特許の審査中にすでに考慮された文献や主張をIPRで考慮してもらう方法

通常、すでに特許の審査中に考慮された文献や主張をIPRで行うことは賢くありません。というのも、すでに審査官によって考慮された文献や主張は「特許庁による重大な誤り」を指摘できない限りIPRの審査開始が拒絶されてしまうからです。しかし、今回のように同時進行していたIPRにおいて、関連特許が無効になり、その情報を考慮したにも関わらず、明確な理由が明記されないまま、審査中の特許が許可されたという矛盾があるような場合、審査官の「重大な誤り」を指摘できる可能性があり、すでに特許の審査中に考慮された文献や主張であっても、IPRの審査を開始できる可能性があります。

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2023年8月24日、USPTOのKathi Vidal局長は、Keysight Technologies, Inc. v. Centripetal Networks, Inc. 事件において、当事者間レビュー(IPR)の実施を拒否したPTAB決定を取り消し、更なる手続きのために本件を差し戻しました。IPR2022-01421, Paper 14 (Aug. 24, 2023)

特許庁が以前に検討した文献であってもIPRの手続きは行える?

本案件は、「パケットネットワークにおけるルールスワップ」に関する特許第 10,681,009 B2 号(以下、 「’009 号特許」)がIPRの対象になり、Keysight Technologies, Inc.(以下「申立人」)が、’009号特許のクレーム1~30は自明性により無効であるとして、IPRの実施を申し立てました。Centripetal Networks, Inc.(以下、「被申立人」)は、申立人が引用した同じ文献と論点は、特許庁が以前に検討したものであり、申立人は、異議申立されたクレームの特許性に重大な影響を与える方法(a manner material to the patentability of the challenged claims)で特許庁が誤ったことを示さなかったため、PTABは裁量権を行使して申立てを却下すべきであると主張していました。

2023年3月22日、PTABは、35 U.S.C. § 325(d)に基づくIPRの審査開始を拒絶し、被申立人の意見に同意し、「Petitioner did not plead material error(申立人は重大な誤りを主張していない)」、そして、「申立人の主張は、’148特許に関するFinal Written Decision(「FWD」)で認定されたものと同一又は実質的に同一であった」と認定しました。申立人は、Precedential Opinion Panelによる再審査を請求し、Vidal 長官は、2023 年 7 月 20 日、Director Review の Interim process, Section 8, 10, and 22 に基づき、自発的レビューを命じました。従って、Precedential Opinion Panelは、申立人の請求を棄却しました。

権利化における審査で「重大な誤りが示されない限り」審査官の判断は強く尊重される

35 U.S.C. § 325(d)は、審査開始の申立てを却下する裁量を長官とPTABに与えており、「同一または実質的に同一の先行技術または論拠が以前に特許庁に提示されたか否かを考慮し、申立てまたは請求を却下することができる」と明記しています。この裁量は、2段階の枠組みによって導かれます。Advanced Bionics, LLC v. MED-EL Elektromedizinische Geräte GmbH, IPR2019-01469, Paper 6 (PTAB Feb. 13, 2020).

まず、同一又は実質的に同一の先行技術又は主張が、以前に特許庁に提示されたか否かを問います。ステップ1のいずれかの条件を満たす場合、PTABは、申立人が、異議申立されたクレームの特許性に重要な点において特許庁が誤ったことを証明したか否かを問います。このAdvanced Bionics事件によって示された枠組みは、「重大な誤りが示されない限り」(unless material error is shown)審査官の判断を強く尊重することを反映しています。

出願中に同時進行していた関連特許のIPRにおける最終決定書が鍵に

本件において、長官は、Advanced Bionicsのテストのステップ1に対するPTABの適用には同意しましたが、第2部に対するPTABの適用には同意せず、特許性に重要な点において特許庁が誤った判断をしたことを指摘しました。

今回のIPRで問題になっている’009特許ですが、その特許出願の審査中に、被申立人(つまり特許権者)は、関連する米国特許第9,674,148号(「’148特許」)に関するIPRの最終決定書(FWD)をIDSとして提出していました。’009特許と’148特許は関連特許で、’009特許は’148特許の継続出願でした。また、被申立人は、特に’148 特許を記載したterminal disclaimerも提出しました。

これらを受け、審査官は、先行技術は’009特許に記載された要素の組み合わせを教示していないとする訂正された許可通知(Corrected Notice of Allowability)を発行しました。審査官の許可通知の内容は、すでにIPRでチャレンジされ最終決定書(FWD)が出された’148特許、および、今回IPRで新しくチャレンジされた’009特許に共通するクレームに記載された限定事項に関するものでした。 

関連特許である’148特許のIPRにおける最終決定書(FWD)では、’148号特許のクレームは先行技術文献に対して特許性がないと判断されていました。IPR2018-01454 を参照のこと。これらの文献は、今回、’009特許の無効理由に対して主張されたものと同じでした。

このような事実を考慮し、自発的レビューにおいて、長官は、まずはAdvanced Bionicsのステップ2に基づき、申立人の引用証拠は、‘009特許に記載された主題と申立人の自明性の主張で引用された先行技術との「実質的な重複」があることを認めます。

関連特許がIPRで無効になったにも関わらず、その情報を考慮した上で審査中の特許が許可されるという矛盾が重視される

しかし、長官は、「今回の係争クレームの文言と関連する’148特許の係争クレームの文言には若干の相違点」があることを指摘し、また、当時同時進行していた’148特許のIPRの最終決定書(FWD)における無効理由を受け、被申立人(特許権者)が、まだ審査中であった’009特許のクレームを’148特許とは差別化する形で作成していたということにも注目しました。

そこで、長官は、IPRの最終決定書(FWD)において無効と判断された’148特許と共通する限定があるにも関わらず、当時、その最終決定書(FWD)をIDSとして考慮した審査官が、許可理由において、’009特許にのみ見られる追加の限定には言及していないことに注目しました。

これらを総合的に判断した結果、両特許は重複しているため、長官は、審査官が’009特許の特許性に関する’148特許の重要性を見落としたのは誤りであると判断しました。したがって、長官は、審査官が、’148特許のIPRにおける最終決定書(FWD)を「誤認または看過」(“misapprehending or overlooking”)したことにより、’009特許の争点となったクレームの特許性に重要な誤りを犯したと結論付けました。

長官は、自身の判断は本案に関する最終的な判断ではないと説明し、その代わりに、長官は、’148特許の最終決定書(FWD)と本件の文献の間に重要な重複があることを認定することに限定して、「IPRの開始を却下する(長官の)§325(d)の裁量を行使することは困難である」と述べるに留まりました。

また、審査官が’148特許の最終決定書(FWD)が’009特許の特許性に影響を与えない理由について明確な説明をしなかったことも、長官の判断に影響を与えたようです。長官は、35 U.S.C. § 314(a)の合理的な成功の可能性の基準(the reasonable likelihood of success standard)で、申立人が成功するかどうかを判断するために、申立人のメリットを評価するように指示を与えて差し戻しました。

要点 

特許出願人は、既に所有している特許に関するPTABで同時進行されている手続きに注意すべきです。今回の長官の意見書から、特許権者は、自己の特許について許可通知が間もなく発行されることを予期している場合、自己が審査中の特許のクレームに記載されている追加的な限定について審査官とコミュニケーションを取るべきでしょう。また、審査官による審査している出願に他の関連する決定が適用されない理由を示す説明がないことは、後に審査官がクレームされた発明の特許性に重要な点で誤ったという判断の根拠となる可能性があります。

参考記事:Limitations Absent from a Notice of Allowability May be Material – PTAB Litigation Blog

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