新型コロナウイルス治療の権利化

ニューズで中国の機関であるWuhan Institute of Virologyアメリカの実験的な抗ウイルス薬に関する特許を取得する動きを耳にしたことがあると思いますが、そのような中国機関の動きは批難されるようなものではなく、様々な企業や研究所で行われている行為です。

注目されている抗ウイルス薬

今回注目が集まった薬の名前は、remdesivirというこので、Gilead Sciences, Inc.,によってデザインされ、テストされ、特許として成立しています。Remdesivirにはまだ認可が下りていませんが、当初はEbola virus やMarburg virusに対応するために作られました。しかし臨床試験の際に、そのようなウイルスに対する効果に関するデータは承認を得られるほどのものではありませんでした。

その後、開発元であるGileadは、adenovirus と coronavirus infectionsに対する有利性を示すための実験を行い、その用途に関する特許を出願しています。Coronavirusの2つの例は、MERS virus と SARS virusです。

ある特定の使用に関して効果が得られなかった薬が、別の使用で新たな効果を発揮することは珍しくはありません。今回のremdesivirも、当初の目的とは異なった使用で効果を発揮するかもしれません。

Gileadの使用特許

Gileadはremdesivirの新しい使用に関して特許を保有しています。例えば、US patent no. 10,251,904 (methods for treating adenovirus infections), and its related pending, allowed US patent application no. 16/265,016 (methods for treating coronavirus infections). 明細書を見ると、MERS-CoV やSARS-CoV antiviral activity (see Examples 40-34)に関する実験を記載されています。

Gilead の特許では、出願時にウイルスが存在していなかったので、2019-nCov virusに関するテストはありません。 また、Gilead の特許の一番古い出願日は2015年に遡り、その情報はすでに数年前から公開されている状態です。

他社のよる使用特許の出願

すでに知られている物質の新しい利用に関する特許は出願可能です。そのこと自体を規制するようなものはなく、一般的に行われている行為です。また、物質を発明した機関だけが使用特許を出願できるという訳でもなく、第三者であっても、使用特許は出願できます。

2019-nCov に関する潜在的な知財権利

Gileadによると、2020年1月31日の時点で、remdesivirが2019-nCovに対して有効であるというデータは得られていないが、有効であることを望むという表明をしています。

今回、中国機関によって出願された2019-nCov の治療のためのremdesivirの使用に関する特許出願を権利化するためには、その使用が過去の公開情報と比較した際に、新しく、かつ、発明的であるということを示さないといけません。特に、Gileadがすでに出願して公開されている使用特許と比べて新規性と進歩性があることを示さないといけません。

特許は出願したら必ずとれるというものではないので、開示されている内容や、先行例、クレーム、出願先の国の審査基準や対応する審査官などが権利化できるか否かに大きく影響をおよぼします。

もし仮に、中国機関が今回使用に関する特許を得たとしても、その権利範囲はかなり限定されたもので、場合によっては、2019-nCovの治療だけに限定されるかもしれません。2019-nCovは脅威的なウイルスですが、最終的には、沈静化に向かい、健康リスクになり得ないような規模まで縮小されることが十分考えられます。そうなると、中国機関が今回使用に関する特許の商業的な価値はかなり限定されます。

逆に、商業的な価値を高めるためには、Coronoviruses全般に有効な利用などのより汎用的で、多くのウイルスタイプに適用可能な利用というものが求められます。(しかし、広すぎる範囲をクレームすると、先行例でそもそも特許にならないという問題もあります。)

また、基礎になっている特許で守られた発明の権利者ではない第三者が、使用などに関する特許を得ると、その権利行使は行いづらくなります。つまり、もし仮に、中国機関が今回使用に関する特許を得たとしても、コロナウイルスの治療にremdesivirを使うにはライセンスを得る必要があるかもしれません。

また、仮に、中国機関が2019-nCovに関する使用特許を取得した場合、他の団体が商業化する場合、GileadとWuhan Institute of Virologyの両方からライセンスを得る必要があるかもしれません。

今回の件は、特許で薬へのアクセスを奪うものではなく、将来的にGilead からライセンスを得る場合に、レバレッジにしたいという中国機関の思惑があるようです。

まとめ

新型コロナウイルスはとてつもないスピードで拡散しているので、沈静化に向けての公衆衛生の対応や治療方法の開発などに全世界が一丸となって取り組んでいます。今回の中国機関の動きは、様々な企業や研究所でも一般的に行われていることなので、何も批難されるようなことはありません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Noel Courage. Bereskin & Parr LLP(元記事を見る

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