最新NFTの海賊版対策とその限界

現在注目を集めているNFTは多くのアーティストに新たな可能性を見出している一方で、海賊版が深刻な問題になっています。現状では既存のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)における取り下げ通知が有効ですが、NFTの場合、さらなるスピード感が求められ、NFTの特徴による取り締まりの難しさも存在します。今回は、このNFTアートの取り締まりとその課題点について解説します。

デジタル・コンテンツは見た目が全く同じ模造品を簡単に作れる

NFTを含めてたデジタル・コンテンツは、偽物をつくり悪用しようとする窃盗団にとっては好都合な技術です。海賊は、デジタルファイルと暗号通貨だけでNFTの模造品を作れてしまう現在の環境を利用して、無防備なコレクターに模造品を販売することができてしまいます。

贋作は芸術と同じくらい古くからあるものですが、NFTを含めてたデジタル・コンテンツの場合、盗んだ作品を正確にコピーできるため、ノックオフNFTは本物の作品と見分けがつかないことが多いのです。(ここでの見分けの判断は作品の見た目であって、ブロックチェーン上の履歴などのデータのことではありません。)

さらに、他のオンライン侵害者(違法配信や無許可のTシャツの販売業者など)とは異なり、NFTの海賊は、「世界に一つしかない」バーチャルな餌に釣られて、高額な代金とともに匿名に姿を消す買い手が一人いればよいので、詐欺の全体像は数時間から数分間で実現することになります。

このような海賊版ブームの中、クリエイターは、侵害するNFTの出品をスキャンし、テイクダウン要求を出すことで、ファンとIPの両方を保護することが求められています。しかし、たとえ販売リストの削除に成功しても、模倣品であるNFT自体はブロックチェーン上に永久に残り、侵害コンテンツはウェブ上の別の場所に残っているのが一般的です。

デジタルクリエイターは自分たちの作品を守るために、模倣品対策を行う必要がありますが、現在の著作権保護手続き、特にDMCAに基づく手続きで、十分な対策が行えるかが今の大きな課題の1つになっています。

DMCAについて

1998年にビル・クリントン大統領がデジタルミレニアム著作権法(「DMCA」)に署名して法律を制定したとき、Web 2.0における著作権保護の基本構造が誕生しました。

特に、DMCA は、侵害の可能性のある素材を送信するためにそのシステムが使用される可能性のあるオンラインサービスおよびストレージプロバイダに対して、一連のセーフハーバーを作成しました。DMCAのセーフハーバーの適用を受けるために、ほとんどのオンラインサービスプロバイダーは、「通知と削除」システム、通常は自動化されたウェブフォームを導入し、著作権所有者が侵害するユーザーの投稿を削除するためにフラグを立てることができるようにしました。

しかし、一部のコンテンツ所有者やコメンテーターは、Notice-and-Takedownシステムに不満を表明しており、特に、すでにフラグが立てられ削除された著作物の再投稿を阻止するための「Notice-and-Stay-Down」システムを提唱しています。

2020年には、米国著作権局が改革に関する独自の見解を発表し、この制度を「バランスが取れていない」と非難し、プラットフォームに対して書面によるリピーター侵害者ポリシーの公表を義務付けるなど、議会が既存のテイクダウン制度を修正する方法を提案する報告書を発表しています。

また、権利者に課される侵害コンテンツへのフラグ立ての負担は、議論の多い問題で、近年のNFTアートセールスのブームにより、この問題と関連する利害関係が飛躍的に高まっています。

DMCAにおけるNFTの取り扱い

NFTは、様々な意味でDMCAを混乱させました。

NFTは一度きりの販売で一括して利益を得ることができます。つまり、海賊版の被害者は、海賊版のリストを発見して削除するだけでなく、販売が完了する前に、これを迅速に行うよう迫られています。

トークンとコンテンツが別々の場所に存在している

さらに問題を複雑にするのは、ほとんどのアートNFT(ブロックチェーン上に存在するトークン)がコンテンツの実際のコピーを含んでおらず、代わりにインターネット上のどこかオフチェーン(サーバ上など)のコピーを指しているに過ぎないことです。つまり、自分のアートの偽造NFTを発見したコンテンツ制作者にとって、通知とテイクダウンは、そのNFTのマーケットプレイスリスト(つまり、NFTが販売され、関連するアートが表示されている特定のWeb 2.0ページ)をターゲットにして削除することにほぼ限定されますが、ブロックチェーン上には技術的には侵害しないトークンがそのまま残り、アクセスした人すべてをチェーンの外の模倣品であるアートコピーに誘導するようになっています。

アーティストにとって幸いなことに、今のところ、ブロックチェーン上でこのようなトークンが放置されていることは、実用上大きな問題になっていないことです。なぜなら、ユーザーが所有するNFTを閲覧できるソフトウェアプログラム(つまり、バーチャルウォレット)は、NFTが保存されているブロックチェーンと直接通信することはないからです。その代わり、バーチャルウォレットはNFTアートを表示するためにAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と呼ばれる仲介ソフトウェアプログラムに依存しており、これらのAPIは通常、NFTマーケットプレイスを運営する同じ企業によって提供されています。つまり、NFTマーケットプレイスがNFTの販売リストを削除すると、通常、ユーザーのバーチャルウォレットにNFTとそのアートが表示されないようにすることができるのです。

したがって、現時点では、NFTマーケットプレイスに対してDMCAテイクダウン要求を発行することは、海賊版の被害者にとって比較的有効な保護措置となり得ます。しかし、より多くの企業(NFTマーケットプレイスを運営する企業以外)がブロックチェーンへのAPIアクセスを提供し始めた場合、NFTの販売リストを削除しても、仮想ウォレットにNFTがまだ表示されることを必ずしも防ぐことができなくなってくるでしょう。つまり、コンテンツオーナーが自ら問題になっているトークンを攻撃できないことが、より大きな問題となる可能性があります。

リンクされているコンテンツを削除する

この問題を回避する方法はあります。

インターネット上のどこかにあるアートワークのコピーにリンクしているNFTについては、著作権所有者は、元の場所にあるコンテンツを削除するよう通知と削除の要求を送ることによって、NFTの価値を低下させるという方法です。この場合、NFTは「デッドリンク」となり、土地証書が記載された島が海に沈んだら価値がなくなるのと同じように、その価値を破壊することになります。

しかし、NFTでは、従来のロケーションアドレッシング(リンク)に代わる「コンテンツアドレッシング」と呼ばれる方法が採用されるようになってきており、この方法は複雑になっています。

コンテンツ・アドレッシングは、コンテンツの一部に一意のハッシュを割り当てることで機能します。このハッシュは、ネットワーク上のどこにホストされているかにかかわらず、分散型ネットワーク上のコンテンツのすべてのコピーに適用されます。このようにコンテンツを分散化することで、コンテンツ・アドレッシングは、単一のサーバーや単一のURLに依存することに内在する脆弱性を回避することができます。つまり、権利者がコンテンツアドレシングノックオフNFTによるコンテンツの表示を止めるには、権利者は分散型ネットワーク内のすべてのコンテンツの侵害コピーを見つけ、テイクダウンを要求する必要があるのです。

また、権利者は、通知とテイクダウンにより、サーバベースのインターネットのユーザがコンテンツにアクセスできるようにするサービス(「ゲートウェイ」と呼ばれる)を対象とすることも可能です。しかし、ここでも問題は同様で、ハッシュ化されたコンテンツへのアクセスを提供するゲートウェイの数は増え続けているのです。つまり、ハッシュ化されたコンテンツにアクセスできるゲートウェイの数は増え続けており、権利を侵害された権利者は、上述の違法配信との闘いに類似したモグラたたきをすることになりかねません。

コンテンツ制作者にとっては残念なことですが、模造品トークンが自分の作品を表示するのを止められるかどうかは、そもそもそのようなトークンの伝播を止めるという目的とは、最終的には無関係であることが多いかもしれません。なぜなら、偽物のNFTを排除することに成功しても、すでにその偽物を「売り払って」略奪品を持ち去った海賊にとっては、たいした意味を持たないからです。 

参考記事:Will NFT piracy compel changes to the digital millennium Copyright Act?

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