ITCパネルが物議を醸したApple-Qualcomm判決をレビュー

Appleがアメリカに輸入しているiPhoneがQualcommのアメリカ特許を侵害していると判断したにもかかわらず、iPhoneの輸入規制をしないという判決がITCのInitial Determination判決で下ったことは前回お伝えしましたが、その判決がITCパネルによってレビューされることになりました。この判決は、輸入規制をした際のPublic interestを懸念したものですが、ITCのパネルの判断次第では判決が覆される可能性があります。

前回の記事でもお伝えしましたが、この判決で大きな問題になったのが、特許は有効で侵害されているとしたものの、輸入規制をおこなわないというInitial Determinationがおこなわれたことです。通常、ITC調査において、特許が有効で侵害されていると判断されれば、対象となっている侵害製品のアメリカへの輸入が規制されます。

つまり、このITC調査では、Appleがアメリカに輸入しているiPhoneが有効であるQualcommのアメリカ特許を侵害していると判断されたので通常、ITC調査に含まれているiPhone機種のアメリカへの輸入が規制されることを意味します。しかし、ITC行政判事であるThomas Pender判事は、過去に3回しか適用されていないPublic interestを理由に、iPhoneの輸入規制をおこないませんでした。

数あるITC調査の中で過去に3回しか使われていない例外が適用されたので、今回のInitial Determination判決には、ITCパネルによるレビューがおこなわれるのではと判決が下った当時から言われていました。今回のITCの発表でそのうわさが現実になりました。

そもそもこのApple v Qualcommの特許問題は市場の特殊な状況が大きく関わっています。まず、AppleのiPhoneに使われているモデムチップはQualcomm製かIntel製のものしかありません。つまり、Qualcommは自社特許の侵害を理由にIntel製のモデムチップを使えなくしてしまえば、市場を独占できることになります。

ITCで輸入規制が勝ち取れれば、Intel製のチップが入ったiPhoneのアメリカへの輸入を食い止めることができます。そうなると実質、アメリカで販売されえるiPhoneにはQualcomm製のチップを使わざるおえなくなります。このような背景によりAppleにとってもQualcommにとってもこのITC調査でどのような判決が下るかはとても重要なことです。

また、特許を使った市場の独占を懸念してか2017年にFederal Trade Commission (FTC)がQualcommを独禁法違反で訴えています。FTC v. Qualcomm Inc., No. 5:17-cv-220, ¶ 140 (N.D. Cal. Jan. 17, 2017).この訴訟は2019年の1月に公判が始まります。この独禁法違反の訴訟もITC調査と平行しておこなわれているので、どのような判断が下されるのか注目されます。

ITCにおけるInitial Determination判決をする上で、行政判事のThomas Pender判事は、Public interestを考慮した際、特許侵害品の輸入を規制するよりも、規制しない方が好ましいと結論づけました。しかし、Public interestを考慮する際にいくつかある要因の内、Appleは1つ(輸入規制による市場の独占)しか満たしておらず、過去に3回しか用いられなかったPublic interestをこのスマートフォンの輸入規制に当てはめるのは少し無理をしている印象も受けられます。現実としてApple以外にもスマートフォンの選択肢はあるので、iPhoneが市場からなくなるのは大きな変化ですが、Public interestが適用された過去の判例と比較して、Public interestを揺るがずようなものなのかは微妙なところです。

法律面ではAppleの立場は弱いですが、スマートフォンの市場を考えるとアメリカとしては、Appleの(intel製のチップが入った)iPhoneをアメリカで売れなくするのは避けたいのが本音だと思います。最新のiPhoneにはIntel製のチップが使われています。つまり、ITCでLimited exclusion orderを出してしまうと、実質最新のiPhoneがアメリカで売れなくなってしまいます。そうなると、アメリカの市場だけでなく、世界的にもAppleのiPhoneに大きな打撃になります。

しかし、特許が有効で、対象製品が特許を侵害していると判断した上で輸入規制をしないITCというイメージを持たれるとITCの行政機関としての役割や機能が疑問視されバッシングを受けるのは確実です。

QualcommもAppleもアメリカの大企業の1つなので、アメリカ政府としては和解してほしいというのが本音だと思いますが、Apple と Qualcommの問題は今始まったものではなく、長年続いているものなので、そう簡単に和解できないと思います。

最後にAppleが主張したNational Securityについて簡単に個人的な見解をして終わりたいと思います。AppleはITCによる輸入規制がおこなわれてしまうとアメリカ国内における5G technologyの発明が後れ、その後れがNational Securityに関わると主張しています。そもそもNational Security自体は厳密に言うとITCにおける輸入規制を判断する上での要因ではありません。しかし、トランプ政権がNational Securityを理由に様々な追徴課税などをおこなっている今日、ことが大きくなるとそのような主張も受け入れられるのかもしれませんね。ITCは行政機関、つまり大統領が管轄する機関なので、そのような主張も受け入れられたのだと思います。しかし、今中国のHuaweiによる世界的な5G機器の独占とそれによる情報漏洩が懸念されている中、アメリカの大企業同士の争いでアメリカ国内の5G技術に関するNational Securityを主張しているところが面白いなと思いました。

まとめ

ITCパネルがInitial Determination判決をレビューすることは予想通りでした。しかし、ITCとしてはとても難しい判断を迫られています。iPhoneの輸入を制限しても、しなくても、どちらにしてもアメリカへの大きな影響は避けられません。iPhoneの輸入が規制された場合、Appleのスマートフォンメーカーとしての市場の立場が危ぶまれ、輸入を規制しない場合、ITCという組織の役割や機能が疑問視されてしまいます。舵取りが難しい状況ですが、ITCパネルがどう判断するのか今後も注目していく必要があります。

まとめ作成者:野口剛史

参考記事著者:Michael T. Renaud, James Wodarski, Aarti Shah and Marguerite McConihe. Mintz(元記事を見る

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