地方裁判所における手続き保留に関わる4つの要素

地裁における特許訴訟は、一定の状況下において判事の裁量により手続きが「保留」(Stay)されることがあります。保留されてしまうと地裁での手続きが滞ってしまうので、一般的に特許権者が不利になります。訴訟戦略上、地裁の保留は重要な役割を担うので、判事がどのようなことを考慮し保留の決定を行うのかを判例を通して見ていきます。


地方裁判所は、一般的に、特許審判不服審査委員会(PTAB)における訴訟中の特許の有効性の再審査をする当事者間審査(IPR)の判決を待つため、特許訴訟を保留(Stay)することがあります。このような保留は、IPRの状況に応じて、地方裁判所の裁量で解除または延長されることがあります。

2020年12月4日、米国連邦地裁判事ステファニー・M・ローズは、G.W. Lisk Co. Inc. v. Gits Mfg. Co., No. 4:17-cv-273-SMR-CFB (S.D. Iowa)において、原告が提出した保留を解除する申立を否定し、それに応じて、連邦巡回控訴裁判所がIPRを発端にした反対控訴審で決定を下すまで、保留を継続するという被告Gitsの申立を認めました。

本訴訟は、当初、Gitsが提出したIPRの開始(institution)に伴い、2018年3月に保留されていました。2019年3月19日、PTABは、米国特許第6,601,821号の13のクレームは特許不可能(unpatentable)であるが、他の9つのクレームは特許可能であるとする最終的な書面(final written decision)による決定を下しました。両当事者はPTABの決定に満足せず、上訴を求めます。Gitsの控訴とLiskの反対控訴は、現在、連邦巡回控訴裁判所で係争中です。

2020年10月、Liskは、PTABが特許性があると判断したクレームについて、保留を解除して訴訟を進めるよう求めました。一方、Gitsは、連邦巡回控訴裁判所の決定を待って保留の延長を求めて動きました。

ローズ判事は、以下の4つの要素からなるテストを用いて、この訴訟は延期されるべきであると判断しました。

  • 第一に、ローズ判事は、訴訟開始から4年半が経過しているにもかかわらず、ほとんどディスカバリーもなく、裁判期日が設定されていないことを指摘。このことは、この訴訟を延長することに有利であるとの見解を示しました。
  • 第二に、ローズ判事は、当事者の上告と反対上告が、主張する特許のすべてのクレームに影響を与えていると指摘。したがって、Liskが主張したように、確認された9つの請求項でさえも審理の対象とはならないとしました。したがって、保留期間を延長することは、問題点を整理し、裁判を容易にすることになるだろうと指摘しました。
  • 第三の要因は、不当な偏見(undue prejudice)です。ここでローズ判事は、当事者はビジネス上の競争相手であり、訴訟特許は2021年11月に期限切れとなるため、この要因は、特許期間の延長には不利であるとの見解を示しました。しかし、いずれにしても、ローズ判事は、Lisk社自身が反対上訴を提起していたことを考慮すると、滞在期間を延長することは、Gits社による希釈的な戦術ではないと判断しました。
  • 第四の「非公式な」要因は、司法の負担です。ここでローズ判事は、「裁判が開始されるまでに予想される膨大な作業は、連邦巡回控訴裁判所の決定によって回避されるか、少なくとも焦点が変更される可能性がある」ため、この要因は保留期間の延長に有利であると推論しました。

結論として、ローズ判事は、状況を総合すると、本訴訟の保留を維持することに有利であると判断しました。

要点

原告は、特許には有効期限があることを意識しつつ、特許訴訟は長期化する可能性があることを念頭に置き、代替的な紛争解決、和解協議、控訴を賢明かつ戦略的に行うべきです。被告にとって、今回の事件は、特許侵害訴訟の弁護活動において、当事者間審査の重要性と不可欠な役割を改めて浮き彫りにしたものです。

解説

地裁における特許訴訟の進み方には大きなばらつきがあり、一般的に公判(Trial)までに最速でも1年遅い場合は3年かかります。これは裁判所における手続きが保留(Stay)されていないことが前提で、IPRによるPTABでの特許の再審査により地裁の手続きが保留されると、そこから更に地裁における手続きが延長する可能性があります。

当然ですが、手続きが延長すると判決までに時間がかかり、その分、弁護費用も増加します。また、地裁における手続きが保留される場合、訴訟の核心に迫るような部分の判決が行われていない場合がほとんどなので、今回のケースのように訴訟開始から4年半が経過していてもディスカバリーが始まっていないというような状況も十分ありえます。

そうなると訴訟の長期化が避けられず、自社に有利・不利という明確な立ち位置がわからないので、時間が経つだけで不確定要素が整理されないままで、当事者も和解交渉がしづらいなどの問題点も出てきます。

さらに今はコロナ禍なので、陪審員を集めて行う公判などはとてもやりづらいため、公判が延期しているケースも珍しくありません。

一般的に、特許訴訟において、特許権者は早く救済手段を得たいため迅速な訴訟を望み、被告人は、特許の無効調査や分析、特許回避デザインの開発など、時間があった方が有利に展開できるので、様々な遅延テクニックを駆使します。

今回のケースは、訴訟を起こす特許権者にとっても訴えられる被告人にとっても重要で、訴訟の戦略の上で重要な「時間」の要素に関わってくるものです。IPRのタイミングやCAFCへの控訴など訴訟戦略で重要な判断をする際には、今回のケースで分析されている地裁手続きの保留に関する4つの要素を考慮し、どう判事が判断するかを予測することが大切になってくると思います。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Matthew W. Johnson. Jones Day(元記事を見る

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