特許訴訟数で争うWest TexasとDelaware

アメリカで特許権者が特許訴訟を起こす場合、裁判地(venue)をある程度選ぶことができます。当然、特許権者としては自分に有利な裁判地で戦いたいと思うので、そこで裁判地は比較されるようになります。特許訴訟を喜んで受け入れる裁判地は少ないですが、それでも積極的に「誘致」しているところもあり、その1つがWest Texasです。

特許訴訟全盛期の2015年はEast Texasが大人気

何年もの間、テキサス州東部地区(Eastern District of Texas)が、特許権者、特にNPEにとって、最も人気がある裁判地でした。2015年には、東部地区には2500件以上の特許訴訟が起こり、次に多かったDelawareの550件の4倍以上の実績がありました。

しかし、2017年に最高裁判所がTC Heartlandの判決を出したことで、特許訴訟の裁判地要件が大幅に強化され、侵害者が物理的に存在する場所か、法人設立の州のいずれかで訴訟を起こすことが求められるようになりました。

これにより、被告が物理的に存在しない地域で訴訟を起こすことが難しくなりました。

TC Heartland事件後は、Delawareが筆頭に

TC Heartland事件後、多くの企業がDelawareで法人設立しているということもあり、Delawareが裁判地として選択されるようことが多くなりました。実質、特許権者は、「侵害者が物理的に存在する場所」でも訴訟を起こせるのですが、NPEのように同時に複数の企業や組織を訴えるスキームの場合、訴訟を別々の地域でマネージするよりも、Delawareで一括管理する方が都合がいいので、そのような便宜上の理由からDelawareに集中したのかもしれません。

2018年からWest Texasが「誘致」を始める

しかし、2018年末にAlbright判事がテキサス州西部地区(Western District of Texas)の地方裁判所判事に就任してから状況が変わり始めます。

Albright判事は、判事になる前から特許の専門家で、特許事件には特に注意を払っていました。テキサス州西部地区は、Austin, San Antonioや El Pasoを含む広大な地区であり、特にAustinにはハイテク企業が多く進出していることから、特許権者が注目するようになりました。

Albright判事は新しいローカル特許ルールを作り、特許訴訟を合理化し、新規の特許訴訟を誘致するような仕組みを作りました。Albright判事のアプローチには、より具体的な侵害申し立てのための早期の要求、早期のクレーム解釈、クレーム解釈中のディスカバリーの遅延対策(被告のビジネスへの影響を遅らせる)、そして多くの地区に比べて迅速な裁判設定など、原告・被告を問わずメリットが受けられるようになっています。

また、Albright 判事は、彼の所属する部門(Waco)で唯一の判事であるため、Wacoを裁判地として正当化できる原告は、特許を得意とするAlbright 判事が100%の確立で訴訟を担当してくれるという確約を得ることもできます。

West Texasにおける特許訴訟が急増中

Albright判事がWestern District of Texasに与えた影響は明らかです。

2017年にテキサス州西部で提出された特許訴訟はわずか85件でしたが、2019年には288件、2020年には850件以上が提出されました。それまで勢いがあったテキサス州東部地区の事件件数は減少し、2019年には350件以下、2020年には400件以下となっています。

Delaware州の新規申請件数は、2019年に1,000件を超えたが、2020年には730件に減少していて、本来はDelawareに提出される予定だったものが一部、西テキサスに移動したと思われます。

West TexasとDelawareが二大勢力

現在の特許訴訟の裁判地の分布は、デラウェア州と西テキサスに分かれており、残りは全国に散らばっています。西テキサスとデラウェア州のどちらが特許訴訟の裁判地とし選ばれるか、まだ決着はついていません。2020年は西テキサスでより多くのケースが提出されていますが、2021年は2月末時点でデラウェア州がリードしています。

コロナ禍でTexasは更に魅力的な裁判地になるか?

テキサス州の「ビジネスに開かれた」姿勢も裁判地決定に貢献するかもしれません。

最近、特許損害賠償で20億ドルという驚異的な陪審員の判決が出たことでもわかるように、テキサス州はパンデミックの最中でも陪審員による公判をおこなっています。コロナ禍の中、民事訴訟に大きな遅れが出ている州や裁判地も珍しくなく、公判に消極的な裁判地も多い中、これは特異に値します。

特許訴訟に適した裁判地はこのように変わっていきます。West Texasは、特許経験のある新しい判事、積極的なローカル特許ルール、有利な陪審員の評決により、特許訴訟に特化した裁判地として生まれ変わりました。

裁判地の選択は、訴訟を有利に持っていくための大切な戦略の1つです。そのため、今後NPEのターゲットになることが合った場合、テキサス州西部地区で訴訟が起こされることも十分ありえるので、今のうちにテキサス州西部地区のローカルルールや判例について勉強しておくといいでしょう。

参考文献:”A race between West Texas and Delaware for the patent venue of choice” by Robyn Ast-Gmoser and Anthony F. Blum. Thompson Coburn LLP

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

訴訟
野口 剛史

時間軸で気をつけたい秘匿特権の落とし穴

特許訴訟における権利行使やその弁護のために信頼できる弁護士事務所を選ぶのは大切ですが、正式に雇う前にやり取りされた情報は、たとえその事務所を代理人として選んだ場合でも、秘匿特権の保護を受けない可能性があります。なので、戦略など訴訟に関わる重要な情報のやり取りは正式に代理人を任命してから行いましょう。

Read More »
契約
野口 剛史

元従業員がすでに退社した会社に発明を譲渡する義務はあるのか?

会社の元従業員は、雇用終了後1年以内は発明の秘密を守り、発明があれば会社に開示するという契約上の義務を負っていました。裁判の結果、陪審員は、従業員が機密情報を含む特許出願をしたことで機密保持義務に違反したものの、その発明を原告に知らせなかったことは開示義務に違反していないと判断しました。

Read More »
商標
野口 剛史

ブランド戦略:6つのポイント

1.ブランドをどのような製品・サービスに使うのか?2.どこで製品やサービスを販売するのか(日本のみ、アメリカ、世界中)?3.考えている商標は製品やサービスの機能を表したもの、もしくは、業界用語だった場合など知っておきたい6つのポイント。

Read More »