1月に出された判決が覆り、特許明細書における限定事項の有無に関する沈黙は、否定的なクレーム限定事項に対する記述上の裏付けとしては不十分となりました。アメリカにおける出願で、否定的なクレーム限定を用いる場合は、明細書内のサポート文の内容に注意する必要があります。
判例:NOVARTIS PHARMACEUTICALS CORP. V. HEC PHARM CO., LTD.
地裁では記述の欠如が認められなかった
Novartisは、HECを特許侵害で訴えました。問題となった特許は、「直前のローディング用量レジメンがない場合、0.5mgの1日投与量で」薬剤を投与することによって再発寛解型多発性硬化症を治療する方法に関するものでした。ローディング用量とは、通常、初回投与として投与される、1日量より多い薬剤の投与量のことです。HECは、「直前の負荷投与レジメンがない場合」という否定的な限定を説明する文書が明細書内に存在しないと主張し、クレームの無効性を主張しました。しかし、連邦地裁はこれを認めず、Novartis社の特許は記述の欠如(lack of written description)を理由に無効とはならないと判断しました。
CAFCは2回審議し、記述の欠如を認める
CAFCは当初、連邦地裁の判決を支持しました。HECは再審査を申請し、連邦巡回控訴裁はこれを認めます。その再審理の結果、CAFCは最初の判決を取り消し、連邦地裁の判決を破棄し、本件特許は記述の欠如を理由に無効であるとしました。
CAFCは、たとえ否定的なクレーム制限であっても、一般的に沈黙は記述の裏付けとして十分でないと指摘しました。同裁判所は、否定的な制限をそのまま記載する必要はないが、明細書には、制限の除外が発明者の意図によるものであることを当業者に伝える何らかの開示、例えば、除外する制限のデメリットや代替案についての議論が含まれていなければならない、としました。
このケースでは、特許の明細書には、治療レジメンの一部としてローディング用量を使用すべきか否かについて記載はありませんでした。したがって、裁判所は、明細書にはローディング容量がないことについて適切に記述がなかったとし、特許は35 U.S.C. §112 に基づいて無効であると結論づけました。
Linn判事は反対意見を述べ、多数決が「『排除する理由』だけでなく、問題の否定的な限定が『必然的に排除された』ことを示すことを要求するという、高められた記述基準をこの事件の事実に適用した」と主張しました。
否定的なクレーム制限における記載は慎重に
今回のケースにおけるCAFCの1回目の審議のときに記事を書きましたが、そのときの判決が覆ってしまいました。よって、否定的なクレーム限定を用いるクレームを書くときは、明細書内のサポートが少なくとも「制限の除外が発明者の意図によるものであることを当業者に伝える何らかの開示」が必要になります。
除外する制限(〜がない場合)に関する記述では、その制限がもたらす不具合だったり、その代替を明細書内で示すことが判例には示されているので、もしアメリカにおける出願で、否定的なクレーム制限を用いることを考えている場合は、この判例を参考にしてみてください。
なお、Negative claim limitation(否定的なクレーム限定)については、過去の記事で説明しているので、よかったら参考にしてみてください。