アメリカの特許のクレームを読んでいるとたまに「~を含まない」などのクレーム制限を見ることがあると思います。そのような制限はNegative claim limitationとよばれますが、特許を無効にしたい場合、どのような先行例文献を提示すればよいのでしょうか?
Negative claim limitation とは?
実際のNegative claim limitationの表現は様々ですが、一般的にクレームに書かれている明確に意図的に一部の要素を除外している文言を示します。例えば、「背もたれがない」イスなどの表現はわかりやすいNegative limitationだと思います。
無効にするための先行例文献とは?
さて、このようなNegative claim limitationを含んだクレームが書かれている特許がすでに先行例文献で開示されていたということを示し特許を無効にするには、どのような先行例文献が必要なのでしょうか?
通常のような明確に要素を示すクレーム制限(例:木でできたイス)の場合、クレームされている要素が開示されている先行例文献を探せばいいだけですが、「~を含まない」などのNegative claim limitationの場合、「ないこと」を示さないといけないので、先行例文献を探すのが難しくなります。
今回は、このNegative claim limitationに関連した判例2つを読み解くことで、Negative claim limitationをどう先行例文献で示すのか、そのポイントをまとめました。
- 先行例文献にNegative claim limitation が記載されていないことを示すだけでは、Negative claim limitationが先行例文献で開示されていたという証明にはならない。
- しかし、先行例文献によるNegative claim limitation の開示は、明記(expressly)されていなくてもよく、暗示(impliedly)するものだったり、本質的な(inherently)ものであってもいい。
- 先行例文献において、Negative claim limitation は任意のものであったり、不必要なものであるという開示や示唆があった場合、その先行例文献によってNegative claim limitation の開示が証明できる。
- Negative claim limitation は任意のものであったり、不必要なものであるという判断は、先行例文献の開示内容によって判断される。
- 必要ではないが、先行例文献においてNegative claim limitationは必然的もしくは本質的なものであることを特許権者が示せれば、Negative claim limitationが先行例文献で開示されていないという反論ができる。
参考にした判例は以下のケースです。
- Int’l Bus. Machs. Corp. v. Iancu, No. 2018-1065 (Fed. Cir. Apr. 1, 2019).
- WAG Acquisition, LLC v. WebPower, Inc., No. 2018-1617 (Fed. Cir. Aug. 26, 2019).
まとめ
「ない」ことを証明するので、Negative claim limitationを先行例文献で示すのは難しい作業になります。しかし、最近の2つのCAFC判例は、いままではっきりわからなかったNegative claim limitationの先行例文献における開示について有益な情報を提供してくれています。
もしIPRなどでNegative claim limitationを含んだクレームの無効手続きを検討しているようでしたら、上記の判例2つを詳しく読み込んだ上で、先行例文献の調査をおこなうようにするといいと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Mark Einsiedel. Baker & Hostetler LLP(元記事を見る)