べた。同判事は、連邦議会がまさにこのような状況のためにスキニーラベリングの実施を具体的に認めていると指摘しました。
解説
製薬関係でないとあまり聞き慣れない「スキニーラベリング」という言葉ですので、少し解説します。
ブランド医薬品メーカーは、すこしでも薬の価値を維持し独占状態を保つために、オリジナルの有効成分に関する特許の有効期限が切れて特許保護がなくなっても、継続してブランド医薬品を守れるように、後続で「新規使用」に関する特許を出す場合があります。この使用特許が認められれば、実質特許の期限を延命することができるのです。
今回の判例で問題になった薬も、成分に関しては2007年に権利が満了していて、うっ血性心不全の治療に関する使用特許が権利行使されました。
このような(一部の)使用に関する特許保護を回避するために、後発医薬品メーカーが、ブランド薬が承認されている適応症のすべてではなく一部の適応症の承認を求めることがあります。これが「スキニーラベリング」というものです。
今回の判例ではGSKのうっ血性心不全の治療に関する使用特許を回避するために、Teva社のスキニーラベルにはうっ血性心不全については言及されていませんでした。このことからスキニーラベリングでTeva社は意図的にGSKの使用特許の回避を狙ったことがわかります。
しかし、今回はジェネリック医薬品のスキニー表示は、非適応外用途をカバーする特許権の侵害を回避できないという判決がCAFCで下りました。
CAFCは、スキニーラベリングだけでなく、Teva社のプロモーション資料、プレスリリース、製品カタログ、FDAのラベル、Teva社のジェネリックがCoreg®と同等であることを記載した目撃者の証言など他の証拠を総合的に見て、Teva社が医師に直接侵害させたという誘引侵害を認めました。
この判例から、スキニーラベリングというテクニックはまだ有効だと思われますが、ラベルというテクニカルな部分にとらわれず、総合的な証拠が考慮されるようなので、ブランド製薬会社、ジェネリック製薬会社共にこの判決は詳しく読んでおいたほうがいいかもしれません。
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Serah Friedman, Ph.D., Mark Kachner and Paul Stewart. Knobbe Martens(元記事を見る)