過去の訴訟和解が原因で特許訴訟が取り下げられる事態に

訴訟などの紛争を終結する際に、和解契約書が交わされますが、そのときのリリースに関する文言が適切でないと、問題が起こることがあります。今回は、以前の訴訟を和解した際のリリースが広すぎて、新しい特許訴訟が取り下げられる事態になってしまった判例を紹介します。

判例

Cheetah Omni LLC v. AT&T Services, Inc., [2019-1264] (February 6, 2020) において、CAFCはU.S. Patent No. 7,522,836の侵害に関わる訴訟の取り下げを是正する判決を下しました。

ATTとそのサプライヤーであるCienaは、簡略裁判(summary judgment)を申し出、特許権者であるCheetahの侵害クレームは、以前にU.S. Patent No. 7,339,714 に関して、CheetahとCienaの間で結ばれた契約によって、禁止されていると主張しました。

過去の訴訟

CheetahはCienaを相手取った過去の訴訟で和解するために、Licensed Productsに対するライセンスを行いました。

 “a perpetual, irrevocable, worldwide, non-exclusive, fully paid-up license under the Licensed Patents to make, have made (directly or indirectly and solely for Ciena or its Affiliates), use, offer to sell, sell, and import and export the Licensed Products.”

その際の“Licensed Products”は以下のように定義されていました。

the Patents-in-Suit, and (ii) all parents, provisionals, substitutes, renewals, continuations, continuations-in-part, divisionals, foreign counterparts, reissues, oppositions, continued examinations, reexaminations, and extensions of the Patents-in-Suit owned by, filed by, assigned to or otherwise controlled by or enforceable by Cheetah or any of its Affiliates or its or their respective successors in interest at any time as of, prior to, on or after the Effective Date, whether filed before, on or after the Effective Date.

また、今回の訴訟で問題になった836特許と、前回の訴訟で問題になった714特許の関係は以下のようなものです。

和解契約書の解釈

General Protecht Group Inc. v. Leviton Manufacturing Co., 651 F.3d 1355, 1361 (Fed. Cir. 2011)を引用し、地裁は、 ‘714 特許の親出願でかつ、過去の和解契約で明確にライセンスされている’925特許があり、問題となっている’836 特許はその孫特許なので、’836 特許に対する黙示ライセンスがCienaに与えられていたと解釈しました。

CAFCはこの地裁の解釈に同意。’925特許は明確にライセンスされているので、ライセンスには、その継続出願の継続出願である’836 特許に対する黙示ライセンスも含まれるとしました。

今回のライセンスには、’836 特許が含まれ、侵害が疑われたAT&T製品も含まれるため、CAFCはATTとそのサプライヤーであるCienaに認められた簡略裁判(summary judgment)は正しい判断であり、特許侵害訴訟は取り下げられるとしました。

まとめ

和解の合意がなされる時、当事者の多くはその内容について議論しない印象を持ちます。しかし、合意した際の文言が適切でないと、今回のように、せっかく特許訴訟を起こしても、過去の和解の時のライセンスの文言が広すぎて、特許侵害を主張していた特許が実はすでに相手側にライセンスされていたという自体にもなりかねません。

ここでの教訓は、事業部の関係者や役員による和解の早期合意があったとしても、会社全体の利益を守るためにも、知財部と法務部が一丸となって、適切な和解契約であることを十分確認してから、和解契約に署名することだと思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Bryan K. Wheelock. Harness, Dickey & Pierce, PLC(元記事を見る

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