特許のNFT化の可能性と未解決の問題

アメリカではIPweとIBMが先導して特許をNFT化するという動きがあります。Non-fungible tokens (NFTs)は、JPGファイルが有名オークション会場で6900万円で落札されるなどアート面で注目されていますが、知的財産の分野でも活用が検討されているものです。今回は、特許のNFT化の可能性と未解決の問題について話してみます。

知財におけるNFTの活用方法

知財のNFT化で一番注目されていて実際にプロジェクトが進んでいるのは特許です。

特許の審査・付与ではNFTの利用は限られているようですが、付与された特許に関する取引を追跡する方法としてNFTの活用が注目されています。特許ポートフォリオをトークン化(NFT化)したい場合、理論的には特許庁を介さずに自分の特許権を第三者に譲渡することができます。

今年初め、IPweとIBMは、特許をNFTとして表現し、その記録をブロックチェーンネットワーク上に保存するためのインフラを構築する計画を発表しました。それによると、「IPのトークン化は、特許をより簡単に販売、取引、商品化、その他の収益化ができるように位置づけ、投資家やイノベーターのために、このアセットクラスに新たな流動性をもたらす」ことが期待されています。

また、このプロジェクトとは別に、すでにNFT化された特許を市場で購入することができます。例えば、世界最大のNFT市場OpenSeaにおいて、TrueReturnSystemsというところが2つNFT化された特許をオークションにかけていて、競り落とすことが可能です。

そして、競売ページを見てみると、特許の情報の他に、譲渡書も付け加えられています。通常のNFTを購入すると、原則購入者はオリジナルのデジタルアートワークの著作権などの権利は取得できませんが、TrueReturnSystemsによる競売では、競売にかけられている特許の権利も譲渡されることがわかります。

しかし、実際にこのようなNFT化された特許の取り扱いにはまだ環境が整っていないのが現状です。

未解決の問題

NFT化された特許を保有・活用していくために、現状で問題になる点をいくつかあげます。

  • 最初のNFT所有者が実際に特許の所有権を十分に持っていることをどのように確認できるのか? これはNFT全般の問題で、NFT化するときにその資産(例:特許やデジタルアートなど)の真の権利者でなくとも、その資産をNFT化することが出来てしまいます。そのため、最初のNFT所有者が実際に特許の所有権を十分に持っていることをどのようにして確認するのか、特許庁が管理している特許登録簿で確認する必要があります。
  • それぞれの登録簿に所有権の変更を記録するにはどうするか?実際にNFT化された特許を購入し、適切な譲渡手続きを踏んで事実上の新たな所有者になったとしても、その証拠が各国で特許を登録する際に有効な証拠として提出できるかが問題になります。実際、各特許庁がNFT経由で譲渡された特許の譲渡履歴を受け入れるにはまだ時間がかかるかもしれません。
  • 特許権を行使する場合にどう所有権をもっていることを示すか?登録簿に記録されていない場合、自分が特許の真の所有者であることを裁判所に納得させるにはどうしたらいいのでしょうか?そのためには、NFTによる取引とは別に、典型的な譲渡契約書を作成しなければならないかもしれません。
  • 過去の取引の有効性を法的に主張したい場合は?NFTの世界では、取引を元に戻すことはできません。そのため、ブロックチェーン上で管理されている所有者の履歴を修正する手段がないため、NFT化された特許の譲渡手続きが無効だった場合の救済手段がまだ明確ではありません。

特許はNFT化されるのか?

今の時点でははっきり言えませんが、システムがさらに発展し、米国特許庁による全面的な協力が得られれば、特許に関連する取引を文書化するためにNFTの使用を促進することも考えられます。

このようなシナリオでは、例えば、NFT作成者の真の特許所有権を確認するために、特許庁による検証ステップが含まれるでしょう。また、新たに付与された特許については、特許庁が自らNFTを作成し、登録証明書とともにプライベートキー(ブロックチェーン上で自分のアカウントを管理するための大切な鍵)を出願人に提供することも考えられます。

そうすると、その後の取引はすべてブロックチェーン上で直接行われ、登録はNFTのステータスのみを反映し、変更があった場合には自動的に更新されるということになるでしょう。また、法的に要求された場合には記録を正すことができるよう、NFT化される前に政府はオーバーライド機能を含めるようなことをするかもしれません。

このようにNFT化することで、特許庁としても登録された特許の管理・運営が楽になり、コスト削減にもつながることが期待できるので、特許のNFT化は案外早く普及するかもしれません。

参考文献:Patents on NFT? No, NFT on patents!

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