取り下げられた訴訟に関する特許でもIPRを提出できる期限は1年間

IPRは、35 U.S.C. § 315(b)により、IPR挑戦者が訴えられた訴訟から1年以内に行わなければなりません。この「訴訟」には、取り下げられた訴訟も含まれます。

IPRは特許訴訟の対抗手段としてよく使われます。訴訟の被告人が、IPRの挑戦者(Petitioner)として訴訟に関する特許をPTABで無効にするという作戦です。しかし、IPRの提出には期限があるので、その条件を満たしている必要があります。特許訴訟に関わる当事者であれば、IPRの提出期限についての知識は、訴訟を有利にするために必須のものです。

今回のBennett Regulator Guards, Inc. v. Atlanta Gas Light Companyでは、35 U.S.C. § 315(b)が適用される「訴訟」の範囲が問題になりました。特に、IPRの挑戦者であるAtlanta Gas Light Companyが過去の訴訟経緯から35 U.S.C. § 315(b)の条件を満たしているかが問題になりました。

この問題は、2012年特許権者のBennettがAtlantaを特許訴訟で訴えることから始まります。この訴訟で、被告人のAtlanta Gasは訴状を取り下げることに成功し、訴訟は幕を閉めました。 その3年後の2015年、 Atlanta Gasは訴訟で対象になった特許に対してIPRを申し立てます。これに対し、特許権者のBennettは訴訟から3年経っていることを理由に§ 315(b)が満たされていないと主張しました。

PTABでは、訴訟は地裁が取り下げたので、35 U.S.C. § 315(b)で対象となっている「訴訟」には当てはまらないとして、IPRを開始し、特許を無効と判断。

しかし、CAFCは、PTABの判決を覆し、取り下げられてた訴訟でも35 U.S.C. § 315(b)の対象になるので、今回の案件に対してIPRの提出制限が適用されるべきであり、IPRは取り下げられるべきであるという判決を下しました。

この判決でCAFCは、35 U.S.C. § 315(b)の適用には例外はないという解釈をしたので、過去に訴訟になった特許は1年以内にIPRが行われない限り、IPRが行われるリスクは少ないといえるでしょう。

元記事著者の1人であるAshley Morales弁護士は、医療系の機械などを専門とする医療、バイオ、機械を得意とする弁護士です。学位は化学と政治学なので、化学の知識を使ってバイオ、医療系に携わり、その後、機械などについては実務で知識を得たのだと思います。

IPRの提出期限についてはいくつか取り扱ってきましたが、35 U.S.C. § 315(b)に書かれている訴訟から1年という期間に今のところ例外はありません。SAS判決のあと、IPRの仕事量が多くなったPTABにとってはうれしいことで、このまま例外なしが通例になってくると思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Ashley Morales and Andrea Cheek. Knobbe Martens (元記事を見る



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