ITCにおけるIPR Estoppelの回避策

ITC 調査の対象になっている Respondent が、ITC の対象になっている特許をIPR で無効にしようとしていた場合、ITC 調査において IPR Estoppelが 適用され、特許無効理由の一部を主張できなくなってしまいます。しかし、同じ主張でも、IPR の当事者でなかった the Office of Unfair Imports Investigations Staff (“Staff”)が主張すれば、IPR Estoppel が適用されないという判決が下されました。

ライバル企業の場合、IPR で特許を無効化しようとする場合があります。しかし、IPR で無効化に失敗した場合、後の訴訟で、IPR Estoppel の適用により、同じような主張が地裁や ITC でできなくなってしまう恐れがあります。

しかし、今回紹介する In In re Certain Magnetic Tape Cartridges and Components Thereof, 337-TA-1058 (ITC October 2, 2018, Order) で、Cheney行政判事は、ITC調査においてStaffが無効主張に賛同した場合、IPR Estoppel が適用されないとしました。

実際の案件に進む前に、IPR Estoppel がどういうものか説明します。IPR Estoppel とは、簡単に言うと IPR で当事者がすでに提出した先行例文献や主張(また、その時点で知っておくべきだった先行例文献やおこなうべきだった主張)を他の手続き(地裁訴訟や ITC 調査など)で繰り返すことができないというルールです。IPR Estoppelは、IPR の当事者のみに適用されるので、たとえば、IPR に関わっていない第三者が IPR で使われた先行例文献を使っても IPR Estoppel は適用されません。

この「第三者」が ITC における今回紹介する IPR Estoppel の回避策のキーワードになります。

今回紹介するITC調査は、以下のような経過を経ています。

  1. 最初に2016年7月27日、SonyがFujifilmを地裁において特許侵害で訴える
  2. 訴訟を受け、Fujifilmは権利行使された特許の無効化を狙い、 IPR を PTAB に申し立てる。
  3. 2017年4月28日、Sonyは特許訴訟の対象になっていた Fujifilm の製品に対して ITC 調査を申し立てる。
  4. 2018年5月16日、PTAB は IPR に対する判決を下し、特許は有効と判断される。

ITC 調査において、Fujifilm は IPR で提出した先行例文献と新しい文献を元に、特許の無効を主張。Staffも Fujifilm の主張に賛同し、特許の無効を主張しました。

ITC 調査は地裁における特許訴訟と異なり、申立人(ここでは Sony)と被告人(ここでは Fujifilm)に加え、staffと呼ばれる不公正輸入調査室(Office of Unfair Import Investigation、OUII)のstaff attorney が独立した組織として介入します。

Fujifilmの主張を受けSonyは、Fujifilm が提示した先行例文献は IPR のものと重複しているため、IPR Estoppelが適用され、Fujifilm の特許無効主張は ITC では受け入れられるべきではないと主張しました。

しかし、ITC の Cheney 行政判事は、Initial Determinationで、Fijifirm に対するIPR Estoppel に対しては言及せず、Staff による特許無効主張は考慮されるべきとしました。Cheney行政判事は、Staffは IPR の当事者ではなかったので、Staffの特許無効主張に対して IPR Estoppel は適用されないという見解を示しました。また特許無効主張を考慮すること容認したCheney 行政判事は、Fujifirm の先行例文献や Expert の証言から特許は無効と判断。また、文献とは別に、販売によるon-sale barによっても特許は無効だと結論づけました。

ところで、ITC ではこのような判決が下されましたが、平行して続いている地裁における訴訟はどうなるのでしょうか?想像の域ですが、地裁では Staff はいないので、Fujifilm の無効理由には IPR Estoppel が適用される可能性があります。適用されれば、ITC では無効と判断された特許が、地裁では有効と判断される可能性があります。逆に、Fujifilm は、ITC による判決を利用し、地裁で争われている特許はすでに無効と判断されているとし、Sony による Patent misuseを主張するかもしれません。

ITC 被告人に IPR Estoppel が適用されるからといって、ITC の申立人は特許無効主張を心配しないでいいという訳ではありません。Staff が特許無効主張をおこなえば、IPR Estoppel が適用されるはずの ITC 被告人の無効主張も考慮される場合があります。しかし、このような ITC の判決が地裁でどのように扱われるかはまだわかりません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: David M. Maiorana and Daniel Kazhdan Ph.D. Jones Day   (元記事を見る




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