意識的に売り出しの事実を隠したことがinequitable conductとして扱われる

特許出願の際に、売り出しをした事実が許されている期間よりも前にあったにも関わらずその事実を特許庁に開示せず隠していると、inequitable conductとして扱われ、その特許だけでなすファミリーもすべて権利行使不能になってしまうリスクがあります。

今回取り上げた判例: GS CleanTech Corp. v. Adkins Energy (Fed. Cir. 2020)

事実背景:

この案件の事実背景を細かく見ると長く複雑なので、要点だけ絞って話します。詳しくは判例を参照してください。

出願の1年以上前に売り出し(offer for sale

2003年8月1日、CleanTechがAgri-Energyにethanol processing system を売り出します(offer for sale)。このオファーは60日のトライアルでした。このトライアルのあと、Agri-Energyはシステムを購入するか返却するかを選べるというものでした。

事実が開示されずに偽りの情報が与えられ権利化へ

CleanTechは、このオファーを特許明細書を担当した代理人に開示せず、2004年8月17日にオファーの対象になっていたシステムに関する特許を出願します。その後の特許出願で、CleanTechは2003年8月18日にAgri-Energyにオファーを提示したことを宣誓しました。

ここでのポイントは、CleanTechはオファーがあった時事とは認めていますが、実際にオファーをした2003年8月1日ではなく、17日後で出願日から遡って1年以内になる2003年8月18日にオファーをしたという偽りの情報が宣誓書に書かれているところです。(出願から遡って1年以内のオファーであったら猶予期間内で問題性はなし。)

CleanTechの代理人は、現に2003年8月1日にAgri-Energyに提示されたオファーのEmailのコピーを持っていたにもかかわらず、そのクライアントの宣誓書に対して何も質問をしませんでした。その後、特許庁はCleanTechにethanol processing systemに関する複数の特許を与えました。

訴訟で出願から1年以上前の売り出しが指摘される

その後の特許侵害訴訟で、地裁は問題となっているオファーは商用の売り出し(commercial offer for sale)であり、問題となっている特許に関わるシステムは2003年の8月時点ですでに特許出願ができる状態にあったとしました。

この問題はCAFCに上訴されましたが、CAFCは地裁の判決は正しかったとし、さらに、権利化の際に、CleanTech とその代理人は inequitable conduct を犯したとしました。CAFCは、CleanTechがオファーを特許庁に開示しなかった際に法律で定められたon-sale bar (statutory on-sale bar)を知っており、さらに、USPTOに対して偽りの情報を宣誓書で開示した(実際にオファーをした200381日ではなく、17日後で出願日から遡って1年以内になる2003818日にオファーをしたという偽りの情報)ことを重く見ました。また、特許権者のCleanTechだけでなく、CleanTechの虚偽の宣誓を確認ぜず、訂正しなかったとして、CleanTechの代理人もinequitable conduct を犯したとしました。

Inequitable conductの影響はすさまじい

アメリカにおけるinequitable conductの影響は大きく、inequitable conductに関連するクレームだけでなく、すべてのクレームが権利行使不可(unenforceable)になり、1つの特許だけでなく、関連する特許ファミリーも権利行使不可になる可能性があります。

代理事務所のイメージ

今回取り上げた記事では、事務所名や担当者名を名指しにしないで「代理人」という代名詞が使われていましたが、他の記事ではこの件に関して事務所名が名指しされているし、もちろん判例には関わった弁護士名も記載されています。

このような情報は検索してもあまり表には出てきませんが、近年のソーシャルメディアの普及に伴い、このようなネガティブな内容が競合事務所のネガティブキャンペーンや裏アカで使われてもおかしくない時代です。

特許事務所は信用が大切です。しかし、そのような信頼は結構簡単になくなってしまいます。今回のようなミスは誰にでも起こりえることです。しかし、それが公の場に一回出てしまうと、今まではあまり広まらずに自然に沈静化できていたものの、SNSの普及によりそれが逆にエスカレートして炎上してしまうということにもなりかねません。

今回の件で担当事務所の仕事がなくなるという訳ではありませんが、特許事務所も炎上を未然に防ぐためのSNS活動やPR活動を行っていく必要があるのかもしれません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Brok S. Humbert, Mark Kachner and Paul Stewart. Knobbe Martens(元記事を見る

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