PTOがガイドラインを発行: 出願人が認めた先行技術はIPRの基礎にはならない

明細書内の背景の説明などで出願人が特定の事柄を先行技術として認めることがあります。今回のガイドラインでそれ自体はIPRにおける特許のチャレンジのベースにはならないことは明確になったのですが、自明性の主張の際に、出願人が認めた先行技術が特許権者に不利な形で活用される場合があるので、出願時に先行技術についての説明は必要最低限にとどめるべきでしょう。

合衆国法律集第 35 編第 311 条(b)の下では、IPR(Inter partes review. 当事者系レビュー)は特許と印刷された出版物に「基づいて」のみ提起されるとされています。しかし、時折、申立人が「出願人が認めた先行技術」(applicant admitted prior art)として特許の明細書の記述に依拠し、その先行技術を単独で、または他の文献と組み合わせて申立書の根拠に含めることがあります。

2020年8月18日、PTOは、出願人が認めた先行技術をどのように扱うべきかについてのガイドラインを公表し、「特許または印刷出版物からなる先行技術」には該当しないが、より限定的な目的のために審査会が考慮することができる証拠の範疇に入ると判断しました。

再審査(reexamination )の文脈では、PTOは、出願人が認めた先行技術を再審査の基礎とすることを認めていないが、他の先行技術特許や印刷出版物と組み合わせて使用することを認めています。これと一致するように、審査会のIPRパネルの大多数は、異議のある特許の明細書に記載された出願人が認めた先行技術は、単独でIPRの基礎となる先行技術特許にはならないと判断しています。しかし、いくつかのパネルは、出願人が認めた先行技術のみに基づいて審理を開始しました。また、他のパネルは、他の先行技術特許や印刷された出版物との併用を認めています。今回のPTOガイドラインは、この混乱を解決するために発行されました。

PTOは、特許はそれ自体が先行技術であることはできず、したがって、IPRで争われる特許はIPRの基礎となる先行技術特許であることはできないと結論付けました。したがって、出願人が認めた先行技術を単独でIPRの根拠とすることはできないとしています。しかし、特許の明細書の記載は、適切な自明性分析の基礎となる、当該技術における通常の熟練者の一般的知識の証拠として使用することができます。例として、技術に熟練した者の一般的知識は、先行技術では一般的に知られていたが欠落していた請求項の制限を提供したり、参照文献を組み合わせる動機を提供したり、発明当時の技術に熟練した者の知識を証明するために使用することができます。

本ガイドラインは、特許異議申立人が申立理由書を作成する際に使用するための有用な明確さを提供します。

解説

今回のガイドラインで、明細書内のBackgroundの部分などに書かれてる発明部分ではない先行技術に言及している部分のIPRにおける取り扱いが明確になりました。

特許明細書の作成のコツとして、Backgroundの部分は最小限に抑え、問題定義をする場合も一般的な内容に抑えるということが語られることがありますが、理由は「出願人が認めた先行技術」(applicant admitted prior art)として扱われるかもしれないというリスクがあるためです。

今回のガイドラインで、IPRでチャレンジされている特許自体が先行例文献になることはあり得ないというロジックの元、明細書内で「出願人が認めた先行技術」(applicant admitted prior art)があったとしても、それが35 USC 311 (b)にて明記されている特許と印刷された出版物にはならないことが明記されました。つまり、申立人は「出願人が認めた先行技術」をベースにIPRで特許を無効にすることはできないのですが、自明性に関する分析では、「出願人が認めた先行技術」が影響を与える可能性があります。

今回のガイドラインでは、当該技術における通常の熟練者の一般的知識の証拠として「出願人が認めた先行技術」を使用することが認められています。わかりやすく説明すると、A+Bという合わせ技で自明性の主張をおこなう場合、主張の根幹となるAは35 USC 311 (b)にて明記されている特許と印刷された出版物でなければいけないのですが、A+Bの足し算の部分の動機付けに「出願人が認めた先行技術」を活用したり、また、Aに足りていない部分であるBを「出願人が認めた先行技術」を用いて示すこともできます。

出願人としては、IPRで特許の有効性が争われること、そして、IPRでどのような先行例文献が提出されるかは自分のコントロール下にはありませんが、出願時にどのような明細書を作成するかは自分で決めることができます。「出願人が認めた先行技術」は、出願人の意識次第でどうにでもコントロールすることができます。

今回のガイドラインを見ても、明細書内で「出願人が認めた先行技術」を必要以上に語る必要はないです。このように、「出願人が認めた先行技術」はIPRで間接的とは言え問題を起こす可能性があるので、明細書を作成する際は、なるべく「出願人が認めた先行技術」と認識されるような表現は避けて、必要最低限の背景の説明にとどめておくべきでしょう。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Lisa M. Mandrusiak. Oblon(元記事を見る

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