リモートで働く従業員を考慮したITC国内産業条件対策

米国国際貿易委員会(ITC)で第 337 条に基づいて訴訟を提起するための独自の要件の 1 つとして、国内産業条件というものがあります。この点について原告は、ITC に提訴された時点で国内産業が存在するか、または設立されつつあることを示す必要があります。今回は、リモートで働く従業員を考慮した上で国内産業条件を満たす為に必要なことを考えます。

国内産業条件とは?

このITCにおける国内産業条件には2つの部分があります。(1) 技術的要素、すなわち、問題となっている原告の製品が米国の知的財産権(IP)によって保護されていること、及び(2) 経済的要素、すなわち、問題となっているIPに対して米国において十分な投資が行われていることでの2点です。

経済性の観点を満たすためには、以下の 3 つの方法があります。(1) 工場や設備への多額の投資、(2) 労働力や資本の多額の雇用、(3) エンジニアリング、研究開発、ライセンシングを含む知的財産の利用への多額の投資です。

リモートワーク

COVID-19パンデミックでは、多くの従業員がリモートで仕事をしており、この傾向はワクチンが開発されて投与されるまで続くと思われます。このような状況下では、企業はどのようにして3つの法定部分の下で経済性の条件を満たしていることを証明することができるのでしょうか?

ITCは一時的に、パンデミックが始まる前の日付から国内産業を考慮するという、より柔軟なアプローチを採用するかもしれませんが、これは確実ではありません。この点に関する指針が示されるまでの間は、訴状が提出された時点で行われていた経済的な活動の種類に依拠して、被訴人が抗弁を提起する可能性があると予想するのが妥当です。したがって、不正競争を阻止するためにITCへの提訴を希望する企業は、以下の点を考慮する必要があるかもしれません。

  1. 多額の設備投資。COVID-19以前の設備投資に加えて、企業は、従業員がインターネット接続、作業場、コンピュータ、電話、プリンタ、その他の業務関連機器や消耗品などの費用を精算するように指示するべきです。また、企業は、これらの費用を従業員に還元することを検討し、そのような費用と精算を示す文書を保持するべきです。
  2. 労働力または資本の大幅な雇用。 労働者が一時自宅待機して失業を余儀なくされている場合、企業は、パンデミックの前に大幅な労働力を雇用していたことと、パンデミックが沈静化した後に再び雇用することを示す方法を考える必要があります。侵害品の輸入を早急に止めるためにITCで行動しなければならない場合、この点での問題を回避するために、申立を提出する前に一部の従業員を再度雇用し直すことも検討すべきです。
  3. エンジニアリング、研究開発、またはライセンスを含む知的財産の利用への多額の投資。 企業は、企業方針や従業員との契約書に、エンジニアリングや研究開発の作業が行われる(そしてどこで行われるか)条件を明確にしておく必要があるかもしれません。また、企業は、従業員が在宅勤務をしているにもかかわらず、従業員が作成した発明が会社の所有物であり続けることを保証するために、会社の文書や雇用契約書を改訂する必要があるかもしれません。

解説

ITCは侵害品の輸入を早急に止めるために最も有効な手段の1つです。その理由はITCの手続きのスピード感にあります。しかし、第 337 条に基づいて訴訟を提起するための独自の要件の 1 つである国内産業条件が満たされないと、その手続きの早さをうまく活用することができません。

ITC調査の対象になった侵害品をアメリカに輸入していると思われる被訴人側は、COVID-19パンデミックの状況を逆手にとって、原告の国内産業条件について反論をしてくるかもしれません。そこで、事前に上記に提案されたような検討を行い、確実に国内産業条件を満たせる状況にしておいた方がいいでしょう。

また、もしITC調査で侵害品をアメリカに輸入していると思われる被訴人として名前が挙がってしまった場合は、原告側が今回のCOVID-19パンデミックの状況でどのような雇用形態を取っているのか、社員が会社で実際に仕事をしているのか、それともリモートワークなのか、大量の自宅待機者がいるのかなども知らべ、原告側の国内産業条件を疑問視することは有効な戦略の1つになります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Steven E. Adkins, Wanda D. French-Brown, Matthew W. Cornelia and Fredericka J. Sowers. McGuireWoods LLP (元記事を見る

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