訴訟履歴が弁護士費用を裁定する際に考慮される

アメリカで「弱い」特許の権利行使を行った過去があると、その訴訟履歴が現在進行している特許訴訟に悪影響を与える可能性があります。そのため将来の訴訟のためにも「弱い」特許の権利行使は控えた方がいいかもしれません。

要約:弁護士費用の付与または否認に濫用が主張された場合、当事者の訴訟方法とパターンを考慮する必要がある。

判例: ELECTRONIC COMMUNICATION TECHNOLOGIES, LLC V. SHOPPERSCHOICE.COM, LLC

地裁は原告の過去の訴訟履歴を考慮しなかった

連邦地裁が原告ECTの主張する請求を35 U.S.C. 101条に基づき無効と判断した後、被告ShoppersChoiceは弁護士費用を求めました。

今回の訴訟が弁護士費用の肩代わりを是正する例外的なケースであることを証明するためにShoppersChoicは、ECTの低価値のライセンス料を求め、和解を強要するという訴訟パターンの証拠を提出しました。この証拠はまた、過去の特許ファミリーに関する訴訟でクレーム解釈にまで進んでいなかったこと、そして、ECTにはその特許の強さのメリットを検証する意思がないことを示していました。地裁の弁護士費用決定に先立ち、ShoppersChoiceは、同じ請求項に関連する訴訟でECTに対して弁護士費用を授与した別の地裁の意見書も提出しました。その意見書には原告の執拗な訴訟のパターンが詳細に記載されてました。それにもかかわらず、連邦地裁は、本件は例外的なものではないと判断し、ShoppersChoiceの弁護士費用請求の申し立てを却下しました。

連邦巡回控訴裁は過去の訴訟履歴を考慮

連邦巡回控訴裁はこれを取り消し、再送致しました。連邦巡回控訴裁は、ECTの訴訟方法や、ShoppersChoicに対する訴訟のより広範な文脈に対処することを怠ったことにより、連邦地裁が明らかに誤りを犯したと判断しました。連邦巡回控訴裁はまた、ECTの侵害主張の客観的な不合理性を考慮しなかったことは、特に、主張した特許が実行可能であると信じる合理的な特許訴訟人はいないだろうという別の連邦地裁の意見を含む前の記録を考慮すると、連邦地裁が誤りであると判断しました。

解説

今後は過去の訴訟履歴が特許侵害訴訟における弁護士費用を裁定する際の考慮点の1つになりそうです。

今回の判例は、ライセンス料目当てで「弱い」特許を権利行使し、特許の本格的な審議の前に和解を強制するような悪質なNPE(パテントトロール)への牽制です。このような(ある意味卑怯な)戦略で特許の収益化を図っていたNPEにとって、今後の訴訟は訴えた相手の弁護士費用の肩代わりをするリスクが増えるので、特許訴訟を起こしづらくなるでしょう。

有効性が疑わしい「弱い」特許を振りかざして小銭を狙うよう手法は特許システムを悪用していると思われる行為なので、今回の判例でそのような行動に圧力がかかったことは歓迎するべきだと思います。

しかしこの判例の適用はNPEに限ったことではないので、事業者であっても過去の訴訟履歴やパターンが考慮されることでしょう。そのため、今後は特に特許訴訟で権利行使を行う場合、準備を怠らないようにして、将来の訴訟のためにも「弱い」特許の権利行使は控えた方がいいかもしれません。

また、訴えてきた特許権者の過去の特許訴訟に上記のECTのような傾向が見られる場合、弁護士費用の肩代わりが認められる可能性が高くなります。そのため、この判例は今後の防衛戦略や和解戦略にも大きな影響を与えそうです。

質問:あなたの業界ではNPEによる特許訴訟は多いですか?コメント欄で答えてみてください。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Karl W. Kowallis, Hans L. Mayer and Paul Stewart. Knobbe Martens(元記事を見る

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