最初の原告よりも後にIPR手続き参加した当事者の方が禁反言の範囲が狭い

今回の判決は法律面からは納得いく明確な線引がなされたわけですが、これにより新規にIPRを始めるよりも、既存のIPRに「乗っかる」ことで、後の禁反言のリスクを回避する企業が増えそうです。そうなると、今回の判決はIPR戦略自体に大きな影響を与えるかもしれません。

裁判所は長年315(e)(2)IPR禁反言(IPR Estoppel)の「合理的に提起することができた」(reasonably could have raised)という表現の意味に苦慮してきました。CAFC はまだこの問題について明確な言及はしていません。。しかし、先週、裁判所は、当事者が 315(c)条の下でIPRの申立書に参加する(joinder)場合、何が「合理的に提起された」かについてのガイダンスを提供しました。裁判所の決定に基づき、複数当事者訴訟における共同被告にとって、後に参加する当事者(joinder)はより魅力的な選択肢となる可能性がある。

Network-1 Technologies, Inc. v. Hewlett-Packard Co. では、CAFCは、HPがIPRに参加したことに基づいて、HPが35 U.S.C. 315(e)(2)条に基づき、特定の有効性についての異議を提起することを禁じられるかが判断されました。

2011 年、Network-1 は、HP および Avaya を含む多数の被告を、侵害を理由にテキサス州東部地区で提訴しました。Avaya は、主張されている特許に対して IPR を申請し、審査会は部分的にIPRを開始(partial institution)しました。その後、HP は IPR 申立書を提出し、 Avaya のIPR への参加申立書を提出しました。HP の申立書には、すでに提起されていたものとは異なる理由が含まれていたため、審査会は HP の申立を却下しました。HP はその後、Avaya IPR に参加するための 2 回目の IPR 請願書と申立書を提出しました。そこには既にAvaya IPRで争われている理由のみが含まれていました。審査会は HP の要求を認め、HP は Avaya IPR の当事者として参加しました。その後、IPRの判決は、CAFCで支持しました。

数年後、連邦地裁に戻り、陪審員の評決で特許が無効であると判断された後、Network-1は、有効性に関するJMOL(Judgement as a matter of law)の申し立てを行いました。連邦地裁は Network-1 の申し立てを認め、HP が Avaya IPR に参加していたため、HP は 35 U.S.C. 315 条(e) に基づき、Avaya IPR で「合理的に提起することができた」と判断した自明性への挑戦を地裁で行うことができないと結論付けました。HP はこの判決を控訴しました。

控訴審で HPは、連邦地裁が 315 条(e) に基づく禁反言規定を誤って適用したと主張しました。具体的には、HP は、裁判で提起した有効性の根拠が Avaya IPR への参加を通じて「合理的に提起することができた」ものではないと主張。

CAFCはこれに同意。これにより、CAFC は、315 条(e)を解釈し、初めて Facebook, Inc. v. Windy City Innovationsの判例を変更しました。

Facebook, Inc. v. Windy City Innovations, LLCで我々が行ったように、参加規定は、参加当事者が既に提起されていない新たな根拠を訴訟手続に持ち込むことを認めていない。むしろ、すでに提起されている手続きに当事者として参加することができるだけである。

315 条(e)によれば、当事者はIPR訴訟中に「提起した、又は合理的に提起することができた」根拠に基づ いて、最終決定書において請求項に異議を唱えることを禁じるのみである。参加当事者は、既に提起された理由以外の理由を持ち込むことができないため、参加当事者は他の無効理由を提起することを法律上禁止されていない。

したがって、HP は、315 条(b)に基づく時間的制約に対する参加当事者の例外を利用して Avaya の IPR に Avaya の請願書に既に存在するものと同一の理由で参加し、自ら新たな理由を提起することができなかったため、HP は参加したIPRの申立書に存在する理由を提起することしかできませんでした。したがって、CAFC は、「HP が異議を唱えることを許可することは、Avaya が主張以外を HP は Avaya IPR で提起することができなかったため、HP が特許に異議を唱えるための2度目のチャンスを与えることにはならない」と CAFC は判断しました。

CAFC の Network-1 Technologies の決定は、他の様々な 315 条(e)(2)の禁反言の問題を扱う地方裁判所の指針になるかもしれません。例えば、以前の PTAB 裁判の先行技術出版物に記載された物理的な製品が 315 条(e)(2)の禁反言の対象となるかどうかを巡って、地区では意見が分かれています。申立人は、特許と印刷された出版物からなる先行技術のみを根拠とすることができるので、物理的な製品またはシステムに基づく異議は、PTABで提起することができません。Network-1 Technologiesは、CAFCがこの問題についても禁反言を狭く見ている可能性があることを示しています。この紛争は、来年中に連邦巡回控訴裁判所に提出される予定です。

解説

IPRは特許訴訟における戦略に大きな影響を与えます。今回の判例もその訴訟戦略に関わるものです。

IPRで「合理的に提起することができた」先行例文献や主張を後の地裁で主張させないようにするIPR estoppel (IPR 禁反言)は、IPRの申立人(地裁訴訟の被告人)が2回同じ特許に対して似たような主張をする「後出しジャンケン」のような状態を防ぐ役割があります。

この仕組み自体は平等性の観点や司法リソースの有効活用の観点でも重要です。しかし、どこまでがIPRで「合理的に提起することができた」ものなのかは明確な線引がなされていません。

今回は、すでに進んでいるIPRにあとで参加した当事者(joinder)のIPR禁反言の範囲について言及しています。既存のIPRに参加するには、新しい主張や先行例文献を用いることはできません。そのため、既存の参加するということは、独自の先行例文献や主張を「諦める」ことを意味します。

今回の判例では、後の知財における訴訟で、既存のIPRに参加した当事者(joinder)のIPR 禁反言の定期範囲が、実際にIPRで審議された主張や先行例文献にのみ適用されることが明確になりました。

これにより、IPRのJoinderは、後日起こる可能性のある訴訟においても、315(e)(2)IPR禁反言(IPR Estoppel)の「合理的に提起することができた」先行例文献や主張に悩まされることなく、比較的自由に独自の主張を行うことができます。

今回の判例は、IPRのjoinderに有利な判決です。そのため、今後IPR戦略として、あえて他社がIPRを申立するのを待って、既存のIPRに参加するような戦略が一般的になるかもしれません。そうなると、最初にIPRをやった企業が「損」をする形になる可能性もあるので、今後のIPRの活用に変化が見られるかもしれません。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP(元記事を見る

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