以前お伝えしたIPRにおける大規模なクレーム補正改正ですが、具体的な案がUSPTOから発表されました。これから公からのコメント期間を得て、ルール化される予定です。
このクレーム補正のルール改正は、CBMなどのAIA関連のPost Grant手続きに適用されますが、IPRの方が圧倒的に使われる機会が多いので、IPRに注目して特許庁から公開されたクレーム補正改正案を詳しく見ていきたいと思います。
今後、IPRを検討している企業や今特許訴訟リスクを抱えている企業はこのルール変更がどうなるか知っておくことが重要です。特に、クレーム補正手続きはIPRの比較的早い段階から始まるので、事前準備が必要です。
クレーム補正改正案
改正案では、Institution decision(IPRを開始するか否かの判断)が下ってから、1.5ヶ月以内に特許権者がinitial motion to amendという書類を提出することで、クレーム補正に関する手続きを始めることができます。Petitionerはこのmotion to amendが提出されてから1.5ヶ月以内に反対意見を提出することができます。両者の主張を元に、反対意見が提出されてから1ヶ月以内に、PTABはクレーム補正に対してpreliminary decisionを行います。
このpreliminary decisionで、PTABはクレーム補正が法律や規定の条件を満たしているかを確認し、提出された先行例から提案されたクレーム補正に特許性があるかを評価します。このpreliminary decisionはPTABから下されますが、拘束力(Binding)はないので、IPR手続きの最後に下されるfinal written decisionでPTABの見解が変わる可能性があります。また、クレーム補正の際に用いた証人の反対尋問(cross-examinations )はpreliminary decisionの後におこなわれるため、preliminary decisionで自社に有利な判決が下っても、final written decisionで変わる可能性があるので油断はできません。
このpreliminary decisionの後、2つの異なる手続きが想定されています。1つ目は、preliminary decisionにおいて、PTABがクレーム補正を却下する場合の手続きです。これは、PTABがクレーム補正が法律や規定の条件を満たしていない、または、クレーム補正には特許性がないと判断した場合、または、Petitionerがクレーム補正の非特許性を証明できる可能性が高いと判断された場合におこなわれます。
このような場合、preliminary decisionの後、特許権者は、PTABのpreliminary decisionに対する意見書を提出するか、preliminary decisionに対応するクレーム補正を提案することができます。もしこの時点で、特許権者がpreliminary decisionに対する意見書を提出した場合、Petitioner はその意見書に対する反論をおこなうことができます。
もしこの時点で、特許権者が新たなクレーム補正を提案した場合、Petitioner はその補正案に対する反論をおこなうことができます。その後、特許権者、Petitioner にもう一回ずつ主張する機会が与えられて手続きは終了します。
2つ目は、1つ目と反対の状況、つまりpreliminary decisionにおいて、PTABがクレーム補正を許可する意向がある場合の手続きです。これは、PTABがクレーム補正が法律や規定の条件を満たしていて、クレーム補正には特許性があると判断し、また、Petitionerがクレーム補正の非特許性を証明できる可能性が低いと判断された場合におこなわれます。
このような場合、preliminary decisionの後に動く順番が変わり、PetitionerがPTABのpreliminary decisionに対する意見書を提出することができます。その後、特許権者がその意見書に対する反論をおこない、手続きが終了します。
しかし、このクレーム補正案でも不透明な部分があります。例えば、クレーム補正の(非)特許性を証明する責任です。Western Digital Corp. v. SPEX Techs., Inc.という判例では、クレーム補正に対する非特許性を証明する責任はまずPetitionerにあるとしています。しかし、同じ判例で、PTABが提出された証拠を元に独自に非特許性を是正することもできると書かれています。
この判例から、どのような状況下でPTABが独自に非特許性を判断するべきか?また、提案されているクレーム補正手続きを採用するとWestern Digitalで示された証明責任の割り当てにどのような影響をもたらすのか?など不明瞭な点があり、USPTOはこのような点について公の意見を求めています。
公の意見書提出期限が12月14日なので、その後比較的短い期間をおいて、クレーム補正改正案を採用するパイロットプログラムが始まることが予想されています。
これが現在提案されているIPRにおけるクレーム補正改正案の大まかな流れです。個人的には、Preliminary decisionの後にもクレーム補正ができたり、意見書を提出してさらなる主張ができるところが面白い点だと思います。Preliminary decisionに拘束力はないので、final written decisionでPTABの見解が変わる可能性は大いにありますね。クレーム補正手続き改正後の統計データが楽しみです。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: David W. Higer and Adam Schlosser. Drinker Biddle & Reath LLP (元記事を見る)