最高裁が5月にInteractive Wearables, LLC v. Polar Electro, Inc.およびTropp v. Travel Sentry, Inc.の上告を棄却したことで、最高裁が35 U.S.C.§101の下で特許適格性(patent-eligible subject matter)を構成するものを明確にしてくれるのではないかという実務家の期待(または懸念)は打ち砕かれました。最高裁は101条に関連する事件を取り上げることにほとんど関心がないように見えますが、これらの事件の下級審の意見から学んだ教訓により、実務家は特許出願のドラフト作成戦略を適応させ、35 U.S.C. 101条に基づく将来の異議申立に備え、特許出願をより良く準備することができます。
実務家を驚かせたAmerican Axle事件:機械発明における特許適格性の問題
2022年、最高裁判所はAmerican Axle & Manufacturing Inc. v. Neapco Holdings LLC.における審理を却下しました。American Axleは、ドライブラインシステムのプロペラシャフト、すなわち「プロップシャフト」内に設置される振動吸収材として機能するライナーの概念を対象としています。使用中、プロペラシャフトは複数の振動を経験します。既存のライナーは特定の振動モードを減衰させるように調整されていましたが、American Axleの特許は、2つの振動モードを減衰させるように調整されたライナーという革新的な技術に焦点を当てていました。しかし、クレームが特定の物理的構成要素を記載しているにもかかわらず、101条に基づき特許不適格と判断されたことによって、特許実務者の間では衝撃が走りました。クレーム22を例にとると、クレームされた方法は、中空シャフト部材とライナーの使用を明確に提示しています。
101条の特許適格性の問題は、一般的なコンピュータ・ハードウェアのクレームが101条の特許適格性の分析の引き金となると考えられており、American Axleのクレームされた配置におけるシャフトを使ったトルク伝達のような、特定の目的を達成するために使用される物理的構成要素のクレームに対して特許適格性の問題が起こることが衝撃でした。
CAFCのAmerican Axleのパネル判決では、出願明細書の実施可能性分析がクレームの特許適格性分析に滲み出るという事例(instances of an enablement analysis of the application’s specification bleeding into the subject matter eligibility analysis of the claims)が繰り返されました。しかし、ムーア判事は反対意見を述べており、表向きは特許適格性を判断していながら、実施可能性に焦点を当てた多数派の誤りを強調し、多数派の意見でも口頭弁論でも、多数派はライナーの調整がどのように達成されるかに焦点を当てたと指摘しました。ムーア判事はまた、従属クレームでクレームされた特定のバリエーションが、ライナーとして特定の材料である厚紙を使用することなど、特許適格性については何の重みも与えられていないことも指摘しました。しかし、CAFCによる再審理請求も最高裁による再審理請求も却下された。
CAFCによる大法廷(en banc)での再審理請求と最高裁判所による再審理請求(certiorari)はいずれも却下されました。そのため、出願人と実務家は、特許適格性が今後どのように評価されるかについて、大きな疑問を残すこととなりました。
特許適格性に関する指針を示す上で都合のいい事件も審議しない最高裁から見えてくる現実:発明の詳細を明細書に含めること
最高裁における再審理請求(certiorari)の回答を待っていた特許適格性に関する他の事件は最高裁が明確な指針を示すことができるような内容でした。特に、Interactive Wearables, LLC v. Polar Electro, Inc.事件は、最高裁が特許適格性の指針を示すのに魅力的な選択肢になるはずでした。Interactive Wearablesにおける特許適格性は、American Axleのようなあまり一般的でない「自然法則」(“law of nature”)の例外に起因したものではなく、「抽象的アイデア」(“abstract idea”)におけるものでした。
Interactive Wearablesの特許請求の範囲は、再生装置によって出力されるオーディオコンテンツに関する情報を提示するためにリモートコントロール装置が使用されるコンテンツプレーヤーシステムに関するものでした。特許請求の範囲および明細書のハードウェア配置は、受信機、プロセッサ、ワイヤレス・リモート・コントロール・デバイスなどの構成要素を記載した、概ね一般的なものでした。ここでも、実施可能性分析が裁判所の特許適格性分析に影響を及ぼしていました。連邦地裁の判決は、明細書の実施可能性分析がクレームの特許適格性分析の一部として考慮されたことを明確に認めています。 「明細書は、構成要素の具体的な記載を避けるために多大な労力を費やしている」、「抽象的アイデアと称されるもの以外は、明細書に発明として記載されていない」など、明細書の実施可能性をクレームの特許適格性に加味させることに加え、クレームに「~するように構成されている」(“configured to”)という文言が使用されていることも、特許適格性がないことを認定した連邦地裁の判決に明確に影響を与えていました。
このようにより一般的な特許適格性の問題を露呈しているInteractive Wearablesでしたが、2023年5月に最高裁における再審理請求(certiorari)が却下され、残念な結果となりました。American AxleとInteractive Wearablesを考慮すると、実務家は、当面の間、裁判所が特許適格性分析を行う場合、明細書が裁判所の判決を決定する上で重要な役割を果たす可能性があることを受け入れる必要があります。出願人は、発明の具体的な技術的詳細を主張するつもりはないかもしれませんが、明細書にそのような詳細を含めることには特許適格性を担保する上で価値があります。
結果重視のクレーム文言は特許適格性の問題リスクを高める
実務者がInteractive Wearablesから学ぶべきもう一つの注意点は、結果重視のクレームの使用により、裁判所が特許適格性の認定に傾く可能性があるということです。
結果重視のクレーム(result-oriented claim)は、所定の結果を達成する多くの可能な方法を広くクレームするために、「~するように構成されている」(“configured to”)といった表現を使用することが多いです。例えば、Interactive Wearablesのクレーム32は、「ワイヤレス遠隔操作デバイス……ユーザーに……コンテンツに関連する情報を提供するように構成されている」(“wireless remote control device . . . configured to provide the user . . . information associated with content.”)とクレームしています。しかし、請求項と明細書には、このような提供がどのように実行されるのかが開示されていません。結果重視のクレームは諸刃の剣であり、クレームの幅は広がりますが、特許適格性判断において、不適切であると判断されるリスクが高まります。そのため、実務者は、明細書が同様の結果重視の文言に頼らず、結果がどのように達成されるかを記述するようにすべきです。
また、従属クレームは、結果重視の独立クレームの結果を達成するために使用される構造を具体化するような記述を含むべきです。しかし、American Axle事件におけるムーア裁判官の反対意見にあるように、裁判所は従属クレームにより追加された詳細を重視せず、独立クレームの適格性に分析を集中させることがあります。実務者が独立クレームにおいて結果重視のクレーム文言に依拠する場合、結果を達成するために使用される明示的な構造を把握するために第二の独立クレームを使用するなどの工夫も必要になるでしょう。結果重視のクレームはより広いかもしれませんが、明示的な構造を有する独立クレームの方が、裁判所の101条分析を生き残る可能性が高いかもしれません。あるいは、結果重視のクレームを回避する継続出願も魅力的な選択肢です。この方法を使用すれば、複数の独立クレームを使用するオプションと比較して、限定が発生する可能性が少なくなります。特許審査官が特許適格性の拒絶を行わない場合、これらの選択肢はやり過ぎのように感じるかもしれませんが、裁判所は35 U.S.C. 101に基づき、より高いハードルを適用し続けることが予想されます。出願人の最も重要な発明については、これらの追加クレーム戦略を考慮する価値はあるのかもしれません。
統計的に最高裁で審議される可能性が高かったTropp事件も最高裁は取り上げず…
Interactive Wearables事件における審理が却下された同じ日、最高裁は、Tropp v. Travel Sentry, Inc.事件に関しても審理を却下し、101条問題を最高裁で取り扱わない意向を再度示唆しました。Tropp事件では、CAFCは、Troppの2件の特許の全ての問題クレームは不適格な主題に向けられたものであるという連邦地裁の判決を支持しました。Troppのクレームは全て、コンビネーションロックとキーロックを含む特殊用途のロックの使用方法と、そのロックの消費者への販売方法に関するものでした。キーロックの部分は、荷物を検査するためにTSAがマスターキーを使って解錠することができ、一方、最終消費者はロックのコンビネーション部分を利用することができます。
法務長官は、最高裁判所からInteractive WearablesとTroppの準備書面を提出するよう要請されていました。法務長官は、一般的なデュアルアクセスロックの使用を伴うTropp社のクレームされた方法が不適格な主題であることに同意しましたが、何が適格な主題を構成するかを明確にするため、Interactive WearablesとTropp、両方の訴訟で再審理を認めるよう最高裁を促しました。
最終的に、最高裁は歴史的に約80%の確率で法務長官の勧めに従っているにもかかわらず、Interactive WearablesとTroppについては、カバノー判事のみが再審理に賛成しただけに留まりました。このような状況を整理すると、当面の間、出願人は半ば実施可能性に関する分析を含む特許適格性の分析を行わなければならないようです。その上で、今回紹介したCAFCにおける判例は有力なガイダンスになるでしょう。
実務的には、出願人は、特許適格性が有利に判断される可能性を向上させるために、明細書の詳細さを改善し、少なくともいくつかのクレームにおいて結果重視のクレーム文言を避けるようにするような対策を取るべきでしょう。
参考記事:Patent Application Drafting Strategies in view of Recent 35 U.S.C. § 101 Decisions