審査履歴(Prosecution History)は後のIPR(Inter-Partes Review)や権利行使に大きな影響を与える可能性があります。特に、今回の判例は、審査の過程で主張しなかった点が、後に権利者に不利に働く(珍しい)ケースであり、これは重要な教訓となります。審査時には、将来のリスクも総合的に考慮して、戦略的な主張を行う必要があると言えるでしょう。
判例:Elekta Limited v. Zap Surgical Systems, Inc.
IPRでPTABは自明性があると判断
Elekta社は、放射線治療装置に関する米国特許第7,295,648号(648号特許)を保有しています。この装置は回転可能で、異なる標的部位に放射線を照射できます。この特許に対しZAP社はIPRを申請し、PTABはこれを受理しました。審議の後、PTABは最終決定書において、争われた全てのクレームは自明であると判断。特に、PTABは、(1)回転可能な放射線画像撮影装置と(2)放射線治療装置の組み合わせに対して請求項が自明であると判断しました。
審査の段階で関連技術を区別しなかった事実がIPRの控訴で出願人に不利な状況を作り出す
控訴審でElekta社は、画像処理装置は治療装置のような重い部品を想定しておらず、これらの部品の重量が加わると放射線治療に必要な精度を欠くことになるため、PTABの判断は実質的な証拠に裏付けられていないと主張しました。
しかし、 CAFCはElektaに同意しませんでした。CAFCは、PTABによる結合の動機付けの認定は、「648号特許の審査経過、先行技術の教示、ZAPが提出した専門家の証言を含む」実質的な証拠によって裏付けられているとしました。CAFCは、’648号特許の審査過程において、「画像処理装置に関する特許が引用され、画像処理装置は関連技術ではないという主張に基づいて区別されなかった」と説明しました。
さらに、先行技術は、画像処理装置と放射線源を組み合わせることが好ましいことを教示しており、ZAP社の専門家は、「患者を移動させる必要がなくなり」、「患者の放射線被ばくを低減できる」ことから、当業者であれば、この組み合わせを作る気になったであろうとの見解を示しました。
したがって、CAFCは、組み合わせの動機付けを裏付ける相当な証拠があると判断しました。
成功の合理的な期待は暗示的でありえる
また、Elektaは控訴審で、PTABが成功の合理的な期待(reasonable expectation of success)に関する所見を明示しなかったのは誤りであり、その判断を裏付ける実質的な証拠はないと主張しました。しかし、CAFCは再びElektaに同意しませんでした。
CAFCは、明示的な分析が必要な組み合わせの動機付けの判断とは異なり、「成功の合理的な予期に関する認定は暗黙的であり得る」と述べました。CAFCは、PTABが「(組み合わせの動機など)他の、絡み合った論点」 を分析したことに基づき、成功の合理的期待に関するPTABの暗黙の認定を 「合理的に見分けることができる」と説明しました。CAFCは、成功の合理的な期待の論拠と証拠は、本件の結合の動機についても同じであったため、PTABの決定は実質的な証拠によって裏付けられているとし、従って、CAFCはPTABの自明性判断を支持しました。
参考記事:Prosecution History May Support a Motivation to Combine | Knobbe Martens