和解の成立タイミングはとても重要

和解が成立した時点で、たとえ和解後に行わなければいけない事柄があったとしても、訴訟自体に法的な重要性がなくなるということが今回の判例で明確になりました。訴訟の和解は重要な判決が下る直前に結ばれることがよくあるので、この判例は今後の和解戦略を考えるのに重要な判決になるでしょう。

Serta Simmons Bedding, LLC v. Casper Sleep Inc., __ F.3d __, 2020 WL 717771 (Fed. Cir. Feb. 13, 2020) (DYK, Plager, Stoll) (S.D.N.Y.: Hellerstein)

事実背景

和解したものの裁判が続行

SertaはCasperを特許侵害で訴えます。その後、当事者間の和解が成立し、和解契約書を作成され、訴訟を破棄するまでの間、訴訟を一時停止(Stay)するように裁判所に申し立てを行いました。

しかし、そのような一時停止の申し立てがあるにも関わらず、地裁はペンディングしていた被告人であるCasperの特許非侵害に関する簡略裁判(summary judgment)を認めます。

和解契約書があるにもかかわらず

和解契約書には、和解契約の成立後に行わなければいけないもの(future performance)があり、それには、Casperにより現金の支払い、訴訟の放棄手続き書類の提出、そして、実際の訴訟法規の完了などが含まれていました。

しかし、被告人のCasperは簡略裁判で非侵害を勝ち取ったからか、現金の支払いを拒絶。Sertaは対抗して、地裁に和解契約書の行使を強制するように求めますが、地裁はその申し立てを却下。地裁は、和解がなされたものの、和解契約の成立後に行わなければいけないもの(future performance)があるため、訴訟自体は法的に重要性がないということではない(not moot)であったとし、和解後に行われた簡略裁判を是正したあとで、すでにこの訴訟に関しては最終的な判決(final judgement)が行われた(特許非侵害に関する簡略裁判)ので、地裁に契約を強制する権限(管轄)はないという理由を述べました。Sertaはこの地裁の判決を不服とし、CAFCに上訴。

上訴で地裁の判決が覆る

CAFCは地裁の簡略裁判(summary judgment)を無効にしました。その理由として、CAFCは、拘束力のある和解契約は、成立後に行わなければいけないもの(future performance)があったとしても有効であり、その時点で訴訟自体に法的な重要性がなくなる(moot)と述べました。裁判所は、公共政策に反するなどの特殊な場合にそのような契約書の実施を拒否できる場合があるが、今回の和解契約書にはそのような問題はなかったとしました。よって、CAFCは契約書は有効であり、当事者が和解契約を結んだ段階で、訴訟案件は法的な重要性がなくなっていた(moot)としました。

また、原告のSertaが被告人のCasperに求めていた和解金に関する和解契約の行使についてですが、CAFCは案件が取り下げられる前に行使の申し立てがあれば、裁判所は和解契約書を行使する管轄を持っているとし、CAFCは地裁に差し戻しの際に契約書の行使を行いよう指示しました。

まとめ

アメリカにおける大部分の民事は和解で幕を閉じます。それは特許侵害訴訟でも例外ではありません。また、和解をするタイミングも重要で、不適切ではあったものの、今回のような和解した直後に重要な判決が下ってしまうと、上訴などの余分なコストや先行きの不透明さなどの訴訟リスクを負うことにもなりかねません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Brooke M. Wilner, Samhitha Muralidhar Medatia and Elizabeth D. Ferrill. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner LLP(元記事を見る

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