特許訴訟コストをコントロールするための戦略

アメリカにおける特許訴訟には莫大なお金と労力がかかるので、明確な計画を持ち、事前準備をおこない、努力を惜しまず、最高の主張をベストなタイミングで使い、代替案も常に考え、誠意を持って対応することが大切になってきます。

訴訟費用は$700Kから$4M

American Intellectual Property Law Associationが毎年発行しているReport of the Economic Surveyによると、2019年の特許訴訟費用の相場は、$700Kから$4Mとのことです。結構な幅がありますが求められる賠償金が多ければ多いほど、訴訟費用が増加していく傾向にあります。しかし、小規模な訴訟であっても特許訴訟の場合、高額になるのでコストをコントロールするための戦略は重要になってきます。

明確な計画を持つ

権利行使をする側

訴訟からどのようなことを達成したいのか、明確なゴール設定が必要です。例えば、権利行使をする場合、ライセンスによりロイヤルティーを取る代わりに競合他社の販売を許すのか?

(訴訟の費用を払って)判決を勝ち取り、損害賠償を得たいのか?それとも、差止をしたいのか?ビジネス提案を受け入れる余裕はあるのか?今後も同じような訴訟を別の組織に対して起こすのか?このような要素は訴訟をする上で、誰を訴え、どう攻撃し、いつ和解に応じるかなどの戦略に大きく関わってきます。

権利行使をされる側

逆に、特許侵害で訴えられたのであれば、どのタイミングで訴訟の却下を求めるかは重要なポイントになってきます。motion to dismiss (早い) や motion for judgment on the pleadings (遅い) などのオプションがあるので、弁護士と慎重に協議する必要があります。

また、特許庁におけるIPRを考慮することも大切です。特許訴訟の場合、IPRの申し立てには時間制限が設けられているので、訴えられたらなるべく早くIPRの検討をおこなってください。IPRは反撃の大きなチャンスになります。特に、特許権者が今後も同じ特許で複数企業を訴えようとしている場合、IPRで特許が無効になることはなるべく避けたいので、和解交渉の際、協力な武器になります。

当事者両方に言えること

調停(Mediation)による早期の和解も視野に入れておきましょう。訴訟が進んでからの和解では、当事者両方が納得できる内容にならないことがほとんどです。これは妥協の原則のため仕方ないのですが、それだったら早期和解という手段もありということを頭に入れておく必要があります。

事前準備をおこなう

裁判では信頼性(credibility)が重要になってきます。裁判官や陪審員の心証をよくしておくためには、事前準備を万全におこない、信頼性を築き、それを維持していく必要があります。

特許権者の場合

権利行使をする側なので、特許、クレーム、侵害していると思われる製品については訴訟が始まる前から十分に知っておく必要があります。クレーム用語の内、解釈が必要な用語を事前に特定し、intrinsic recordやその他の情報から導きだせる容認できる解釈を考えておくべきでしょう。また、訴訟で証言してくれる専門家の目星をつけたり、訴訟の前に雇ったりしておくことも大切です。さらに、弱点を事前に認識して、指摘された際にどう回答するかも考えておくといいでしょう。

また、IPRを想定して、どのクレームがIPRのターゲットになりやすいかなども考察しておくことが好ましいです。

訴えられた侵害者の場合

訴えられた場合、なるべく早く特許権者へ情報開示を要求しましょう。特に、どのクレームの侵害を疑っているのかを早期に特定することが大切です。クレームが特定できれば、IPRなどで特許を無効化する際に訴訟に関わるクレームに限定して手続きをおこなえばいいので、よりリソースを集中できます。また、どの製品に侵害が疑われているのかを明確に示してもらうことも重要です。

努力を惜しまない

何気ない手続きであっても、その1つ1つの手続きの際に訴訟における重要な事柄が話されることもあります。また、証拠になりそうなものへのフォローも怠らないようにしましょう。Discoveryで適切に対応されていない事柄がないか、あった場合、相手側に明確に示すなど、1つ1つはたわいもないことかもしれませんが、その積み重ねが訴訟の結果に大きく影響します。

最高の主張をベストなタイミングで使い

訴えられた侵害者の場合

反論が様々な主張に分散していて、1つの体系的な主張になっていないことが多いです。それは時間と共に知れる情報が変わってくるので理解できるのですが、最高の主張をどのタイミングでおこなうかは重要なポイントの1つです。

特許権者の場合

同じように、特許権者も最高の主張をどのタイミングでおこなうかを知っておく必要があります。そのタイミングを見極めるのは難しく、時にIPRや略式判決 (summary judgement)が終わらない限りどのクレームが 一番強いクレームなのかわからないこともあります。

多くの略式判決 (summary judgement)で、すべてのクレームに対して公判前に判決を求める傾向があります。しかし、本来の略式判決は公判で審議する必要のないものだけに判決を下し、公判をスムーズにおこなうためのものなので、主張をいいものだけに厳選し、対象を限定することで、確実に勝ちを勝ち取り、裁判官の印象をよくすることができます。

代替案も常に考える

訴えられた侵害者の場合

侵害が疑われる製品に変更を加えることで、今後の侵害を回避し、将来の賠償金の責任を逃れるようにする。

特許権者の場合

メーカーだけでなく、流通業者や販売業者にプレジャーをかけるべきか考慮するべきです。これは業種もよるので一概には言えませんが、流通業者や販売業者にとって商品が販売できない、または、売っている商品が第三者の特許を侵害しているというのはよくないことなので、そこにプレジャーをかけて、「不安」を煽るのも手段の1つです。

誠意を持って対応する

弁護士費用だけがかかる無駄な争いはなるべく避けるべきです。事前にお互いの弁護士同士が無駄なレターキャンペーンをおこなわないなどの誓約ができたらするべきです。

あと、よくあるのが、Discoveryで問題があったときに書面でのバトルになってしまうこと。このような場合、弁護士費用と時間だけかかってしまい実際に物事が進展しないことがほとんどです。そうではなく、電話で弁護士同士が直接リアルタイムで議論する方が解決策が見つかる場合が多いです。

まとめ

特許訴訟は多くの費用とリソースを必要とします。特に、管理ができていないと訴訟コストは上がっていくばかりなので、コストをコントロールするための戦略には十分なリソースを投入して対応していくことが必要です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Scott McBride. McAndrews, Held & Malloy Ltd (元記事を見る

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