Standard-essential patents (“SEPs”) が関わる特許訴訟が増えてきています。これは、SEP特有の実装者(implementers)による効率的な侵害(efficient infringement)の対策としてSEP特許権者が複数の国で訴訟を起こすようになってきたことが背景にあります。
効率的な侵害(efficient infringement)とは?
実際に規格必須特許(Standard-essential patents (“SEPs”))を実施しているにも関わらず、SEPの特許ライセンスを拒む実装者(implementers)による特許侵害のことを言います。
このような侵害が起こる要因には、実装者が、たとえSEPの侵害があったとしても、他のライセンシーと同じようにfair, reasonable and nondiscriminatory (“FRAND”) レートでライセンスを受ければいいという発想にあります。つまり、ライセンスを受ける場合、経緯がどうであれFRANDレートを支払うのであれば、ライセンス交渉をできるだけ難しくした方がいいのでは?という考えになるわけです。
このような考え方をする実装者がいると、無断でSEPを使い、SEP特許権者がライセンス交渉をしようとしても誠意的に応じないということがよくあります。この状態が、効率的な侵害(efficient infringement)というわけです。
SEP特許権利行使の難しさ
SEPに関する訴訟は多くなっていますが、訴訟の結果には大きなばらつきがあります。例えば、差し止めの許可、損害賠償の計算方法など、国ごとに大きな差があり、場合によっては、同じ国の中でも違いがあります。
このように国によって差があると、権利行使も難しくなってきます。今日、1つの管轄におけるSEP特許の権利行使だけで、グローバルなライセンス契約に至ることは難しい状況になっています。また、複数の国際的な管轄で権利行使をするということは国ごとの制度や考え方の違いから大きな混乱んを招きかねません。そのため、SEP特許権者が効率的な侵害に対する対策を取るのがとても難しい環境にあります。
アメリカ、ヨーロッパ、アジア
複数の国際的な管轄で権利行使をする場合、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3箇所で権利行使を行うことで、効率的な侵害への効果的な対策が取れます。
アメリカのITC
ITCは比較的短期間で判決まで手続きが進むことにより、IPRが実質できないため、SEP権利者に好まれます。ITCでは侵害品のアメリカへの輸入禁止の差し止めができるので、ライセンス交渉に応じない実装者を半ば強制的に交渉の場に連れ出すのに効果的です。
連邦地裁
アメリカの連邦地裁における特許訴訟も、TCL v. Ericssonでは、判事がアメリカ、ヨーローッパ、その他の地域における各種のロイヤリティレートを決めるなど、本来の管轄であるアメリカを超えた範囲でのレート設定なども行っていて画期的です。
このように、1つの国における訴訟で、他の国や地域におけるレートを定めてくれれば、複数の国際的な管轄で権利行使をする必要がなくなるので、SEP権利者にとってはとても魅力的です。
しかし一方で、アメリカでは、過去の判例で地裁では差し止めが得られにくくなり、宣言的判断(declaratory judgment actions または DJ action)のリスクが高くなり、特許消尽解釈の拡大があり、ソフトウェア特許の有効性が問題視される傾向にあります。
アメリカだけでは不十分?
このように、今日の状況では、アメリカでさえも、1つの管轄のみで権利行使を行っても効率的な侵害に対して効率的な対策が取れにくくなっています。
そのため、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3つの国際的な管轄における権利行使を考える必要があります。国や地域におけるSEP特許やFRANDレートに対する考え方や判例に違いはあります。しかし、効率的なSEPライセンスを行うには、それぞれの特徴を十分理解した上で、グローバルなSEP権利行使を行っていく必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Michael T. Renaud, James Wodarski and Matthew S. Galica. Mintz (元記事を見る)