特許を無効にするために先行例文献の組み合わせを主張することは多いですが、その組み合わせ動機に関する分析はとても重要な争点になります。今回は、PTABがその分析を十分に行わず2度もCAFCがPTABの判決を覆した案件を紹介します。
Personal Web Technologies, LLC, v. Apple, Inc., 2018-1599 (Fed. Cir. March 8, 2019)において、AppleはPTABにおける特許無効の判決を2度も勝ち取りながら、控訴されたCAFCレベルで2回とも特許無効の判決が覆り、特許が有効と判断されてしまいました。
この案件で問題になったのは先行例文献の組み合わせです。1回目のPTABにおける判決では特許無効を主張したAppleの主張を一方的に受け入れ、2つの先行例文献がどのように組み合わせることができるか(how the two references could be combined )という可能性の説明にとどまり、組み合わせがどのように働くか(how the combination of the references was supposed to work)ということが説明されていませんでした。CAFCはそのようなPTABにおける判決を批判し、進歩性の問題に対して再審議するようPTABへ案件を差し戻しました。
しかし、差し戻された案件でもPTABはAppleの主張を一方的に取り入れ、組み合わせの動機に対し、明示的な記載はないが、当初の開示に接した当業者であれば、欠けている事項の意味するところが必然的に明らかといういわゆるinherency rationaleを採用し、前回の判決と比べて組み合わせ動機の分析には大きな違いはありませんでした。
ここで問題なことはinherency というものはそもそも「可能性」だけで立証できるものではないということです。PAR Pharm., Inc. v. TWI Pharm., Inc., 773 F.3d 1186, 1195 (Fed. Cir. 2014)
このような判例からCAFCは2回目の上訴で、特許の有効性を認め、十分な証拠に欠けるPTABの判決を覆しました。
教訓
最初の差し戻しで組み合わせ動機分析の重要性が示されたものの、PTABにおける再審議でもその動機に対する分析が十分になされていませんでした。組み合わせ動機の分析は案件や先行例文献、当業者のレベルなどに影響され、個別に判断が求められる難しい分野です。それだからこそ、動機分析には十分な議論が求められます。
今回のようなケースは珍しいですが、当事者として関わった案件で組み合わせ動機が問題になった場合、今回の判例を教訓に十分な理由付けをすることが大切になってきます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:William R. Reid. Dilworth IP (元記事を見る)