機密扱いにできるとは言え契約書を政府機関に提出するのは必要最低限にとどめたいところです。しかし、IPRの和解時に提出義務が生じる契約は広範囲に及ぶので、その義務を踏まえて和解交渉と契約書の作成を行う必要があります。
2020年6月11日、PTABは、DTN, LLC v. Farms Technology, LLCにおける2019年の判決を判例としました。この決定は、和解によるIPRの終了を求める際に、35 U.S.C.§317(b)に基づき特許庁に契約書を提出する義務の範囲に関するものです。
同法は以下のように規定されています:
特許権者と申立人との間で行われる合意又は理解は、本項に基づく当事者間審査の終了に関連して、又は本項に基づく当事者間審査の終了を企図して行われる合意又は理解に言及された付随的な合意を含めて、文書でなければならず、そのような合意又は理解の真の写しは、当事者間の当事者間として当事者間審査の終了前に特許庁に提出しなければならない。手続の当事者の要請があった場合,合意又は理解は業務上の機密情報として扱われ,関係する特許のファイルとは別個に保管され,書面による要請があった場合には連邦政府機関にのみ,又は正当な理由がある場合には誰でも利用できるようにするものとする。
35 U.S.C.§317(b)日本語翻訳。35 U.S.C.§317(b)の原文はここをクリック。
DTN v. Farms Technologyにおいて、当事者は和解契約を提出し、当事者間審査の終了を求めました。PTABは和解契約を検討し、和解契約に記載されている2つの契約が法の下で担保契約として提出されていない理由を当事者に質問しました。特許所有者であるFarm Technology, LLCは、問題の2つの契約の当事者ではありませんでした。
当事者は、契約書を提出しなかった2つの理由を提示しました。(1) 契約は特許所有者と申立人の間で締結されたものではないこと、(2) 契約は当事者間審査の終了に関連して締結されたものではないこと、または当事者間審査の終了を意図して締結されたものではないことを主張しました。しかし、PTABはこれらの主張に納得せず、「担保契約は、§317(b)の下で適格となるために和解契約の中で『言及』されていればよく、[問題の2つの契約はその条件を満たしている]」と述べました。PTABはこのようにして提出を要求し、さらに和解合意と2つの担保合意は「業務上の機密情報」として扱われ、文書への公開アクセスが制限されると判決を下しました。
解説
当事者としては、行政機関や裁判所になるべく契約書を提出したくないというのはよくわかります。しかし、義務は義務なので、義務を満たすための最低条件をクリアーすることは必要です。
今回もこのような「必要以外のものは提出しない」という考えのもと起こった事件ですが、判例にもあるようにIPR上の義務は和解契約書に関連する契約書も対象になるので、IPRが継続している間に行われる和解交渉では、「和解」に特化し、別途、コラボレーションや共同開発、購買契約などを結ぶ場合は、可能であれば、IPRが完全に終了し、和解契約を提出したあとに行うことが望ましいです。
しかし、IPRが継続中ということで、レバレッジが効くのであれば、契約書を提出することを前提にして、派生する契約も和解交渉中に議論するべきです。
また、契約書をただ提出するのではなく、ちゃんと契約を機密情報として扱うように申請することも忘れないようにしましょう。
TLCにおける議論
この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: John P. Isacson. Pepper Hamilton LLP(元記事を見る)