非自明性: 結果効果のある変数が主張する変数と異なる場合

クレームで特定の数値範囲を示した場合、先行文献がクレームされた範囲外の変数しか開示していなくても、最適化を行うことで達成できるはずという論理のもと、自明性により拒絶される場合があります。今回は、このような最適化の理論的根拠による拒絶の対処方法を判例を通じて解説していきます。


米国特許審査官は、クレームを自明であると拒絶する際に、しばしば最適化の理論的根拠(optimization rationale)を使用します。このような状況は、通常、クレームがある変数の値の可能な範囲を述べており、先行技術がクレーム範囲外の変数の値を開示している場合に発生します。このような状況では、通常、審査官は、クレームされた範囲は、「結果効果のある変数」(result-effective variable)、すなわち、先行技術で認識された結果を達成する変数の日常的な最適化によって得られることは明白であったであろうとの立場をとる場合があります。

しかし、このような拒絶では、クレームされた変数が先行技術からの結果有効な変数と一致することが重要です。この問題は、最近のPatent Trial and Appeal Board (“Board”)のEx parte Amini (Appal No. 2020-000285)のケースに例示されています。

請求項1に記載されている文言(部分的に):

An article comprising:

a MAX phase solid in the form of particles, the MAX phase solid having a formula Mn+1AXn, where n=1-3, M is an early transition metal, A is an A-group element, and X includes at least one of carbon and nitrogen; and

a high temperature melting point metallic material through which the particles of the MAX phase solid are dispersed such that the particles are spaced apart and the metallic material surrounds the particles…wherein the high temperature melting point metallic material and the MAX phase solid together define a porosity of 50 vol% to 80 vol%.

MAX相固体粒子(MAX phase solid)は、例えば、Ti2AlCまたはTi3SiC2であり得、高温融点金属材料は、Ti、Zr、Y、Sc、Be、Co、Fe、Ni、またはそれらの合金であり得ます。本発明者らは、金属材料中に分散されたMAX相固体粒子から形成された複合材料が、高温環境下でのダンピング用途、例えばガスタービンエンジンの構成要素として好適であることを見出しました。

審査官は、請求項1を2つの文献の組み合わせで自明であるとして却下しました。審査官は、金属材料中に分散されたMAX相粒子からなる複合材料に関する一次文献(「Barsoum」)に依拠しまました。審査官は、Barsoumが請求項1に記載されているような50vol%から80vol%の空隙率を開示していないことを認め、この制限については二次文献(「Sun」)に依拠。

特に、審査官はSunに記載された約43vol%の空隙率を持つMAX相の記述に依拠しました。審査官は、この値は、この制限を明らかにするために、請求項1に記載されている50〜80vol%の数値範囲に十分近いものであるとの立場を取りました。あるいは、審査官は、Sunが空隙率を、請求された範囲を得るために最適化することは自明であったであろう結果効果的な変数として確立したとの立場を取りました。

しかし、審査会は、審査官と意見が一致しませんでした。審査会は、Sunが空隙率をMAX相の固体についてのみ記述していることを指摘。これに対して、請求項1では、金属材料と共にMAX相固体の空隙率、すなわち、金属材料中にMAX相固体粒子を分散させて形成された複合材料の空隙率が記載されていました。このことから、審査会は、これらの気孔率が異なる変数であるため、Sunにおける気孔率の数値約43vol%と、請求項1の50〜80vol%の範囲とを直接比較することはできないと判断。

これらの気孔率は異なる変数であるため、審査会はまた、結果有効な変数に関する審査官の合理性にも異議を唱えました。審査会は、「先行技術の範囲を最適化することは、科学者や職人が既に一般的に知られているものを改良しようとする通常の欲求から生じることは十分に確立されている」と指摘。しかし、最適化されたパラメータが結果効果のある変数であると認識されていなかった場合、最適化は自明ではなかっただろうということも同様に確立されているとしました。審査会は、審査官が「先行技術が、独立した請求項1で要求されているように、複合体の空隙率(「高温融点金属材料とMAX相固体を一緒に」)が50vol%から80vol%の間であることの必要性を認識していたという証拠を、現在の記録では特定していない」と判断。審査会は、「Sunの開示された空隙率がクレームされた空隙率とは異なるため、クレームされた空隙率が結果効果のある変数であると結論づける根拠はない」と結論付けました。したがって、審査会は自明性の拒絶を覆しました。

要点

検定官がクレームされた変数が結果効果のある変数であり、最適化することが自明であったであろうという立場をとるときはいつでも、クレームされた変数に関する先行技術の教えを慎重に評価することが重要です。Ex parte Aminiのように、クレームされた変数が先行技術の変数と区別可能であれば、この区別は審査官の自明性拒絶を克服するのに役立ちます。

解説

発明をクレームする上で数値の範囲を特定することはよくあります。そして、先行文献がクレームされている範囲以外であっても、先行技術分野によっては、今回のように最適化の理論的根拠によって、自明という拒絶理由通知が送られてくることもあるでしょう。

そのような場合は、この記事でも書かれているように、まず使用されている文献で示されている変数が明細書でクレームされている変数と同一のものかを見極める必要があります。同じ用語を使っていたとしても、数値を導き出す際の式や方法に違いがあるかもしれません。

変数が十分異なるものであれば、最適化の理論的根拠は適用できないので、自明性の拒絶を覆すことができるかもしれません。なので、最適化の理論的根拠で自明であるという拒絶理由通知が来た際は、先行技術を慎重に読んで、明細書でクレームされている変数との違いを探してみることをおすすめします。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Matthew E. Barnet. Element IP(元記事を見る

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