マシュー・マコノヒーの名前が記されたブランド商標登録証のイメージと、AIデジタル回路が背景に広がるコンセプト画像。

人間は「ブランド」になれるか? — マコノヒーの商標登録に見る、AI時代のアイデンティティ保護の最前線

1. はじめに

生成AI技術の急速な発展により、著名人のデジタルレプリカが高精度かつ瞬時に世界中へ拡散される時代が到来しています。Tom Hanks、Oprah Winfrey、Taylor Swiftといったセレブリティのディープフェイク動画が相次いで出現する中、従来の法的保護手段 — 各州のパブリシティ権(right of publicity)を中心とした 断片的な「パッチワーク」 — では、もはやこの脅威に十分に対応できないことが明らかになりつつあります。

こうした技術的背景の中で、従来とは異なる法的対応策が模索され始めています。その一つが、 人間のペルソナ(persona)を連邦商標法における「出所表示機能」(source identifier)として再定義する という試みです。既存の法的枠組みでは対処しきれないAIによるなりすまし問題に対して、商標法という本来異なる目的を持つ法制度を「盾」として転用するこのアプローチは、その有効性と限界の両面で大きな注目を集めています。この動きを代表する事例が、俳優マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)のケースです。彼のチームは、声の音色、身体的ジェスチャー、象徴的なフレーズの「感覚的要素」や「動作的要素」を連邦商標として登録し、いわば 「ブランド化された人間」(Branded Human) という新たな法的概念を実践に移しました。

本稿では、このアイデンティティ保護の「連邦化」戦略について、法的・技術的・立法的な多角的視点から詳細に解説します。州法の限界から連邦商標法の活用、司法判断の最新動向、そして連邦立法の展望まで、AI時代における人間のアイデンティティ保護の全体像を読者の皆さまにお届けします。


2. 州法の限界:パッチワークから連邦的保護への転換

AIによるアイデンティティ悪用に対する保護において、最も根本的な課題は、 米国に連邦レベルのパブリシティ権が存在しない ことにあります。歴史的に、パブリシティ権は個人の氏名・肖像・肖似性(Name, Image, and Likeness: NIL)を無断の商業利用から保護するための 州レベルの権利 として発展してきました。しかし、デジタル空間に国境はありません。著名人のAI生成レプリカは一瞬でグローバルに拡散するため、各州の法的保護には自ずと限界があります。

2.1 州ごとの保護の格差

2026年初頭の現時点においても、州ごとの保護水準には大きなばらつきがあり、著名人は侵害の発生地に応じて異なる法的基準に対処しなければなりません。以下の表に主要な州の対応状況をまとめます。

主要な法的枠組み AI/デジタルレプリカの保護範囲 注目すべき特徴
テネシー州 ELVIS法(2024年) 高い: 声の音色や「容易に識別可能な」音声を明示的に保護 レコード会社・相続人にも原告適格を付与。AI特化型パブリシティ権法の先駆け
カリフォルニア州 セレブリティ権利法(Celebrity Rights Act) 高い: NILの包括的保護。音声・画像のデジタルレプリカに対応 死後70年間の保護延長。SAG-AFTRA(俳優組合)の強力な支持
ニューヨーク州 民権法§§50-51 中〜高: デジタルレプリカについて商業性要件を撤廃する改正済み パロディや報道目的に対する強固な表現の自由の保護規定
その他30州以上 各種州法・コモンロー 不均一: 多くは直接的な商業的宣伝への使用の証明を要求 非商業的なバイラルディープフェイクやSNS上の風刺への対応が困難

2.2 テネシー州ELVIS法:AI時代のパブリシティ権の先駆け

テネシー州の ELVIS法(Ensuring Likeness Voice and Image Security Act)は、2024年3月21日にBill Lee州知事により署名され、同年7月1日に施行されました。テネシー州議会の上院(30対0)と下院(93対0)の 全会一致 で可決されたこの法律は、AI技術による無断の声の複製を明示的に標的とし、従来の著作権法や商標法では埋められなかった重大な隙間を塞ぐものとして、一部の専門家からは 「ゴールドスタンダード」 とも評されています。

AIなりすまし規制法:ELVIS法がテネシー州で成立

特に注目すべきは、同法が「声」の定義を 「個人に容易に識別・帰属可能な媒体における音声であり、その個人の実際の声であるかシミュレーションであるかを問わない」 と広く規定している点です。これにより、AIによる声のクローンも明確に保護対象に含まれます。

しかし、この画期的な州法をもってしても、 連邦法による先占(preemption)の問題や、グローバルなAIプラットフォームに対処する際の管轄権の限界 は解消できません。州法はあくまで地理的に限定された保護であり、国境を越えて活動する生成AIサービスに対しては、その効力に本質的な制約があるのです。

【注釈:連邦法による先占(preemption)とは?】
合衆国憲法の最高法規条項(Supremacy Clause)に基づき、連邦法と州法が矛盾する場合、連邦法が優先されます。著作権法の分野では、合衆国法典第17編§301が、著作権の一般的範囲に属する排他的権利と 「同等」(equivalent) の権利を創設する州法を明示的に先占すると規定しています。したがって、ELVIS法のような州のパブリシティ権法が保護する「声」や「肖像」の権利が、連邦著作権法がカバーする権利と重複すると判断された場合、州法の適用が排除されるリスクがあります。米国著作権局も2024年7月の報告書 Copyright and Artificial Intelligence, Part 1: Digital Replicasにおいて、完全な連邦先占ではなく、連邦法が全国的な保護の 「最低基準」(floor) を提供しつつ各州が独自の保護を維持できる枠組みを推奨しています。

2.3 著作権法の「声」に対する保護の欠陥

連邦レベルで個人の声を保護しようとする際に直面するもう一つの大きなハードルが、 著作権法の限界 です。合衆国法典第17編§114(b)に基づき、音声録音の著作権保護は、原録音を模倣またはシミュレートする「他の音声の独立した固定」には及びません。つまり、実際の録音をサンプリングすることなく、AIモデルが個人の声の音色(timbre)、共鳴(resonance)、リズム(cadence)といった声の属性を再現した場合、連邦裁判所の目には 著作権侵害に該当しない のです。

この法的現実は、2025年7月の Lehrman v. Lovo, Inc.事件 において改めて確認されました(後述)。裁判所は、声そのものは著作権で保護される表現ではなく、たとえ高度な模倣であっても、著作権法上の侵害行為には該当しないと判示しています。

こうした州法の管轄限界と著作権法の保護の空白が重なる中で登場したのが、次章で解説する 「マコノヒー戦略」 です。


3. マコノヒー戦略:アイデンティティを連邦レベルの「出所識別標識」へ

前章で見たように、州のパブリシティ権は州境を越えられず、著作権法は声そのものを保護してくれません。では、全米どこでも通用する法的な武器はないのか — この問いに対して、マコノヒーの法務チーム(Yorn Levine法律事務所)が見出した答えが 連邦商標法の活用 でした。具体的には、マコノヒーの声の抑揚や独特の身振りといった「その人らしさ」を構成する要素を、企業ロゴやブランド名と同じように 連邦商標として登録する という戦略です。連邦商標は全米50州で効力を持つ ランハム法(Lanham Act) によって保護されるため、州ごとに異なるパブリシティ権に頼る必要がなくなり、「誰が、どこで侵害しても、一つの連邦法で対抗できる」という明確な法的基盤を手に入れることができるのです。

マコノヒー自身も次のように述べています:

「私のチームと私は、私の声や肖像が使用される際は、私が承認し署名したものであることを確認したいのです。AIの世界において、同意と帰属(consent and attribution)を標準にする ため、所有権の明確な境界線を設けたいと考えています。」

3.1 音声マーク・感覚マークの技術分析

この戦略が注目される背景には、USPTOが2025年に公表した AI戦略計画の存在があります。同計画では、AIが生成する無断コンテンツが既存の独自コンテンツを複製したり、個人の氏名・画像・声・肖像その他のアイデンティティ指標(Name, Image, and Likeness: NIL)を模倣したりする問題に対し、 現行の商標法および関連する不正競争法が十分に対応できているかを分析する 方針が示されました。つまり、USPTOは「声や肖像の模倣は商標法の問題にもなりえる」と認識しており、その法的対応の十分性を検討課題として掲げたのです。マコノヒーの戦略は、まさにこの問題意識の延長線上にあります。単にフレーズそのものを保護するだけでなく、 声の抑揚やリズム、話し方の癖といった「演技の物理的な特徴」そのものを、商標法上保護される知的財産として登録する ことで、USPTOが検討課題として提起した領域に先んじて法的基盤を築こうとしているのです。

マコノヒーの象徴的なフレーズ 「Alright, alright, alright」 の商標登録(登録番号7995951および8070191は、通常の文字商標ではありません。これは、そのピッチ(音高)、ケイデンス(リズム)、デリバリー(発声方法)に関して 技術的精度をもって記述された感覚マーク(sensory mark) です。登録の記述によれば、最初の2語は特定の低から高への音高の変動パターンに従い、最後の語はより高い初期ピッチに続く特定のリズミカルな減衰を特徴とするとされています。

この詳細な記述レベルにより、法務チームは、この 「マコノヒー・ケイデンス」 を再現するあらゆるAIモデルが、彼のスポンサーシップや承認を偽って示唆する出所識別標識を使用していると主張することが理論上可能になります。

3.2 モーションマーク(動作商標)の構築

音声マークに加え、マコノヒーのチームは 「モーションマーク」(Motion Mark) — すなわち「動き」の商標 — の登録にも取り組みました。これは、俳優特有の身振りや表情、立ち居振る舞いといった 視覚的な特徴を商標として登録し、法的に保護できる知的財産にする という新たな試みです。

登録番号 時間/種別 動作・視覚的アイデンティティの技術的記述 商標区分
7893248 など 3秒のモーションマーク ベージュの顔、茶色の髪・ひげ、青白い目を持つ俳優。クリスマスツリーのあるリビングルームで頭を前に傾けて微笑む 第9類(ダウンロード可能なコンテンツ)& 第41類(エンターテイメント)
7931810など 7秒のモーションマーク ベージュの顔・手、茶色の髪・ひげを持つ俳優。ポーチに立ち、手のひらを開いて腕を上げ、その後手を腰に置く 第9類 & 第41類

これらのモーションマークは、マコノヒーがカメラを見つめ、微笑み、語りかけるといった 彼ならではの演技スタイル を視覚データとして記録したものです。こうした商標が登録されていることで、もしAIがこれらの動きを本人と 見分けがつかないほど精巧に再現した 場合、彼のチームはランハム法に基づいて侵害を主張できる根拠を理論上持つことになります。

この戦略のもう一つの狙いは、連邦商標登録がもたらす 「法的推定」(legal presumption) の活用にあります。米国の商標法では、連邦登録された商標には、その有効性と登録者の所有権が推定されるという法的効果が付与されます。通常、この推定はブランドのロゴや名称に適用されるものですが、マコノヒーのチームはこの仕組みを人間のペルソナに応用しようとしているわけです。理論上、この推定が働くことで、差止請求(cease-and-desist)やプラットフォームへのテイクダウン要請の際に、 相手方に対してより強い立場で交渉を進められる可能性 があります。ただし、このようなペルソナの商標登録が実際の訴訟でどこまで有効と認められるかは、今後の司法判断を待つ必要があり、現時点ではあくまで 創造的な法的戦略としての試み と位置づけるのが適切でしょう。


4. 司法上の障壁:「出所識別標識」の適格性テスト

商標法を利用してAI生成コンテンツを規制する戦略の有効性は絶対的なものではなく、司法の厳格な審査に直面します。商標保護の核心は、 商品やサービスの出所に関する消費者の混同を防止すること にあります。したがって、著名人は自身の声や肖像が単なる個人的属性ではなく、商業市場における 「出所識別標識」 であることを証明しなければなりません。

4.1 Lehrman v. Lovo, Inc.事件(2025年)の教訓

2025年のLehrman対Lovo事件における声のAIクローンと商標法の関係を示す法廷イメージ図

2025年7月の Lehrman v. Lovo, Inc.事件(No. 23-cv-08269, S.D.N.Y.)は、商標戦略の限界を理解する上で極めて重要な判例です。この事件では、プロのボイスアクターであるPaul LehrmanとLinnea Sageが、AIスタートアップのLovoに対し、彼らの声の無断クローンの作成を理由に訴訟を提起しました。

事件の経緯は以下の通りです。Lovoは、当初「非商業的な内部研究目的」と偽って原告らの声の録音を入手しました。しかし実際には、AIを使って原告らの声のクローンを作成し、 偽名(Kyle Snow、Sally Coleman) の下で有料会員向けにマーケティングしていたのです。原告の一人は、自身のデジタル複製された声がナレーションを務めるポッドキャストを聴いて、初めてこの事実を知りました。

裁判所の判断:

ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のPaul Oetken判事は、ランハム法に基づく連邦商標請求を 棄却 しました。その理由について、裁判所は以下の重要な区別を行いました:

  • 声は理論上、商標として機能し得ることを認めつつも、原告らの声がこの文脈でその機能を果たしていたことの立証に 失敗 したと判断
  • 声を 「ブランド」 として使用すること(例:マコノヒーのペルソナ)と、声を 「製品」 として使用すること(例:ボイスアクターのサービス)を区別
  • 原告らはクライアントにサービスを提供するプロのボイスアクターであるため、その声は商業的出所を識別する商標ではなく、 「職業の道具」 であると認定
  • 声がランハム法の保護に必要な 「二次的意味」(secondary meaning) を欠いていると判断

この区別は極めて重要です。マコノヒーの場合、彼は俳優業にとどまらず、自身のライフスタイルブランド「J.K. Livin」を展開し、Lincoln(リンカーン)の自動車CMの顔として長年起用されるなど、 ペルソナそのものが商業ブランドとして広く認知 されています。このような著名人であれば、声や身振りが「出所識別標識」として機能していると主張する余地があります。しかし、Lehrman事件の原告のように、一般にはあまり知られていないプロのボイスアクターやパフォーマーの場合、自身の声に商標法上の 「二次的意味」 が備わっていることを立証するのは極めて困難です。つまり、この商標戦略は すでに高い知名度とブランド力を持つ著名人には有効であっても、すべてのパフォーマーに等しく適用できるわけではない という、本質的な限界を抱えているのです。

4.2 商業的使用の要件と第一修正条項の壁

商標法は本来、個人の尊厳やプライバシーを保護するための法律ではなく、あくまで 商取引における消費者の混同を防止するための法的枠組み です。したがって、「マコノヒー戦略」は、芸術的ディープフェイク、ミーム、政治的風刺などの 非商業的なAI生成物 に対しては効果を発揮しない可能性があります。これらは合衆国憲法修正第1条(表現の自由)やフェアユースの法理の下で保護される余地があるからです。

商標請求が成功するためには、AI生成の模倣が 商品やサービスに対する虚偽の推奨(false endorsement)やスポンサーシップを示唆する形で使用されている ことが必要です。

さらに、一部の法学者は、商標法は元来、人間のペルソナ全体をカバーすることを意図されたものではないと警告しています。このアプローチを 「AIクローン対策としては間違ったツール」 と評する専門家もおり、特定の連邦法上の訴因を広範かつ管理不能な人格権に変質させるリスクがあると指摘しています。これは、AI開発者にとっても 「法的地雷原」 を生み出す可能性があります。膨大な訓練データセットに含まれる特定の声のリズムや抑揚を意図せず再現してしまった場合、商業的意図の有無にかかわらず、大規模な侵害請求に晒される可能性があるのです。


5. 立法動向:連邦パブリシティ権への道

現行のIP(知的財産)ツールの限界が明確になる中、 「デジタルレプリカ」 を具体的に対象とする連邦立法の機運が高まっています。第119回議会(2025年〜2026年)では、アイデンティティ保護の統一基準を確立するための複数の法案が審議されています。

5.1 NO FAKES法(2023年〜2026年)

NO FAKES法案(Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act)は、連邦アイデンティティ改革の主要な推進力となっている法案です。2023年に議論草案として提示され、2024年に正式に提出、そして2025年4月に再提出されたこの法案は、成立すれば、著名人だけでなく すべてのアメリカ人 に適用される、個人の氏名・声・肖像に関する連邦財産権を創設するものです。

NO FAKES法の主要規定 詳細 AI業界への影響
権利保有者の定義 個人、または個人の肖像権を取得した事業体 明確で相続可能な財産権を確立
保護期間 個人の生存期間 + 死後70年 カリフォルニア州のパブリシティ権や連邦著作権の期間と一致
デジタルレプリカに対する責任 無許可のレプリカを「故意に配布」する者、およびその生成を「主な目的として設計された」ツールの提供者を対象 コンテンツ作成者とAIソフトウェア開発者の双方に圧力
セーフハーバー規定 DMCA型の「通知・テイクダウン」手続き。著作権局にエージェントを指定するオンラインサービスプロバイダーに適用 プラットフォームからのディープフェイク除去のための合理化されたメカニズム

この法案には、アイデンティティ権と表現の自由のバランスを取るための厳格な衡量テストが含まれています。「真正な」ニュース、ドキュメンタリー、風刺に対する例外を規定していますが、これらの保護は、作品が「真正性の虚偽の印象」を生み出さないことを条件としています。

しかし、この法案には批判もあります。表現の自由擁護団体 FIREは、このような基準が調査報道や政治的論評を萎縮させる可能性があると警告しています。さらに、同法の「通知・テイクダウン」制度は 「デジタル・ヤジ馬の拒否権」(digital heckler’s veto) と形容されており、一件の苦情でプラットフォームが 「まず削除し、質問は二の次」 の対応を強いられるリスクが指摘されています。

5.2 他の競合法案と政治的文脈

NO FAKES法案以外にも、 NO AI FRAUD法案などの提案がより積極的な姿勢を採用しています。同法案は著作権法のフェアユース規定に類似した衡量テストを採用しますが、フェアユースの4要素のうち 「使用された量と実質性」(amount and substantiality)の要素を省略 しています。通常のフェアユース判断では、「使用されたのはごく一部に過ぎない」という主張が認められる余地がありますが、NO AI FRAUD法案ではこの考慮要素がないため、たとえ他人の声や肖像をほんの数秒使っただけであっても、 「わずかな使用だから問題ない」という弁明が通りにくくなる 構造になっています。

2026年の政治環境も立法スケジュールに影響を与えています。NO FAKES法案はSAG-AFTRA(全米映画俳優組合)などエンターテイメント業界の労働組合の強力な支持を受けていますが、上院・下院は有権者ID法案や選挙の公正性に関する高リスクの政治的争いにも時間を割いています。アイデンティティの「連邦化」は明確なトレンドではあるものの、連邦パブリシティ権法の最終的な形態は、イノベーションへの影響と第一修正条項とのバランスについて、依然として大きな議論の対象となっています。


6. 実践的アイデンティティ保護:監査・監視・対応

包括的な連邦法が不在の中、著名人とそのアドバイザーは、アイデンティティを保護するための プロアクティブな運用戦略 に目を向けています。法律実務家らは、従来のIP法と先端的なテクノロジー監視を組み合わせた多層的アプローチを推奨しています。

6.1 IP アイデンティティ監査

現代のアイデンティティ保護における第一歩は、 「IPアイデンティティ監査」 です。これは、著名人のペルソナを包括的にレビューし、保護可能な商標として機能する要素を特定する手法です。

具体的には以下のステップで構成されます:

  • 識別標識のカタログ化: 「Alright, alright, alright」のようなフレーズ、「ポーチでのスタンス」のようなジェスチャー、声の表現など、高い「出所識別」価値を獲得した要素を特定します。
  • 契約の強化: すべての商業契約・雇用契約を更新し、事前の書面による同意なくAI生成の音声や画像を作成することを 明示的に禁止 する条項を盛り込みます。
  • 承認済みAIパートナーシップの構築: 公式に承認されたAIクローンを確立します。マコノヒー自身はAI音声プラットフォーム ElevenLabsの投資家であり、ニュースレター「Lyrics of Livin’」のスペイン語翻訳など承認済みプロジェクトに自身のAI音声版を許可しています。これにより、アーティストはデジタルな自分自身の 「本物のケイデンスとトーン」 に対する管理権を維持しながら、AI技術の恩恵を享受することができます。

6.2 次世代アイデンティティ監視プラットフォーム

急成長する 「AIアイデンティティ保護」 産業は、ディープフェイクや誤情報のリアルタイム監視を提供しています。

スイスを拠点とする Umanitek が2026年初頭にローンチした 「Guardian Agent」は、分散型インフラストラクチャを活用して数億のアカウントをなりすまし監視するプラットフォームです。同プラットフォームは、ディープフェイクやAIモデルのハルシネーション(幻覚)に対する個人の露出度を定量化する 「ライブリスクスコア」 を提供します。有害なコンテンツが検出されると、コンテンツがいつどこに出現したかを正確に証明する 「検証可能なデジタル証拠パック」 を生成し、テイクダウン要請や訴訟に関連する法的コストを削減します。

Umanitekの共同創設者Chris Rynning氏は次のように述べています:

「人々が人間よりも機械と多く会話する新しい現実に向けた競争が始まっています。この新しい現実では、データはもはや金(ゴールド)ではありません — 信頼が新しいゴールド なのです。」

6.3 防御から収益化へ:AIボイスマーケットプレイス

人間のアイデンティティを商標ブランドとして扱うシフトは、エンターテイメント業界の経済構造を根本的に変化させています。AIと全面的に戦うのではなく、多くの著名人が コントロールされたライセンスモデル へと移行しつつあります。

ElevenLabsが2025年11月にローンチした 「Iconic Voice Marketplace」は、ブランドが著名人の声のAIクローンをライセンスできる双方向プラットフォームです。Michael Caine、Maya Angelou、Alan Turingなど28の著名な声が提供されており、すべての使用は 公式チャンネルを通じた適切なライセンスとロイヤルティ のもとで行われます。

このマーケットプレイスモデルは、マコノヒーが掲げる 「AIの世界において同意と帰属を標準にする」 というビジョンを実現するものです。AI技術の恩恵を享受しながら、本人の管理下での使用に限定するという、攻撃一辺倒ではない 戦略的な共存モデル として注目されています。


7. 「ブランド化された人間」の倫理的課題

マコノヒー戦略は、人の声や身振りを企業のロゴやブランド名と同列に扱うという、従来の法的常識からすれば大胆な発想に基づいています。しかし、この発想は同時に重要な問いを投げかけます。人間の個性そのものが「商標」として登録・売買・相続の対象となり得るならば、 人間のアイデンティティはいったい誰のものなのか — 本人のものか、それとも管理する企業の資産なのか、という根本的な倫理的問題です。

7.1 AI研究コミュニティの二極化

AI研究コミュニティは、マコノヒーの先例をめぐって二極化しています。デジタル倫理の擁護者は、これらの法的保護が 人間の自律性と自らの労働から利益を得る権利 を保全するために必要だと主張します。一方、一部の開発者は、ケイデンスやジェスチャーのような一般的な人間の特性の周囲に「法的地雷原」を設けることで、 有益なAIシステムの開発が抑制される 可能性があると懸念しています。

7.2 パブリックドメインと死後の権利

アイデンティティの経済的価値は、著作物の パブリックドメイン(著作権の保護期間が満了し、誰でも自由に利用できるようになった状態)との関係で、さらに複雑な問題を生み出しています。

米国の著作権法では、一定期間が経過した著作物はパブリックドメインとなります。2026年1月1日には、1930年に初めて出版された著作物 — 当時の映画や音楽作品など — が新たにパブリックドメイン入りしました。これにより、たとえば1930年公開の映画そのものは誰でも自由に上映・複製・配信できるようになります。

しかし、ここで注意が必要です。 映画の著作権が切れたとしても、その映画に出演していた俳優の肖像や声を自由に商業利用してよいわけではありません。 著作権(映画という「作品」の保護)とパブリシティ権(俳優という「人物」の保護)は別々の権利だからです。カリフォルニア州やニューヨーク州を含む多くの州では、 死後最長70年間のパブリシティ権 を認めており、故人であっても遺族がその肖像や声の商業利用を管理する権利を持ち続けます。つまり、古い映画がパブリックドメインになった今、AIを使ってその映画の俳優を「復活」させることは技術的に容易になりつつありますが、法的にはパブリシティ権という別のハードルが依然として存在するのです。


8. 今後の展望と戦略的提言

マコノヒーの商標登録は、それだけで問題が解決したというよりも、アイデンティティ保護をめぐる法的議論の 新たな出発点 と捉えるべきでしょう。AI技術が加速する中、商標法、著作権法、州パブリシティ権のいずれか単一の法的ツールへの依存では不十分であることは明らかです。

8.1 著名人・企業エグゼクティブへの戦略的指針

AI駆動の2026年の世界に対応していくために、以下の戦略が不可欠です。

  1. ブランドの連邦化: マコノヒーモデルに倣い、象徴的な感覚マーク・モーションマークの連邦商標登録を確保し、ランハム法上の原告適格を獲得する
  2. ナラティブの監視: ソーシャルプラットフォームと大規模言語モデル(LLM)の双方を24時間365日監視し、なりすましやハルシネーションがスケールする前に検出する
  3. 契約の強化: すべてのタレント契約において、AIモデルの訓練のためのコンテンツ使用を明示的に規定し、無許可のデジタルレプリカを禁止する
  4. 承認済みライセンスの導入: 純粋な防御姿勢からコントロールされた収益化へと転換し、安全なプラットフォーム上で公認のAI音声・肖像クローンを確立する
  5. 統一性の推進: NO FAKES法のような、アイデンティティ権と第一修正条項のバランスを取る連邦立法を支持し、クリエイターと消費者双方にとってより安定した法的環境を構築する

9. 結論

マコノヒーのペルソナ要素の商標登録成功は、人間のアイデンティティに対するアメリカの法制度のアプローチにおける 根本的な転換点 を示しています。セレブリティを商業市場における「出所識別標識」として再定義することで、法律実務家は、生成AIによるアイデンティティの無断利用に対抗するための 型破りなツール を見出しました。

連邦商標法は全国規模の執行と明確な手続上の利点を提供しますが、万能の盾ではありません。商業的使用と消費者混同の要件による制約を受け、商標法をパーソナリティ権の領域に過度に拡張することへの裁判所の抵抗にも直面する可能性があります。

AIなりすまし問題の抜本的な解決には、今後 多面的なアプローチ が求められていくことになるでしょう。テネシー州ELVIS法のような州法のさらなる整備、連邦レベルでのNO FAKES法案の成立に向けた議論の進展、そしてAI監視技術や「承認済みクローン」マーケットプレイスといった民間の取り組みの成熟 — これらが組み合わさることで、初めて実効性のある保護の枠組みが形作られていく可能性があります。そうした法整備や業界慣行が確立されるまでの間、「マコノヒー戦略」は現時点で利用可能な連邦レベルの対抗手段として、引き続き注目を集め続けるものと考えられます。この戦略が投げかけている問いは、 AI駆動の世界において、人間のアイデンティティそのものが最も価値ある「ブランド」になりつつあるのではないか ということです。

この戦略の進化は、著作権、アイデンティティ、商取引の伝統的な境界線に挑戦し続けるでしょう。法律が人間の「本質」をそのデジタルな反映から保護しようと模索する中、知財プロフェッショナルにとって、この分野の動向を注視することの重要性は今後も高まる一方であることは間違いありません。

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